読解・ブライダル市場⑦〜ヒューマンスキル

この記事の概要|読了目安:約18分
本ブログは、弊社代表・高橋がかつて婚礼施設で実施したセミナーの内容を書き直したものです。婚礼施設の責任者とウエディングプランナーに向けた全7回の連載「ブライダル市場を読み解く」の最終回として、ヒューマンスキルを扱います。
ロジカルシンキングの土台となる三角ロジック、自分も相手も大切にするアサーション、顧客タイプの見分け方、お客様に話していただくためのスキル、ニーズとウォンツの発見、そしてクロージングまでをお届けします。
本シリーズの全7回構成
- 第1回|ブライダル市場の現在地(マーケティングとは何か)
- 第2回|来館前に勝負はついている(会場決定の動向と必要条件・十分条件)
- 第3回|会場カテゴリーと挙式スタイル
- 第4回|会場の利益構造とプラン設計
- 第5回|ブライダルフェアの設計と新規接客の流れ
- 第6回|主体商品と付帯商品の知識
- 第7回|ヒューマンスキル
ヒューマンスキルとは何でしょうか
第6回で、知識は自信につながり、それが信頼につながるという話をしました。今回はその知識を、どう相手に届けるかという話です。
ヒューマンスキルとは、コミュニケーションスキル、すなわち情報交換技術のことです。
そしてこれは、感覚や人柄の話ではありません。ロジカルシンキングと、それに基づく分析が必要なスキルです。
話が上手い人が優れているのではなく、筋道を立てて考え、相手に合わせて伝えられる人が優れている。そう捉えると、身につけ方が見えてきます。
三角ロジック
ロジカルシンキングの土台になるのが、三角ロジックです。トゥールミンモデルとも呼ばれます。
主張、データ、論拠の3つで構成されます。
| 要素 | 役割 |
|---|---|
| 主張 | 私の考えはこうである、こうすべきだ |
| データ | 事実、このようなデータがある |
| 論拠 | なぜなら、〜だからである |
この3つが揃ってはじめて、主張が成り立ちます。データだけでは主張になりませんし、論拠がなければデータと主張がつながりません。
練習してみましょう
実際に組み立ててみます。
主張は「幽霊は実在する」。データは「イチローが見た」。論拠は「イチローは正直者だ」です。
ここで、論拠が弱いことに気づきます。イチローが正直者であることは、まだ証明されていません。
そこで、論拠そのものを次の主張として組み直します。主張は「イチローは正直者だ」、データは「嘘をつくのを見たことがない」、論拠は「友人みんながそう言っている」。
これが三角ロジックの使い方です。弱いところを見つけたら、それ自体を主張として分解していく。この作業を繰り返すことで、主張の筋が通っていきます。
ヒアリングで使ってみましょう
接客の場面に置き換えます。
主張は「絶対に当チャペルを一番気に入っている」。データは「内覧時に今までで一番と言っていた」。論拠は「この新婦はチャペル重視である」となります。
第5回で、聴くことに8割を使うという話をしました。聴いたことをこの形に整理すると、思い込みなのか、根拠のある読みなのかが自分でわかります。
論拠が弱ければ、次のヒアリングで確かめればよい。そう考えられるようになります。
アサーション
次はアサーションです。日本語にすると主張のことを指します。
自分の感じていることや気持ち、考えなどを、自分も相手も共に大切にし、誠実かつ率直に伝えていくことです。自己表現を確立し、相手も自分も対等に大切にすること、と言い換えられます。
3つのコミュニケーションタイプ
アサーティブは、自分のことをまず考えるが、他者も自分と同じように配慮する型です。誰とでも本音で明るいコミュニケーションができ、職場でも信頼されます。
アグレッシブは自分第一で、攻撃的で威圧的な型です。言いすぎたり攻撃的になりやすいのですが、その背景には承認欲求の強さがあります。自己中心さを改め、苛立ちや怒りを抑えて自己主張をしなければ、同じ失敗を繰り返します。
ノン・アサーティブは他者優先で、自分のことは後回しにする非主張的な型です。一見すると配慮型に見えますが、本音を押し殺しているだけで、無意識に恩着せがましい態度に出たり、欲求不満が募って恨みを持つことがあります。
この型の人は、まず自分にもアサーションの権利があることに気づくところから始まります。自分と正直に向き合い、相手によらず自分を出す努力が大切です。
アサーティブになる5つのポイント
- 自分の正直な気持ちに気づく
- 自分の正直な気持ちを大切にし、ごまかしたり否定したりしない
- 自分と相手は対等な関係であることをしっかり認識しておく
- 伝えたいことを屈折させずに表現する
- 表現したことについて、自分を責めたり不愉快になったりしない
あなたはどの型でしょうか
待ち合わせに相手が10分遅れてきた場面で考えてみてください。
| 型 | 出てくる言葉 |
|---|---|
| アサーティブ | 何かあったの。事前にLINEや電話をもらえるとありがたかったよ |
| アグレッシブ | なんだよ、10分も待たせるなんて。いい加減にしろよ |
| ノン・アサーティブ | (平静を装いながら)こんにちは |
アサーティブな言い方は、遅れたことへの困りごとを伝えたうえで、相手を責めていません。要望も具体的です。
顧客タイプの分類
お客様は、性格によっていくつかに分類することができます。
重要なのは、顧客タイプによって最適なセールストークを展開できることです。
お客様は自分に合わせてくれません。自分がお客様に合わせるカメレオンスキルが重要です。
友好型
良好な人間関係を構築してから本論を話したいというタイプです。一般的にもっとも接しやすい顧客タイプといえます。
一度信頼関係を築けば、なかなか崩れることがありません。本当に信頼関係を構築できれば、新規来館時に見積書の作成をしなくても決定に至ることがあります。
ただし注意が必要です。プランナーはつい決定を予想して安心しがちですが、考えていることと言動が異なる場合が多いタイプでもあります。本音を引き出し、ウォンツを明確にして問題解決をしないことには、決定には結びつきません。
分析型
正確で詳細な知識を体系的に説明されることを望んでいるタイプです。資料やデータ、数字を重視します。せっかちで無駄が嫌い、クールでやや神経質で、ジョークはあまり言いません。
ロジックを重視した説明と、ポイントとなる資料の提示によって、プランナーへの信頼度が上がります。このタイプにはアイスブレイクはほとんど不要です。
注意点は、不確かなことや曖昧なことを言うと信頼を失うということです。たぶん、〜くらいだと思う、といった曖昧な表現は厳禁で、説明は根拠を示しつつ明確に行う必要があります。
第6回で商品知識を扱いましたが、それが効いてくるのはこのタイプです。
非友好型
プランナーの説明を理解しているのかどうかすらわからず、本心もつかめないタイプです。将来的には分析型か友好型に変化していきますが、最後までどうでもいい型の場合もあります。
一見やる気がなさそうだったり無愛想にも見えますが、なぜそのような態度なのかを観察し、理由をさぐる必要があります。近々会場探しを始めることを意識し、その際に分析型と友好型のどちらに発展するかを想定して、そのタイプに見合った説明をしておきます。
手応えがなく、あまり時間をかけたくないと思いがちです。ですが少なくとも結婚を考えていることは間違いなく、興味があるから来館したことも事実です。決してぞんざいな扱いをしてはなりません。
お客様に話していただくためのスキル
顧客タイプを見極めたら、次はお話しいただく番です。
まずアイスブレイクで場をほぐします。ただし分析型にはほとんど不要でした。ここでも相手に合わせます。
次に問いかけです。3種類を使い分けます。
| 種類 | 内容 |
|---|---|
| クローズドクエスチョン | はいかいいえ、あるいは選択肢から答えていただく問いかけ |
| オープンクエスチョン | 自由に答えていただく問いかけ |
| サンプルクエスチョン | 具体例を示したうえで、それを手がかりに答えていただく問いかけ |
そして受け止めます。同意する、言い換える、理解を示す、発展させる。この4つです。
言い換えると発展させるが、とくに大事です。言い換えは、こちらの理解が合っているかを確かめる作業です。発展させるは、そこから次の話題を引き出す作業になります。
ニーズとウォンツの発見
お話しいただいた内容を、2つに分けて捉えます。
ニーズはイメージです。ウォンツは具体的な製品やサービスを指します。
たとえば、ニーズが「アットホームな披露宴にしたい」だとします。これに対するウォンツは「DIYで装飾し、メインバックに飾りたい」となります。
ここを取り違えると、提案がずれます。ウォンツだけを聞いてそのまま実現しても、アットホームにならないかもしれません。逆にニーズだけを聞いて、それを叶える具体策を示せなければ、提案になりません。
第5回で、要望を3点にまとめるという話をしました。まとめるべきはニーズです。そのうえで、それを叶えるウォンツを一緒に探していくことになります。
クロージング
最後がクロージングです。
バイイングシグナルを見逃さない
お客様が決めようとしているとき、言葉にサインが出ます。
- これならいいですね
- 予約するにはどうしたらいいですか
- 今後はどう進めていく感じですか
言葉以外にも兆候があります。満足そうな表情をした、大きく頷いた、前かがみに距離が近づいた、正面から目を見た。こうした動きです。
兆候が出たら、プレクロージングに進みます。いかがでしょうか、ご納得いただけましたか、何か問題はございますか。こう問いかけて、確認します。
言葉としてのバイイングシグナルが出ている場合は、プレクロージングを挟まずクロージングに進んで構いません。ありがとうございましたとお伝えし、次のステップを説明します。
遅れのサインが出たら
逆のサインもあります。しばらく考えたい、じっくり考えたい、目を逸らした。これらは意思決定の遅れを示しています。
ここで押してはいけません。まず理由を確認します。単なる迷いなのか、妥当な理由があるのか。
単なる迷いであれば、プレクロージングに戻して確認をやり直します。妥当な理由があるなら、保留にします。懸念事項を抜き出し、再来のアポイントを取ります。
保留は失敗ではありません。第2回で見たとおり、3会場ほど見学して1〜2件目で決まるのが実態です。懸念を残したまま押し切るより、懸念を書き出して次につなぐほうが決まります。
連載を終えるにあたって
全7回にわたり、ブライダル市場を読み解いてきました。
第1回で、マーケティングとは事実を追うことであり、お客様の求めているものを捉えることだとお伝えしました。第2回では、会場決定の動向という事実から、来館前に勝負はついているという結論を導きました。第3回で会場と挙式スタイルを、第4回で利益構造を、第5回でフェアと接客の流れを、第6回で商品知識を見てきました。
そして最終回のヒューマンスキルは、そのすべてを届けるための技術でした。
三角ロジックで筋道を立て、アサーションで対等に伝え、顧客タイプに合わせ、話していただき、ニーズとウォンツを分けて捉え、クロージングする。
マーケティングとは、多様な変化に対応化することをさします。それは、顧客の創造そのものです。
お客様は何を求めているのだろうか。この問いを持ち続けることが、新しいニーズと顧客の創造につながります。
連載にお付き合いいただき、ありがとうございました。
用語解説
- ヒューマンスキル コミュニケーションスキル、すなわち情報交換技術のことです。ロジカルシンキングとそれに基づく分析を必要とします。
- 三角ロジック 主張とデータと論拠の3つで構成される論理の型のことです。トゥールミンモデルとも呼ばれます。
- トゥールミンモデル 哲学者スティーヴン・トゥールミンが示した論証の構造モデルのことです。
- アサーション 自分の気持ちや考えを、自分も相手も大切にしながら、誠実かつ率直に伝えることです。
- カメレオンスキル お客様のタイプに応じて、自分の話し方や進め方を変える力を指す言い方です。
- ニーズとウォンツ ニーズはイメージ、ウォンツは具体的な製品やサービスを指します。
- バイイングシグナル お客様が購入や契約に傾いていることを示す言葉や動作のことです。
- プレクロージング クロージングの前に、納得の度合いや懸念の有無を確認する段階のことです。
出典一覧
- IWPA「ウエディングプランナー資格2級公式テキスト」第6版(2018年4月1日発行)
- IWPA「ウエディングプランナー資格1級テキスト」第4版(2017年10月1日発行)
- IWPA「THE BIBLE OF WEDDING」第14版(2017年8月1日発行)
- 公益社団法人日本ブライダル文化振興協会「ブライダルコーディネーターテキスト スタンダード」第6版(ISBN 978-4-9910055-1-0)
- 公益社団法人日本ブライダル文化振興協会「ブライダルコーディネーターテキスト エキスパート」第4版(ISBN 978-4-9910055-3-4)
※三角ロジックの練習例および待ち合わせの場面は、考え方を示すために用いた例示です。
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