結婚式場のM&Aと独立系施設の選択肢

このブログの概要|読了目安:約20分
「結婚式場のM&A」という、結婚式場を運営する会社同士が合併したり、ほかの会社の会場を買い取ったりする取引があります。2025年には、結婚式場を運営する会社が、こうした取引を自社の発表資料で相次いで公表しました。
主な取引は、次の通りです。
| 買い手 | 取引の |
|---|---|
| ノバレーゼと |
2026年4月1日に |
| テイクアンドギヴ・ |
名古屋市内の |
| THE WHY HOW DO COMPANY | 静岡県浜松市の |
✔ 買い手が発表資料で挙げた3つの理由
- 自社の会場がすでにある地域にある
- その地域で名前が知られ、黒字を続けてきた
- 会場が増えれば、建設費や広告費などを複数の会場で分け合って抑えられる
この3つは、会社を売る予定がない独立系の施設、つまり大手のグループに入っていない会社の会場にとっても、施設の価値そのものです。というのも、買い手が挙げた理由は、施設が地域の新郎新婦に選ばれ、利益を出し続けられる理由と同じだからです。ただし、地域で選ばれることと黒字を続けることは自社で磨けますが、施設が増えて下がる費用だけは、施設を1つしか持たない会社では下げられません。
弊社は2025年12月17日のブログ「ノバレーゼ・エスクリ統合から考える M&Aの正負のシナジー①」で、婚礼の組数が減る市場で会社を大きくすることの意味は、別に考える必要があると書きました。なぜなら、会社を大きくして費用を下げる効果は一般に成長している産業で働くとされるのに対し、日本の婚姻件数は1972年の約109万件から2024年の約48万件へと半分以下に減っているからです。
そのブログでは、ウエディングプランナーやスタッフを全て社員として雇えば、人件費は組数が減っても下がらない固定費になることも指摘しました。そのため、独立系施設の経営者が考えるべきなのは、大手と同じ規模を目指すことではなく、組数が減っても下がらない固定費を減らすことだと、弊社は考えています。具体的には、ウエディングプランナーの担当を業務委託に回すことや、衣裳や写真を新郎新婦が外部から選べる箱貸しを取り入れることです。
このブログでは、まず各社の発表資料を読み、買い手が挙げた3つの理由を示します。その上で、3つの理由が独立系施設にとってどんな価値なのかと、施設が1つでも減らせる固定費を説明します。最後に、後継者がいないなどの理由で会社を売ることになったときに、予約済みの新郎新婦との契約と社員の雇用がどうなるかを、民法の条文を基に説明します。
■ このブログでわかること
- 2025年に結婚式場を買った会社が、発表資料で挙げた3つの理由
- その3つが、売る予定のない独立系施設にとっても価値になる理由
- 婚礼の組数が減る市場で、規模を追うより固定費を減らす方がよい理由
- 業務委託や箱貸しのように、施設が1つでも減らせる費用
- 会社を売ることになったときの、株式譲渡と事業譲渡の違いと相談先
結婚式場のM&Aの主な事例
2025年には、結婚式場を運営する会社が、異なる方法でほかの会社や施設を引き受けると発表しました。方法は次の3つです。
- 合併
- 事業譲受
- 子会社化
図1は、そのうち当事者の会社が自ら発表資料を出している4件を、発表の順に並べたものです。
4件のうち取得の理由を書いている3件の発表資料を読むと、買い手が挙げている理由は大きく3つに分かれます。
施設のある地域
1つ目の理由は、施設のある地域です。テイクアンドギヴ・ニーズは「事業譲受に関する契約締結のお知らせ」(2025年10月31日)で、譲り受ける2会場が名古屋市内にあり、同じ市内ですでに直営会場を運営しているため、既存会場とのシナジーでシェアの拡大が見込めると説明しています。
つまり、テイクアンドギヴ・ニーズは、自社の会場がすでにある市内で会場を増やしています。これは、2026年1月5日のブログ「ブライダル業界は寡占化するの??」で挙げた「地理的な制約」、つまり結婚式場は新郎新婦やゲストが通える場所で選ばれるため、地域ごとに会社が分かれやすいという条件と一致します。
知名度と黒字の実績
2つ目の理由は、地域での知名度と黒字の実績です。THE WHY HOW DO COMPANYは「株式会社スティルアンの株式取得(子会社化)及び特定子会社の異動に関するお知らせ」(2025年9月18日)で、スティルアンが静岡県西部で地域一の事業規模と知名度を持ち、コロナ禍でも黒字を維持してきた点を評価したとしています。その上で、この取得によって、自社の売上高が約14億円増えると見込んでいます。
費用を分け合える規模
3つ目の理由は、施設が増えるほど費用を分け合えることです。ノバレーゼは報道資料「婚礼大手のノバレーゼとエスクリ 経営統合」(2025年11月14日)で、統合の効果として次の項目を挙げています。
- 婚礼施設の建設費の抑制
- 食材などの仕入れの効率化
- 広告宣伝費の効率化
- システムの効率化
- 採用の効率化
さらに、筆頭株主であるTKPの法人顧客3万社に会場を使ってもらい、「平日は法人利用、週末はウエディング」という使い方を強めるとしています。つまり、買い手は、地域で選ばれて黒字を続けている施設を、費用を分け合える自社のグループに加えようとしています。
倒産と休廃業・解散
一方で、2025年には、結婚式場を閉じた会社もありました。東京商工リサーチの「2025年『結婚式場』の業績は二極化 減収企業は1.7倍、明暗分かれる」(2026年6月23日)によると、2025年の結婚式場業の件数は次の通りです。
| 区分 | 件数 |
|---|---|
| 倒産 | 5件 |
| 休廃業・ |
13件 |
| 倒産と |
18件 |
| 新設法人 | 14件 |
つまり、倒産と休廃業・解散を合わせた18件が、新設法人の14件を上回りました。上回るのは7年連続です。
同じ調査では、主な結婚式場48社のうち、増収と減収の会社の数は次の通りです。
- 増収:26社
- 減収:21社(前年は12社)
つまり、2025年は売上を伸ばした会社と減らした会社に分かれた年でした。倒産した会社の個別の事例は、弊社ブログ「結婚式場の倒産と休・廃業 2026」で追っています。
✔ ここがポイント
買い手が挙げた理由は、次の3つです。
- 施設のある地域
- 地域での知名度と黒字の実績
- 施設が増えて費用を分け合えること
2025年は、倒産と休廃業・解散の合計18件が、新設法人の14件を上回りました。
買い手が見る施設の価値
前の章で見た3つの理由は、会社を売る予定がなくても、独立系施設の価値そのものです。なぜなら、買い手がお金を払ってでも手に入れたいのは、地域の新郎新婦に選ばれ、利益を出し続けている施設だからです。図3は、3つの理由を、経営者が自社で磨けるものと、施設が1つでは下げられないものに分けたものです。
自社で磨ける地域と黒字
1つ目の施設のある地域は、結婚式場が新郎新婦やゲストの通える場所で選ばれることから生まれる価値です。2026年1月5日のブログ「ブライダル業界は寡占化するの??」では、少数の大きな会社に市場が集まりやすい業界の条件と、集まりにくい業界の条件を、それぞれ4つ挙げました。
| 大手に |
大手に |
|---|---|
| 規模の |
属人性の |
| 高い |
地理的な |
| ネットワーク効果 | 顧客の |
| サービスの |
低い |
そのブログでは、比べる例としてコンビニと美容室を使いました。コンビニは集まりやすい条件を全て満たして大手に集まった一方で、美容室は客が「誰に切ってもらうか」で店を選ぶため、小さな店が多く残っています。
結婚式場は、新郎新婦やゲストが通える場所で選ばれる上に、新郎新婦が重視する価格帯や雰囲気も様々です。つまり、結婚式場は表の右側の「地理的な制約」と「顧客の求めるものの多様さ」に当てはまるため、大手の統合が進んでも、地域に根ざした施設や特色のある施設が大手と共存する余地がある、というのがそのブログの結論です。
2つ目の知名度は、経営者が来館の経路を増やすことで、自社で上げられます。というのも、そのブログでは、送客メディアへの掲載のほかに、施設が使える集客の手段が以前より増えていると述べているからです。主な手段は、次の3つです。
- Instagramの運用
- 自社ホームページの検索対策
- Googleマイビジネスの活用
黒字の実績は、施設が利益を出し続けてきた結果です。THE WHY HOW DO COMPANYがスティルアンについて評価したのも、コロナ禍でも黒字を維持してきた点でした。つまり、1つ目と2つ目の理由は、施設を1つしか持たない会社でも、自社の努力で磨けます。
施設1つで下げられない費用
一方で、3つ目の費用を分け合える規模だけは、事情が違います。なぜなら、施設が増えるほど1施設当たりの負担が下がる費用は、施設の数を増やさない限り下がらないからです。ノバレーゼとエスクリが統合の効果として挙げた項目のうち、こうした費用は次の3つです。
- 建設費
- 仕入れ
- システムや本社機能
例えば、同じ食材を複数の施設でまとめて仕入れれば単価の交渉ができますし、予約や顧客管理のシステムは、施設が1つでも69でも開発の費用が大きく変わりません。したがって、1つの施設の経営者がこの3つの費用を大手グループと同じ水準まで下げるのは難しいと考えられます。
では、施設の数で下がる費用で大手に並べないなら、独立系施設の経営者はどの費用を見直せばよいのでしょうか。次の章で、弊社の考えを説明します。
! 施設の数でしか下がらない費用もあります
次の3つは、施設の数が増えるほど1施設当たりの負担が下がります。
- 建設費
- 仕入れ
- システムや本社機能
そのため、1つの施設の経営者がこの3つで大手グループと同じ水準に並ぶのは難しいと考えられます。
規模より固定費を減らす
弊社は、婚礼の組数が減る市場では、独立系施設の経営者は規模を追うより、組数が減っても下がらない固定費を減らすべきだと考えています。その根拠は、2025年12月17日のブログ「ノバレーゼ・エスクリ統合から考える M&Aの正負のシナジー①」の主張です。
組数が減る市場の規模
そのブログでは、M&Aを買う会社と買われる会社の関係で6つに分ける考え方を使い、ノバレーゼとエスクリの統合をライバル企業同士の統合に当てはめました。その上で、ライバル企業同士の統合の特徴を、次の3つと説明しています。
- 費用を下げる効果を見込めること
- 売上が伸びるかは不確かなこと
- 社員の士気の低下や幹部の流出が起きやすいこと
そのブログでは、費用を下げる効果は統合してすぐに出やすいとも述べています。その理由は、両社とも衣裳などのアイテムを自社で手掛けており、グループ内で融通し合えば、仕入れや外注の費用をすぐに減らせるからです。ただし、衣裳や装花を自分で選んで持ち込みたい新郎新婦が増えているため、グループ内の手配を増やすほど、新郎新婦の希望とのずれが大きくなるとも述べています。
さらに、そのブログでは、婚礼の組数が減る市場で会社を大きくすることの意味は、別に考える必要があると述べています。というのも、会社を大きくして費用を下げる効果は一般に成長している産業で働くとされる一方で、婚姻件数は半分以下に減っているからです。つまり、組数が減る市場では、規模を大きくした利点と、増えた固定費や遅くなる意思決定とを比べる必要があります。
また、ウエディングプランナーやスタッフを全て社員として雇うと、人件費は組数に関係なくかかる固定費になります。そのため、組数が減る市場で会社を大きくするなら、この固定費を経営がどう管理するかが大きな問題になる、というのがそのブログの結論の一つです。
業務委託と箱貸し
固定費を減らすとは、組数が減っても下がらない固定費を、組数に応じて増減する変動費に変えることです。弊社が考える方法は、次の2つです。
✔ 固定費を変動費に変える2つの方法
- 社員のウエディングプランナーが担当しきれない組を、業務委託に回すこと
- 衣裳や写真などのアイテムを新郎新婦が外部から選べる、箱貸しを取り入れること
1つ目の業務委託は、担当した組の数に応じて報酬を払う費用です。そのため、社員のウエディングプランナーが担当しきれない繁忙期の組だけを業務委託に回せば、経営者は社員を増やさずに施行組数を受けられます。
2つ目の箱貸しについて、2025年12月17日のブログ「ノバレーゼ・エスクリ統合から考える M&Aの正負のシナジー①」では、会場を「箱」として開き、ウエディングプランナーやアイテムを新郎新婦が自由に選べる箱貸しへの転換が妥当だと述べています。その理由は、箱貸しでは会場と新郎新婦の受け持ちが次のように分かれるため、会場は固定費を大きく減らせ、新郎新婦は選ぶ自由が増えるからです。
| 受け持ち | 中身 |
|---|---|
| 会場が |
使用料・ |
| 新郎新婦が |
衣裳・ |
また、そのブログでは、統合した会社の親会社であるTKPの本業が貸会議室、つまり箱貸しであることから、統合した会社が箱貸しの方向に進むかどうかも見ていくと述べています。箱貸しを取り入れるときの条件は、弊社ブログ「箱貸しを取り入れる2つの条件」で計算しています。
1社でも見直せる費用
業務委託と箱貸しのほかにも、施設の数が少なくても経営者が見直せる費用があります。図4は、ノバレーゼとエスクリが統合の効果として挙げた項目を、1つの施設の経営者でも費用を変えられるかどうかで分けたものです。
図4の下の3つは、次の通りです。
- 広告宣伝費
- 採用
- 平日の稼働
この3つは、施設が1つでも見直せます。なぜなら、この3つは、経営者が費用のかけ方や会場の使い方を変えれば、施設の数を増やさなくても変わるからです。
広告宣伝費は、経営者がどこからの来館を増やすかで変わります。来館の経路は、次の2つに分かれます。
- 媒体の掲載
- 自社のホームページやSNS、口コミ
2026年1月5日のブログ「ブライダル業界は寡占化するの??」では、このどちらに頼るか、両方を組み合わせるかは、各施設の戦略と実行力次第だと述べています。というのも、前の章で見た通り、施設が使える集客の手段が以前より増えているからです。
採用は、経営者がウエディングプランナーを社員として雇うのか、担当を業務委託に任せるのかで変わります。この章の初めに見た通り、社員の人件費は組数が減っても下がらないため、組数が減った年ほど利益を圧迫します。
平日の稼働は、ノバレーゼの発表にある「平日は法人利用、週末はウエディング」の通り、週末に婚礼で使う会場の平日の空きを埋めるための取り組みです。大手グループのように3万社の法人顧客を持たなくても、経営者が地域の会社や団体の宴会を受ければ、同じように平日の空きを埋められます。そのため、独立系施設の経営者が大手との費用の差を縮めるなら、建設費や仕入れではなく、固定費と図4の下の3つを見直すことになります。
見直す順番と数字
経営者がどの費用から見直すかは、自社の数字で決まります。最初に比べるのは、施行組数と損益分岐点の組数の差です。なぜなら、その差がプラスかマイナスかで、固定費を変えるだけでよいのか、売上も伸ばす必要があるのかが変わるからです。
施行組数が損益分岐点を上回っていれば、経営者は固定費を変動費に変えることで利益の幅を広げられます。反対に、施行組数が損益分岐点を下回っているなら、固定費を変動費に変えることに加えて、平日の稼働と自社集客を増やして売上を伸ばさないと、赤字を抜けられません。
また、来館の経路ごとの件数は、自社集客を強めるときの手掛かりになります。というのも、媒体経由の来館が大半を占めているなら、広告宣伝費を下げると来館も減る恐れがあるからです。逆に、媒体以外の経路からの来館が一定数あるなら、経営者がその経路を強めることで、広告宣伝費に頼る割合を下げられます。
☑ 経営者が帳簿や予約の記録から調べておく数字
- 過去3年の施行組数と、利益がゼロになる損益分岐点の組数
- 来館した新郎新婦の経路ごとの件数(媒体経由と、ホームページ・紹介・口コミ経由)
- 社員の人数と、平日に会場を使った日数
売る理由が出てきたら
ここまでは、会社を売る予定がない経営者に向けて説明しました。ただし、後継者がいない、資金が必要になったなど、会社を売る理由が出てくることもあります。そのときに経営者が知っておくことは、次の5つです。
✔ 会社を売るときに知っておく5つのこと
- 株式譲渡と事業譲渡の違い
- 新郎新婦と社員の承諾
- 前受金の扱い
- 統合の後に2つの会社を1つにまとめる作業(PMI)
- 相談先
株式譲渡と事業譲渡
結婚式場の会社を売る方法には、株式譲渡と事業譲渡の2つがあります。2025年の事例では、次の通りです。
| 方 |
買い |
2025年の |
|---|---|---|
| 株式譲渡 | 経営者や |
THE WHY HOW DO COMPANYに |
| 事業譲渡 | 会社が |
テイクアンドギヴ・ |
株式譲渡では、株主が替わるだけで会社そのものは続きます。そのため、新郎新婦との契約や社員の雇用は、そのまま会社に残ります。
事業譲渡は、会社を丸ごと渡さずに特定の施設だけを移せるため、ほかの施設や事業を手元に残したい会社でも選べます。その代わり、事業譲渡では、新郎新婦との契約や社員の雇用を、一つずつ買い手に移す手続きが必要になります。
手続きが必要になるのは、売り手の会社はそのまま残り、契約の当事者が売り手の会社から買い手の会社に替わるからです。図5は、その違いを民法の条文を基に比べたものです。
新郎新婦と社員の承諾
まず、新郎新婦との契約です。株式譲渡では、新郎新婦と契約しているのは会社であり、その会社がそのまま続くため、契約の当事者は替わりません。
これに対して、事業譲渡では、売り手の会社が結んだ契約を買い手の会社に移すことになります。民法第539条の2は、契約上の地位を第三者に譲り渡す合意をした場合に、その契約の相手方が承諾したときに、契約上の地位が第三者に移ると定めています。つまり、事業譲渡では、売り手と買い手が合意しただけでは契約は移らず、予約済みの新郎新婦の一組ずつに、契約の移転を承諾してもらう必要があります。
次に、社員の雇用です。民法第625条第1項は、使用者は、労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができないと定めています。
したがって、事業譲渡で社員のウエディングプランナーやキッチンのスタッフを買い手に移すには、社員本人の承諾が必要です。株式譲渡であれば、社員を雇っている会社は替わらないため、この手続きは必要ありません。
事業譲渡を選ぶなら、経営者は、予約済みの新郎新婦と社員の一人一人に承諾をもらう段取りを、最初から計画に入れておく必要があります。なぜなら、承諾をもらえなかった新郎新婦の契約や社員の雇用は、買い手には移らず、売り手の会社に残るからです。
前受金の扱い
結婚式場ならではの問題が前受金です。前受金は、新郎新婦から受け取った申込金や内金のことで、施行の日まで会社の負債として扱われます。株式譲渡では、前受金は会社の負債としてそのまま残るため、買い手はそれも含めて会社を引き継ぎます。
一方、事業譲渡では、売り手と買い手が、どの契約と負債を引き継ぐかを譲渡の契約で決めます。そのため、売り手の経営者が施行前の予約の件数と前受金の残高を一覧にしておかないと、買い手と譲渡の条件を詰められません。前受金の扱いは、弊社ブログ「前受金と分度経営〜式場の資金管理」で説明しています。
統合後のまとめ方
譲渡先を選ぶときに、売り手の経営者が契約の手続きと同じくらい気にかけたいのが、譲渡の後の社員の働き方です。2025年12月18日のブログ「ノバレーゼ・エスクリ統合から考える M&Aの正負のシナジー②」では、統合の後に2つの会社を1つにまとめる作業(PMI)を取り上げました。というのも、契約を結ぶことはM&Aのゴールではなく、統合の効果が出るかどうかは、契約の後に社員の働き方や会社の文化をすり合わせる作業で決まるからです。
そのすり合わせでは、売り手の経営者は「社員を大切にしてほしい」と考え、買い手は「投資を早く回収したい」と考えがちです。だから、両者の考えの違いを埋めることがPMIの第一歩になる、とそのブログでは説明しています。
そのブログでは、ノバレーゼは即決をしない営業、エスクリは即決を重視する営業と、両社が異なる営業の進め方のまま統合していることも取り上げました。そのため、どちらかに無理にそろえれば、もう一方の現場に強い反発が生じる恐れがあると述べています。
さらに、そのブログでは、統合の後の姿を思い描けない案件は成約すべきではない、とも書きました。その理由は、契約を結ぶこと自体が目標になると、契約前の準備と契約後の統合の作業が切り離されてしまい、統合がうまくいくかどうかは契約前の準備で決まるからです。だから、売り手の経営者は、社員の営業の進め方や評価の仕方を、契約の前に買い手と話し合っておく必要があります。
相談先
では、会社を売ることを考え始めた経営者は、最初にどこへ相談すればよいのでしょうか。相談先の一つが、国の事業承継・引継ぎ支援センターです。中小企業基盤整備機構の「令和7年度 事業承継・引継ぎ支援センターの実績について」(2026年5月29日)によると、このセンターは国が47都道府県の48か所に設置した公的な相談窓口で、後継者のいない経営者に、第三者への引き継ぎ(M&A)の相手探しと成約までの支援を行っています。
同じ発表によると、2025年度の実績は次の通りで、いずれも過去最多でした。
| 項目 | 2025年度 |
|---|---|
| 新規相談者 | 24,030者 |
| うち第三者承継に |
16,322者 |
| 第三者承継の |
2,265件 |
ただし、これは業種を問わない中小企業全体の数字であり、結婚式場に限った件数は示されていません。また、この発表によると、センターは次の相談にも応じています。
- 親族や従業員への引き継ぎの方法
- M&Aを進める際のセカンドオピニオン
つまり、経営者は、民間の仲介会社に話を進める前の段階でも、このセンターに相談できます。大切なのは、経営者が相談に行く前に、自社の数字を帳簿や契約書から調べておくことです。なぜなら、買い手は図1で見た3つの理由を基に施設を選ぶため、売り手がその材料となる数字を示せないと、買い手は施設を評価できないからです。
☑ 会社を売ると決める前に経営者が帳簿や契約書から調べておく数字
- 過去3年の施行組数と、損益分岐点の組数
- 借入金の残高と、毎年の返済額
- 施行前の予約の件数と、前受金の残高
- 建物が自社所有か賃借か、賃借なら賃貸借契約の残りの期間
! 事業譲渡では承諾が必要です
- 新郎新婦との契約を移すには、新郎新婦の承諾が必要です(民法第539条の2)
- 社員の雇用を移すには、社員本人の承諾が必要です(民法第625条第1項)
- 前受金は、売り手と買い手がどこまで引き継ぐかを譲渡の契約で決めます
よくある質問
■ この章のまとめ
- 買い手が挙げた3つの理由は、売る予定がなくても施設の価値そのものです
- 固定費を減らすには、施行組数と損益分岐点の差を比べることから始めます
- 事業譲渡では、新郎新婦と社員の承諾が必要です
まとめ
このブログでは、2025年に発表された結婚式場のM&Aの資料を読み、買い手が挙げた3つの理由を、会社を売る予定のない独立系施設の価値として読み直しました。その上で、2025年12月17日のブログ「ノバレーゼ・エスクリ統合から考える M&Aの正負のシナジー①」の主張を基に、婚礼の組数が減る市場では規模を追うより固定費を減らすべきだと説明しました。
■ このブログの要点
- 買い手が挙げた3つの理由は、売る予定のない独立系施設にとっても価値そのものです
- 地域で選ばれることと黒字を続けることは自社で磨けますが、施設の数で下がる費用は施設1つでは下げられません
- 婚礼の組数が減る市場では、規模を追うより、組数が減っても下がらない固定費を減らすべきだと、弊社は考えています
- 固定費は、ウエディングプランナーの業務委託と箱貸しで、組数に応じて増減する費用に変えられます
- 広告宣伝費や平日の稼働のように、施設が1つでも見直せる費用もあります
- 会社を売る理由が出てきたら、事業譲渡では新郎新婦と社員の一人一人に承諾をもらう段取りが必要です
☑ 次にすること
- 決算書から、過去3年の施行組数と損益分岐点の組数を調べる
- 予約の記録から、来館した新郎新婦の経路ごとの件数を数える
- 社員の人数と、平日に会場を使った日数を数える
- 社員のウエディングプランナーが担当しきれなかった組の数を数える
- 会社を売る理由が出てきたら、事業承継・引継ぎ支援センターに相談する
この数字がそろえば、経営者は、どの固定費から変動費に変えるかを、自社の数字を基に決められます。
用語解説
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 寡占化 | 少数の |
| 独立系施設 | 大手グループに |
| M&A | 会社や |
| 株式譲渡 | 会社の |
| 事業譲渡 | 会社の |
| 合併 | 2つ以上の |
| 子会社化 | 他の |
| 前受金 | 新郎新婦から |
| 損益分岐点 | 利益と |
| 固定費 | 社員の |
| 変動費 | 業務委託の |
| 業務委託 | 社員と |
| 箱貸し | 会場が |
| PMI | M&Aの |
出典一覧
- ノバレーゼ「婚礼大手のノバレーゼとエスクリ 経営統合」(2025年11月14日) https://www.novarese.co.jp/wpcms/wp-content/uploads/2025/11/20251114.pdf
- オンザページ「婚礼大手オンザページ、合併後初のMVVを策定」(2026年8月14日) https://onthepage.jp/wpcms/wp-content/uploads/2026/08/2026081402.pdf
- テイクアンドギヴ・ニーズ「事業譲受に関する契約締結のお知らせ」(2025年10月31日) https://www.tgn.co.jp/news/post/484/
- THE WHY HOW DO COMPANY「株式会社スティルアンの株式取得(子会社化)及び特定子会社の異動に関するお知らせ」(2025年9月18日) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000523.000001924.html
- CRAZY「横浜のシンボル マリンタワーが、ふたりの幸せの「しるし」に。Marine Tower Weddingが5月30日にリニューアルオープン」(2026年5月28日) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000069.000030858.html
- 東京商工リサーチ「2025年『結婚式場』の業績は二極化 減収企業は1.7倍、明暗分かれる」(2026年6月23日) https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1202976_1527.html
- 中小企業基盤整備機構「令和7年度 事業承継・引継ぎ支援センターの実績について」(2026年5月29日) https://www.smrj.go.jp/press/2026/hkj3i8000000cu5o.html
- e-Gov法令検索「民法」第539条の2、第625条 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
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執筆者
株式会社永光 代表取締役 高橋 龍一
婚礼の現場とフリーのウエディングプランナーを経て、2018年からウエディングプランナーの業務委託サービス「プラスワン・プランナー」を運営しています。
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