ウエディングプランナーの教育コストと定着率

この記事の概要|読了目安:約11分
新人のプランナーを1人、担当を任せられるまでに育てるのに、施設はいくら使っているでしょうか。この問いには、決算書や月次の損益表を開いても答えが出ません。なぜなら、教育コストの大半は「教育費」という科目に載らないからです。先輩が隣について教える時間も、新人がまだ担当を持てずに受け取っている給与も、帳簿の上ではただの人件費として処理されます。
そして、教育コストは使った時点では損とも得とも言えません。その人が一人前になり、在籍し続けて担当をこなした期間で割って、初めて外部の人材に頼むより安かったのか高かったのかが決まります。つまり、自社育成と外部調達のどちらが得かを決める変数は、教育にかけた金額よりも、育てた人がどれだけ残るかのほうにあります。
この記事では、教育コストを「在籍期間で回収する投資」として式に置きます。そのうえで、厚生労働省の統計から業界の定着の実態を確かめ、定着率を変えると損益分岐がどう動くかを、説明のための仮の数字で試算します。
■ この記事でわかること
- 教育コストの本体は、研修費ではなく育成期間の人件費と指導者の時間
- 自社育成が得になるのは、回収に必要な在籍期間より長く残ってもらえた場合だけ
- 生活関連サービス業,娯楽業の大卒就職者は、3年以内に54.7%が離職している
- 定着率が下がると、1人あたりの実質的な教育コストは割り算で膨らむ
- 外部調達にも受け入れの教育コストがあり、同じ人に続けて頼めるかで結論が変わる
帳簿に載らない教育コスト
教育コストという言葉から、多くの人は研修の外部講師料や教材費を思い浮かべます。ところが、統計で見ると、その部分の金額は小さいものです。厚生労働省の令和7年度「能力開発基本調査」によると、OFF-JTに費用を支出した企業における労働者一人当たりの平均額は、令和6年度の1年間で2.0万円でした。前回の調査では1.5万円です。
もちろん、この金額は全産業の平均であり、婚礼施設の実態をそのまま示すものではありません。それでも、研修という形で外に払うお金が、1人あたり年数万円の規模にとどまることは読み取れます。一方で、婚礼のプランナーは、打合せに同席し、先輩の担当を手伝いながら仕事を覚える、いわゆるOJTで育つ部分が大きい職種です。弊社も「業務委託と社員採用のバランス」で、プランナーの仕事は幅が広くOJTに頼る文化が強いため、新人が即戦力になるまでに時間がかかると書きました。
したがって、婚礼スタッフの教育コストを考えるときは、外に払う研修費ではなく、次の3つを数える必要があります。
とくに3つ目は、先輩が新人に教えている間に担当できなかった件数として現れます。そのため、教育コストの一部は、先輩の生産性の低下として施設全体に薄く広がっています。
✔ ここがポイント
- 研修費として外に払う金額は、教育コストのごく一部にすぎない
- 本体は、育成期間の未戦力分の人件費と、指導する先輩の時間
損益分岐の置き方
教育コストの中身が分かれば、自社育成と外部調達の損益分岐は1本の式で表せます。考え方は単純で、自社で育てた人が一人前になったあと、外部に頼むより安く担当をこなせた差額で、最初の教育コストを取り戻せるかどうかです。
■ 損益分岐の式
- 1件あたりの差額 = 外部に頼んだ場合の1件あたりの費用 − 自社社員の1件あたりの人件費
- 1年あたりの回収額 = 1件あたりの差額 × 1年間の担当件数
- 回収に必要な期間 = 教育コスト ÷ 1年あたりの回収額
- 回収に必要な在籍期間 = 育成期間 + 回収に必要な期間
この式のうち、施設が自分で決められるのは、教育コストの大きさと担当件数の組み方です。これに対して、外部に頼んだ場合の費用は相手との契約で決まり、在籍期間は本人の選択で決まります。つまり、損益分岐の判断には、施設が完全には動かせない変数が2つ入っているということです。
ここで注意したいのは、比べる相手を「外部に頼む場合」に置いている点です。自社で育てないのであれば、その件数は外部の人材が担当することになります。したがって、自社育成の成否は、教育コストが高いか安いかではなく、外部に頼んだ場合と比べて回収できたかどうかで判断するのが筋です。
仮の数字で試算
式に数字を入れると、回収に必要な在籍期間の感覚がつかめます。以下の金額は、説明のための仮の数字です。実在の施設や相場を示すものではありませんので、読者の施設の数字に置き換えて読んでください。
| 項目 | 仮の数字 |
|---|---|
| 採用費 | 50万円 |
| 育成期間 | 1年 |
| 育成期間の未戦力分の人件費 | 200万円(年間人件費400万円の半分) |
| 指導する先輩の時間 | 50万円(年125時間×1時間4,000円) |
| 教育コストの合計 | 300万円 |
| 一人前になった後の年間人件費 | 400万円 |
| 一人前になった後の担当件数 | 年40件(1件10万円) |
| 外部に頼んだ場合の費用 | 1件15万円 |
この仮の数字では、1件あたりの差額は5万円になり、年40件を担当すれば1年あたりの回収額は200万円になります。したがって、300万円の教育コストを回収するには1.5年かかり、育成期間の1年を足すと、入社から2.5年在籍してもらって、ようやく自社育成と外部調達が並びます。
ただし、この計算は、一人前になった社員が年40件を安定して担当できることを前提にしています。仮に閑散期の影響で担当件数が年30件に減ると、1件あたりの人件費は約13.3万円に上がり、差額は約1.7万円に縮みます。その結果、1年あたりの回収額は50万円になり、回収に必要な期間は6年に延びます。弊社は「業務委託と社員採用のバランス②」で、社員の人件費は施行件数が減っても下がらない固定費だと書きましたが、その性質は教育コストの回収にもそのまま効いてきます。
! 試算の前提
- 金額はすべて説明のための仮の数字で、相場や実例ではない
- 担当件数が少し減るだけで、回収期間は大きく延びる
業界の定着の実態
では、回収に必要な在籍期間まで、実際にどれだけの人が残っているのでしょうか。結婚式場業は、総務省の日本標準産業分類では「生活関連サービス業,娯楽業」の中の冠婚葬祭業に分類されています。そこで、厚生労働省の「新規学卒者の離職状況」から、令和4年3月に大学を卒業して就職した人の離職の状況を、この産業と、ホテルが含まれる宿泊業、飲食サービス業、全産業の3つで比べます。
※厚生労働省「新規学卒者の離職状況」の新規大学卒業就職者の産業別離職状況(令和7年10月発表分)にある就職者数と離職者数から、筆者が割合を計算しました。3年以内の割合は厚生労働省の公表値と一致します。
生活関連サービス業,娯楽業では、就職者6,176人のうち、1年以内に1,568人、3年以内に3,376人が離職しています。つまり、大卒で入った人のおよそ4人に1人が1年以内に辞め、3年たって残っているのは45.3%です。全産業の3年以内の離職率33.8%と比べると、20ポイント以上高い水準にあります。
新卒に限らない数字も、同じ方向を示しています。厚生労働省の「令和6年雇用動向調査結果の概要」によると、一般労働者の1年間の離職率は、生活関連サービス業,娯楽業が16.9%、宿泊業,飲食サービス業が18.1%で、産業計の11.5%を上回っています。
ただし、この産業分類には結婚式場業のほかに、美容業や娯楽業なども含まれています。したがって、この数字を婚礼施設の離職率として読むことはできません。あくまで、婚礼施設が属する産業全体の傾向として扱う必要があります。
! 統計を読むときの注意
- 生活関連サービス業,娯楽業には、結婚式場業以外の業種も含まれる
- 新規学卒者の数字は大学卒の新卒に限った値で、中途採用には当てはまらない
- 統計が追っているのは就職後3年までで、それより先の定着は分からない
定着率を変数に置く
ここまでの試算では、育てた人が回収に必要な期間まで残ることを前提にしていました。しかし、統計が示すように、実際には一定の割合の人が途中で辞めます。そこで、定着率を変数として式に組み込みます。
考え方は次の通りです。10人を採用して育てた場合、教育コストは10人分かかります。ところが、その教育コストを回収できるのは、一人前になったあとも残った人だけです。したがって、残った人1人あたりが背負う実質的な教育コストは、教育コストを定着する割合で割った金額になります。
仮の数字の300万円に、定着する割合をいくつか当てはめると、実質的な教育コストと、回収に必要な在籍期間は次のように変わります。
※回収に必要な期間は、実質的な教育コストを1年あたりの回収額200万円で割った値です。途中で辞めた人が一人前になってから生んだ差額は数えていないため、実際よりやや厳しめの計算になります。
この図で目を引くのは、定着する割合が半分になると、実質的な教育コストが2倍になる点です。割り算で効いてくるため、定着率が下がるほど悪化の幅は大きくなります。たとえば、統計にある3年後の在籍割合45.3%をそのまま当てはめると、実質的な教育コストは約662万円になり、回収に必要な在籍期間は入社から約4.3年になります。しかし、統計は3年目までしか追っていないため、4年を超えて何割が残るのかは分かりません。
ここから言えることは、自社育成を選ぶなら、教育にかける金額を増やす前に、育てた人が回収に必要な期間まで残る見込みがあるかを確かめる必要があるということです。反対に、定着の見込みが立たない職種や時期に限っては、外部調達のほうが結果として安くつく可能性があります。
✔ ここがポイント
- 定着する割合が半分になると、実質的な教育コストは2倍になる
- 自社育成の判断は、教育の金額より先に定着の見込みで行う
外部調達の教育コスト
ここまでの試算では、外部に頼んだ場合の費用を1件15万円で固定していました。しかし、外部の人材にも、その施設のやり方を覚えてもらうための教育コストがかかります。弊社も「業務委託と社員採用のバランス②」で、業務委託は即戦力のイメージがあっても、会場ごとのルールや施行フローに適応するための教育は必要だと書きました。
この受け入れの教育コストは、外部の人材が同じ施設に続けて入るかどうかで重さが変わります。仮に、1人の外部人材を受け入れるために、説明や同席に20時間、1時間4,000円で8万円かかるとします。その人が年20件を続けて担当すれば、1件あたりの受け入れコストは0.4万円にすぎません。しかし、毎回ちがう人が2件ずつ担当して入れ替わるなら、1件あたり4万円になります。
後者の場合、外部に頼んだ場合の実質的な費用は1件19万円になり、先ほどの試算の差額は9万円に広がります。その結果、1年あたりの回収額は360万円になり、自社育成の教育コスト300万円は約0.8年で回収できる計算になります。つまり、外部の人材が入れ替わり続ける施設ほど、自社育成が有利に傾きます。
言い換えれば、定着率は社員だけの問題ではありません。外部の人材がその施設で続けて働いてくれるかどうかも、同じ式の中で損益分岐を動かしています。弊社は「業務委託と社員採用のバランス」で、必要なときだけ頼む関係では業務委託側との関係が薄れ、安定的な協力が得られなくなると書きました。その指摘は、受け入れの教育コストという数字の面からも裏づけられます。
■ この章のまとめ
- 外部調達にも、施設のやり方に慣れてもらう教育コストがかかる
- 同じ外部人材に続けて頼めれば、その教育コストは件数で薄まる
分岐点を動かす3つの変数
式に戻ると、損益分岐を施設の側から動かせる変数は3つあります。1つ目は教育コストそのもの、2つ目は一人前になった後の担当件数、3つ目は定着です。そして、この3つは互いに独立していません。
1つ目の教育コストは、施設の情報をどこまで文書にして渡せるかで変わります。弊社は「業務『委託』と『丸投げ』の違い」で、同じプランナーでも会場によって成果が変わる例を挙げ、顧客層、競合、見積方針、値引きの基準、裁量の範囲などを事前に文書で渡している会場とそうでない会場の差を説明しました。こうした資料は、社員の新人にも外部の人材にも同じように効きます。したがって、文書化は自社育成と外部調達の両方の教育コストを同時に下げる数少ない手段です。
2つ目の担当件数は、試算で見たように、少し減るだけで回収期間を大きく延ばします。社員に担当を集めすぎれば回収は早まりますが、負担が偏れば離職につながり、3つ目の定着を悪化させます。つまり、担当件数と定着は、片方を押すと片方が引っ込む関係にあります。
3つ目の定着は、統計で見た通り、業界全体として厳しい水準にあります。そのため、自社育成の計画を立てるときは、全員が残る前提ではなく、自社の過去の採用者が何年目に何人残ったかという実績の割合で試算するほうが現実に近くなります。
☑ チェックリスト
- 自社の新人が担当を持てるまでに、何か月かかっているか
- 指導している先輩の担当件数は、指導の前後でどれだけ変わったか
- 過去3年の採用者のうち、今も在籍している人は何人か
- 外部の人材は、毎回同じ人が入っているか、入れ替わっているか
試算に入らないもの
最後に、この損益分岐の式が扱っていないものを確認しておきます。式は1件あたりの費用だけを比べているため、金額に置き換えにくい要素は外れています。
まず、自社で育てた人は、将来の指導役や管理職の候補になります。この価値は1件あたりの差額には現れませんが、次の世代の教育コストを下げる役割を持っています。反対に、外部の人材だけに頼る場合は、うまくいったやり方が施設の中に残りにくいという面があります。弊社も「業務委託と社員採用のバランス②」で、個人契約の業務委託ではノウハウが流出する可能性があると書きました。
次に、社員が辞めるときには、担当していた婚礼の引継ぎが発生します。婚礼の準備は数か月にわたるため、途中で担当が替わると、残った社員や外部の人材に新しい負担がかかります。この負担も、式の中には入っていません。
したがって、損益分岐の式は、自社育成か外部調達かを決める答えではなく、判断の土台として使うのが適切です。定着率を変数として置き、自社の数字を入れて試算してみると、どの条件なら自社育成が得になり、どの条件なら外部に頼むほうがよいのかが、感覚ではなく数字で見えるようになります。
まとめ
この記事では、婚礼スタッフの教育コストを、自社で育てる場合と外部から調達する場合の損益分岐として整理しました。教育コストの本体は研修費ではなく、育成期間の人件費と指導者の時間であり、自社育成が得になるのは、回収に必要な期間より長く在籍してもらえた場合に限られます。
業界の離職の実態を踏まえると、定着率は試算の前提ではなく、結論を左右する変数として置く必要があります。外部調達にも受け入れの教育コストがあるため、同じ人に続けて頼めるかどうかでも結論は変わります。一方で、将来の指導役が育つことや引継ぎの負担など、式に入らない要素もあります。
まずは自社の育成期間、指導にかかる時間、定着率を当てはめて、一度試算してみてください。どの条件なら自社育成が得になり、どの条件なら外部に頼むほうがよいのかが、数字で見えるようになります。
用語解説
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 教育コスト | 人を一人前に育てるまでにかかる費用。研修費だけでなく、育成期間の人件費や指導者の時間を含めて考える |
| OJT | On-the-Job Training。実際の仕事を通じて、上司や先輩が指導する教育 |
| OFF-JT | Off-the-Job Training。仕事から離れて行う研修や講習 |
| 損益分岐 | 2つの選択肢の費用が等しくなる点。ここを超えると、一方が有利になる |
| 定着率 | 採用した人のうち、一定期間後も在籍している人の割合 |
| 生活関連サービス業,娯楽業 | 日本標準産業分類の大分類N。結婚式場業は、この中の冠婚葬祭業に含まれる |
| 一般労働者 | 雇用動向調査で、パートタイム労働者以外の常用労働者を指す区分 |
出典一覧
- 厚生労働省「令和7年度『能力開発基本調査』の結果を公表します」(2026年7月31日) https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/newpage_00233.html
- 厚生労働省 令和7年度「能力開発基本調査」調査結果の概要 https://www.mhlw.go.jp/content/11801500/001728125.pdf
- 厚生労働省「新規学卒者の離職状況」(令和7年10月発表分) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000137940.html
- 厚生労働省「新規大学卒業就職者の産業別離職状況」 https://www.mhlw.go.jp/content/11800000/001319024.pdf
- 厚生労働省「令和6年 雇用動向調査結果の概要」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/25-2/index.html
- 厚生労働省「令和6年 雇用動向調査結果の概要」2 産業別の入職と離職 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/25-2/dl/kekka_gaiyo-02.pdf
- 総務省「日本標準産業分類(令和5年7月改定)」細分類7962 結婚式場業(e-Stat 分類検索) https://www.e-stat.go.jp/classifications/terms/10/04/7962
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