読解・ブライダル市場②〜来館前の勝負

本ブログは、弊社代表・高橋がかつて婚礼施設で実施したセミナーの内容を、最新データに置き換えて書き直したものです。婚礼施設の責任者とウエディングプランナーに向けた全7回の連載「ブライダル市場を読み解く」の第2回として、新郎新婦が会場を決めるまでに何をしているのかを数字で追い、そこから導かれる来館前に勝負はついているという結論と、その先にある必要条件と十分条件、そして違いの伝え方までを整理します。
読み終えると、自社が選ばれるかどうかが決まっている場所はどこなのか、改装ではなく改革として何ができるのか、そしてそれが最終的にどこへ向かうのかが、一本の線でつながって見えるようになります。
新郎新婦は、どうやって会場を決めているのでしょうか
第1回では、ブライダル市場全体の輪郭と、婚姻数を動かしている構造的な要因を見てきました。今回はその市場のなかで、新郎新婦が実際にどう動いているかに視点を移します。
問いはひとつです。新郎新婦は、どうやって会場を決めているのでしょうか。
いつごろから考え始めて、何会場に問い合わせ、何会場を見学し、どの時点で決めているのか。この一連の流れを数字で追っていきます。ここを押さえないまま接客の話に入っても、打つ手の位置がずれてしまうからです。
検討開始から決定まで
まず、いつごろから会場を考え始めるのでしょうか。
検討を開始するのは挙式や披露宴の平均10.1ヵ月前、会場を決定するのは平均8.3ヵ月前です。そのあいだの検討期間は、平均で1.9ヵ月間となっています。
ここで目を留めていただきたいのは、検討期間のほうです。1.9ヵ月間ということは、およそ2ヵ月足らずで会場が決まっているということになります。1年近く前から考え始めているにもかかわらず、実際に比較して結論を出す期間は、そのごく一部でしかありません。
では、その2ヵ月足らずのあいだに、新郎新婦は何会場を見ているのでしょうか。
何会場に問い合わせ、何会場を見学するのでしょうか
問い合わせや資料請求をした会場数は、平均2.8ヶ所です。実際に訪問した会場数は、平均2.6ヶ所となっています。
訪問会場数の内訳を見ると、1ヶ所が27.5%、2ヶ所が24.0%、3ヶ所が23.4%です。3ヶ所以内で見学を終えている人が、あわせて7割を超えます。
問い合わせが2.8ヶ所、訪問が2.6ヶ所ですから、資料を取り寄せた会場のほとんどに足を運んでいることになります。逆に言えば、問い合わせの段階でおおよその候補は絞り込まれているということです。
この点は、直近の傾向としても同じ水準にあります。ゼクシィ結婚トレンド調査2024の全国推計値でも、ブライダルフェアに参加した人が訪れた会場数は平均2.6軒とされています。見学する会場数が近年で大きく増減しているわけではない、と読むことができます。
仮予約は何会場でしょうか
次に、仮予約の数です。
仮予約した会場数は平均1.0ヶ所です。内訳を見ると、1ヶ所が59.5%で最も多く、仮予約をしていない人が22.5%、2ヶ所が14.1%となっています。
3会場ほど見学しながら、仮予約は1会場しか押さえていません。つまり多くの新郎新婦は、複数の会場を天秤にかけて長く迷うという動き方をしていないということです。
何件目で会場を決めているのでしょうか
そして、最も重要な数字です。
新郎新婦が会場を決定したのは、平均2.0件目でした。内訳を見ると、1件目が44.5%、2件目が22.8%です。
ここまでの数字を一本につなげてみます。
およそ3会場を見学し、そのうち1会場を仮予約し、1件目か2件目で決めている。これが新郎新婦の会場選びの実態です。
招待客人数は何人でしょうか
会場決定の動向としてあわせて押さえておきたいのが、招待客人数です。
披露宴やウエディングパーティーの招待客人数は、平均52.0人です。推移を見ると、2018年調査では69.4人でしたが、2021年調査で42.8人まで落ち込み、そこから3年連続で回復しています。
回復はしていますが、2018年の水準にはまだ戻っていません。招待人数が減れば総額も下がりますので、第1回で見た費用総額の話ともつながっています。
その他のマーケット概要としてのフォトウエディング
ここで一度、会場決定の動向から視点を広げます。
第1回で、結婚式を行わないという選択、いわゆる「なし婚」を選ぶ人がいるという話をしました。では、そうした人たちはどのような選択を取っているのでしょうか。
2024年4月から2025年3月に結婚した人のうち、フォトウエディングや前撮りを実施した割合は74.4%です。挙式や披露宴を実施した層では86.0%、実施しなかった層でも63.7%が実施しています。
結婚式をしていない層でも6割を超えているという点に注目してください。挙式や披露宴を実施していないからといって、記念を残すこと自体をやめているわけではないということです。
では、その理由はどこにあるのでしょうか。
ここからわかることがあります。結婚式をしないという選択を取る人のなかにも、記念となる写真を残したい、それを結婚式の代わりにしたいという人がとても多いということです。
これこそが、第1回でお伝えしたマーケティング、すなわちお客様の求めているものにほかなりません。だからこそ、この需要をとらえた事業者が伸びています。市場規模も2年ぶりに1,000億円を上回りました。
数字の確認はここまでです。ここからは、この数字を扱う側の話に移ります。
ウエディングスタッフに求められるものは何でしょうか
ここで質問です。ウエディングに携わるスタッフに求められるものは何でしょうか。あなたは何が最も大切だと考えますか。
3つ挙げます。
ひとつめは、パッションとモチベーションです。ここまでずっと数字という客観的な事実の話をしてきましたが、それを扱う対象は、ブライダルという生身のお客様が求めるものです。数字は冷静に分析しつつも、その対象に向き合う姿勢としては、情熱とやる気の2つが最も大切な要素になります。
ふたつめは、古い経験は時として妨げになるということです。お客様の求めるものは常に変化していきます。その変化に対応するためのパッションとモチベーションを持ちつつ、柔軟であることが大切です。
「普通はこのようにされます」「一般的には」「皆様はだいたい」という言い方は、過去の慣習だけにとらわれた狭い視野から出てきます。その視野を広げ、お客様が本当に求めているものは何かを深く探る態度が求められます。
みっつめは、ニーズとウォンツの把握です。ニーズは顕在化したもの、つまり言語化できるものを指します。ウォンツは潜在的な要望であり、言語化が難しいイメージのことです。この2つを分けて把握することが、お客様の本当に求めているものに近づく道になります。
ウエディングスタッフに求められる最も大切なことは、この姿勢と習慣に尽きます。
外部対策と内部対策
では、そのお客様が求めているものに応えるには、何が必要でしょうか。
対策は大きく2つに分けられます。外部対策と内部対策です。前者は改装、後者は改革と言い換えられます。改革というのは、意識の変革のことです。
順番として大切なのは、外部対策の前にまず内部対策だということです。飲食店の本質は何かと問われれば、味がおいしいことだと答えることになります。本質を根底に置くことが先で、外装を整えるのはその後です。
では、その内部対策には何が必要でしょうか。
2つあります。ひとつは徹底したトップマネジメントです。これはトップダウンとは異なります。上の立場の人が独断で一方的に決めるのではなく、スタッフ一人ひとりが何が最善かを考えて話し合い、それをボトムアップで拾い上げて実行していくことを指します。理念のようなものにあたります。
もうひとつは、その全員で考えた理念に向かって、全スタッフが一体となって動くことです。この2つが、内部対策として最も大切な要素になります。
結婚式場の決定理由を知っていますか
新郎新婦が結婚式場を決める理由をご存じでしょうか。
みんなのウェディングの調査によると、結婚式場を選ぶ際に重視したポイントは、結婚式場を選ぶ際に重視したポイントは、会場の雰囲気が24.8%で最も高く、次いで料金や予算が21.8%、接客態度や対応が8.7%、料理が8.5%という結果が出ています。
会場の雰囲気が1位となると、では改装が必要なのだろうか、という話になりそうです。しかし先ほど述べたとおり、改装は外部対策です。
会場の雰囲気とは何でしょうか
そもそも会場の雰囲気とは何でしょうか。お客様は会場の何を見ているのでしょうか。
新しさでしょうか。きれいさでしょうか。動線でしょうか。もちろんそれらもあるでしょう。ですがそれだけで決まるのであれば、常に改装し続ける新しい会場しか選ばれないことになります。
歴史的な建造物は、年数を経るごとに味わいが出ます。それを改装することは基本的にありません。それでも選ばれています。
では、お客様は何を見ているのでしょうか。
お迎えの瞬間から各セクションが一体となって迎える空気、会場案内の際にいたるところにスタッフがいて全員が名前で呼んでくれること、常に笑顔で応対されること、テーブルにウェルカムカードが置かれていること、試食のデザートを出したお皿の下にサンクスカードが添えられていること。こうしたものの積み重ねが、雰囲気と呼ばれているものの正体です。
この点においてハードは関係ありません。スタッフがつくりあげる一体感を育てることが、最も決めていただける要因になります。
まずできる改革は何でしょうか
ここで、記事の前半で見た数字を思い出してください。
会場見学数は3件ほど。決定するのは1件目から2件目。この2つを重ねると、ひとつの事実が浮かび上がります。
ここに選ばれなかった会場は、そもそも比較の対象にすらなっていません。接客の巧拙を語る以前に、土俵に上がれていないということです。
よって、来館前にできることこそが勝負であり、それが改革にあたります。ここもハードは関係のない、内部対策の領域です。
来館前にできる改革は何でしょうか
新郎新婦の動きを、来館前と来館後に分けて整理します。
そのためには何が必要でしょうか。
目には見えないけれどできる改革として、清掃があります。これを徹底すると、お客様に伝える言葉に力が出ます。成功している会場は、ここを徹底しています。
お客様は比較して考えます
お客様は常に違いを比較して考えます。そこで大切になるのが、必要条件と十分条件という考え方です。
先ほど挙げた清掃は、最も基本的な改革であると同時に、最も大切な必要条件のひとつです。清掃が行き届いてはじめて、完璧なショールームができあがります。
お客様は、こちらが思っている以上にその違いを感じ取っています。そして、よい違いがあるところに決めます。だからこそ、他社との違いを知っていることには意味があります。違いを知っていれば、何が足りていないのかを改善する余地が生まれるからです。
そのうえで十分条件として、ここでしか叶わない魅力を挙げていくことになります。挙式の内容に独自性を採り入れるといったことが、この十分条件にあたる部分です。
時間もお客様の大切な決定要因です
お客様が比較するのは、会場の中身だけではありません。もうひとつ、内部対策として押さえておきたいのが結婚式の時間です。時間もまた、お客様が会場を決める大切な要因のひとつになります。
お客様の立場に立って考えてみてください。
気に入っているかどうかだけで決まっているわけではない、ということがわかります。決める可能性を広げる対策が大切になります。
そのためには、売りやすい時間に、最も売れやすい会場が押さえられるようにすることも検討する必要があります。
ただしここは、回転数を重視するのか、1組入魂でいくのかによって戦略が真逆になります。もし後者であれば、確実性を取り、売れる時間枠をより売りやすくすることが大切です。時間の設計もまた、選ばれる可能性を広げる条件のひとつだということです。
「違い」こそがすべてです
ここまで見てきた対策を施していくと、お客様からは明確なよい違いとして比較され、選ばれる確率が高まっていきます。そしてこれらはすべて内部対策でできることです。特別なお金は必要なく、意識の変革と知恵だけで勝負ができます。
選ばれるためには、違いこそがすべてです。結婚式はゼロサムゲームであり、選ばれるかそうでないかしかありません。
そしてこのリストアップは、スタッフ一人ひとりこそが把握しているものです。全員で考えること、つまりボトムアップが必要になります。
外部のコンサルタントが提案するものは、多くの場合が外部対策です。大切なのは内部のコンサルティングであり、スタッフこそが内部コンサルタントそのものです。
では、この違いをどうやって伝えていくのがよいでしょうか。
伝え方を考える前に、確かめておきたいこと
その前に、ここで基本に立ち返ります。
マーケティングとは何でしたか。お客様が求めているものを知ることでした。
では、いまの時点でお客様が最も求めているもの、つまりあなたの式場で最も売れているプランは何でしょうか。
それを、最も伝えたい「違い=良さ」と比較してみてください。
ここで思い出していただきたいのが、記事の前半で見たフォトウエディングの数字です。
仮に自社でフォトウエディングが最も売れているのに、伝えたい「違い=良さ」のなかにそれが入っていなかったとします。この場合、お客様を主語にすることが大切ですから、ここでしかできないフォトウエディングの魅力をプラン化して発信することが必要になります。
売れているものは、お客様が求めているものです。それを自社の伝えたいことの側だけで決めてしまうと、事実から離れていきます。
さいごに
なぜ、比較することがそれほど大切なのでしょうか。
それが、お客様の求めているものだからです。
時代は常に変化しつづけています。そして変化からは、多様化が生まれます。古い経験は時として妨げになること、パッションとモチベーションが大切であることを、この記事の中ほどでお伝えしました。それはこの変化と多様化に向き合うためのものでした。
第1回では、まず市場を理解することが大切だという森の話から入りました。その結論は、この「顧客を創造する」という視点に行き着きます。
ウエディングプランナーの業務の詳細に入っていくなかでも、お客様は何を求めているのだろうかと常に考える視点は、新しいニーズや顧客の創造につながります。次回以降の各論を読み進めるうえでの土台として、ここを持っていただければと思います。
次回予告
本ブログでは、新郎新婦が会場を決めるまでの動きと、そこから導かれる内部対策の考え方、そして違いの伝え方までを見てきました。次回は、その会場そのものに目を向けます。
婚礼施設にはどのようなカテゴリーがあり、お客様はそれぞれの会場に何を求めているのでしょうか。あわせて挙式スタイルの全体像もお届けします。
用語解説
出典一覧
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