結婚式場の現場主義〜浜学園と希学園の分裂から

このブログの概要|読了目安:約11分
「浜学園」という、中学受験で有名な進学塾があります。灘中学校の合格者数で通算41回の日本一を達成している塾ですが、1992年には、経営陣と講師の対立から塾が二つに分かれるという大きな出来事を経験しています。
この出来事は、どの立場から見るかで評価がまったく変わります。そして、同じことは結婚式場の運営と、そこで働く社員のウエディングプランナーとの間でも起きています。
このブログでは、浜学園と希学園の分裂を手がかりに、会場の運営と社員のウエディングプランナーがそれぞれ何を大切にしているのかを考えます。あわせて、双方がよく口にする現場主義の「現場」が、なぜ食い違うのかも説明します。
■ このブログでわかること
- 浜学園と希学園の分裂で、何が起きたのか
- 経営陣の「専任講師不要論」が、経営と専任講師でなぜ違って見えたのか
- 現場主義の「現場」が、立場によって違うこと
- 会場の運営と社員のウエディングプランナーが、それぞれ何を望んでいるのか
- 運営方針を決める前に確かめておくこと
浜学園と希学園の分裂
浜学園は、1959年から中学受験の指導を続けてきた塾です。浜学園の「浜学園について」によると、1959年から志望校合格の支援を続けており、「教育方針/沿革」では塾歴67年と記しています。そして浜学園の公式サイトは、灘中学校の合格者数で通算41回の日本一を達成したと掲げています。
ところが、その浜学園は1992年に大きく揺れました。Wikipedia の「浜学園」の項目によると、経営陣が「専任講師不要論」を唱え、それに対して、後継者に指名されていた当時の学園長と主力講師が反発して退職したのです。
そして彼らは多くの生徒を連れて独立し、新しく「希学園」をつくりました。また、Wikipedia の「前田卓郎」の項目は、この対立を、講師やアルバイトなどのスタッフの人事方針をめぐるものだったと記しています。
生徒を失った浜学園は、灘中学校の合格者数の日本一を1993年から一時途切れさせ、1995年に取り戻しています。つまり、この対立は塾の看板を揺るがすほどの出来事だったわけです。
なお、当時、外部の大手企業出身の役員が経営に加わったことで、こうした方針になったと説明されることもあります。ただし、ここまでの経緯は事典や伝聞によるもので、両塾が公式に説明したものではありません。
✔ ここがポイント
- 1992年、経営陣の「専任講師不要論」に学園長と主力講師が反発し、希学園をつくりました
- 多くの生徒が講師についていき、浜学園は一時、日本一の座を失いました
経営から見た方針
では、なぜ経営陣は「専任講師は要らない」と考えたのでしょうか。経営陣自身の説明は残っていませんが、経営の立場に立てば、その意図は理解できます。なぜなら、講師一人ひとりの力に頼っていると、その講師が辞めたときに、授業の質も生徒も一緒に失うからです。
そのため、経営陣は講師への依存度を下げ、仕組みでレベルが高く満足度の高い授業を提供できる体制を整えようとした、と考えるのが自然です。どの講師に当たっても同じ質の授業が受けられる塾であれば、生徒にとっても安心だからです。また、専任講師を雇い続けるには費用もかかるため、その費用をどう考えるかという判断も背景にあったのかもしれません。
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一方で、専任講師の側から見ると、同じ方針はまったく違って映ります。生徒に向き合い、授業を磨いてきた講師にとって、「専任講師は要らない」という言葉は、自分たちの仕事そのものを否定されたように聞こえるからです。
つまり、経営にとっては塾を守るための方針が、講師にとっては自分たちの存在意義の否定になったのです。どちらも「生徒のため」と言えるにもかかわらず対立が起きたのは、それぞれが大切にしているものが違っていたからです。
弊社は2025年1月15日のブログ「結婚式場運営における「個」と「全体最適」の二面性」で、働く人一人ひとりの価値観という「個」と、会社全体の利益という「全体」は、その本質からして衝突しやすいと書きました。なぜなら、働く人一人ひとりが大切にしているものと、会社が守ろうとしているものが違うからです。
つまり、専任講師不要論をめぐる対立は、まさにこの「個」と「全体最適」の衝突が、塾が分かれるほどの大きさで表に出た例だと言えます。そしてそのブログで書いたように、大切なのは、どちらか一方を選ぶ二者択一から抜け出すことです。
現場主義の現場
この対立には、もう一つの論点があります。それは、現場主義かどうかという論点です。
講師の側から見れば、教室に立たない経営陣が、現場を軽く見て方針を決めたように映ったはずです。ところが、経営の側にも、経営にとっての「現場」があります。
経営にとっての現場は、塾全体の運営と収支です。経営の仕事は、次の3つを見て判断することだからです。
- 教室がいくつあるか
- 講師が何人いるか
- どれだけの費用がかかっているか
これに対して、講師にとっての現場は、教室と目の前の授業です。生徒がどこでつまずき、何を説明すれば分かるのかを見て判断するのが、講師の仕事だからです。つまり、どちらも現場を見ていたのに、見ていた現場が違ったのです。
弊社は2019年7月17日のブログ「人はなぜ、会社を辞めるのか?」で、「現場力こそがすべて」という徹底した現場主義を掲げました。そこで書いたのは、責任者が現場を知らないまま机上の判断を押し付け、責任だけが現場に回ってくると、人は辞めていくということでした。
そのため弊社は、責任者は現場の長でもあると考えています。この考え方に立てば、責任者に求められるのは、自分が見ている現場だけでなく、働く人が見ている現場も知ったうえで判断することです。
! 「現場」は一つではありません
- 経営にとっての現場は、組織全体の運営と収支です
- 講師やウエディングプランナーにとっての現場は、目の前のお客様とのやり取りです
真ん中にいる生徒
そして、経営と講師の間で揺れたのが、生徒です。生徒と保護者にとっては、信頼する先生に教わり続けられることが、何より大切でした。多くの生徒が講師について新しい塾に移ったことが、それを物語っています。
その一方で、どの先生に当たっても質の高い授業が受けられることも、生徒にとっては大切なはずです。つまり、経営の言い分も講師の言い分も、生徒から見ればどちらも欠かせないものだったのです。
「ヒト一人を大切に」と言っても、その根底は立場ごとに違います。だからこそ、方針を決める側は、自分の立場の「大切に」だけで判断しないことが必要です。
結婚式場の運営方針
ここまでの話は、塾だけのことではありません。結婚式場でも、同じ構図が起きています。浜学園の経営陣にあたるのが会場の運営であり、専任講師にあたるのが社員のウエディングプランナーです。
会場の運営から見ると、社員一人ひとりに頼り切ることには不安があります。腕のある社員が辞めれば、その人が担当していた新郎新婦への対応も、新規接客の成約も揺らぐからです。
そのため、運営は外部のウエディングプランナーを活用したり、業務を仕組みにしたりして、婚礼の質を保とうとします。弊社の2026年10月2日のブログ「繁忙期に向けた業務委託活用」で、婚礼の繁閑に合わせて外部の力を使う考え方を紹介したのも、同じ理由からです。また、この判断の背景には、浜学園の場合と同じように、社員を雇い続ける費用をどう考えるかという問題があることも考えられます。
ところが、社員のウエディングプランナーから見ると、話は違ってきます。社員が望んでいるのは、外部を使うことではなく、自分たちの待遇の向上や成果への評価だからです。
会場が外部に費用をかけるのであれば、その分を自分たちに回してほしいと感じるのは自然なことです。そのため、運営が質を守るために選んだ方針が、社員には「自分たちは評価されていない」と映ることがあります。これは、浜学園の専任講師が、経営陣の方針を自分たちの存在意義の否定と受け止めたのと同じ構図です。
| 立場 | 大切に |
外部を |
|---|---|---|
| 会場の |
社員に |
質を |
| 社員の |
自分たちの |
自分たちの |
では、運営と社員のどちらが正しいのでしょうか。弊社は、どちらか一方を選ぶ必要はないと考えています。
2025年1月26日のブログ「「仕組みはきっちり、運用は緩く」」で書いたように、業務の標準化や評価の基準といった仕組みは、属人化を防ぐためにきっちり整えます。その一方で、新郎新婦と向き合うウエディングプランナーには、その場で判断できる裁量を残します。
さらにそのブログでは、即決に至らなかった新規接客でも、ヒアリングや提案の中身を評価する方法を書きました。なぜなら、社員が望んでいるのは、自分たちの待遇の向上や成果への評価だからです。だから、社員が望む成果への評価には、こうした運用の側で応えることができます。
婚礼の現場はどこか
結婚式場でも、運営と社員とでは、見ている現場が違います。運営にとっての現場は、会場全体の運営と収支です。一方で、社員のウエディングプランナーにとっての現場は、新郎新婦との打合せと、結婚式の当日です。
そのため、運営が「現場を守るため」に外部を活用しても、社員には「自分たちの現場を見ていない」と聞こえます。反対に、社員が「現場を分かってほしい」と訴えても、運営には、収支という現場が社員に見えていないと映ります。だからこそ、方針を議論する前に、運営と社員が、それぞれどこを現場と見ているのかを話し合い、言葉にしておく必要があります。
■ この章のまとめ
- 運営にとっての現場は、会場全体の運営と収支です
- 社員のウエディングプランナーにとっての現場は、新郎新婦との打合せと結婚式の当日です
- 方針を議論する前に、どこを現場と見ているかを言葉にしておきます
真ん中にいる新郎新婦
そして、浜学園の真ん中に生徒がいたように、結婚式場の真ん中にいるのは新郎新婦です。運営の方針も、社員の望みも、つきつめれば、どちらも新郎新婦のためと言えます。
だからこそ、どちらの言い分が正しいかではなく、新郎新婦にとってどうかを基準にして考えることが大切です。なぜなら、運営の方針も、社員の待遇や評価も、最後は新郎新婦の結婚式に表れるからです。
方針を決める前に
ここまでを踏まえると、運営方針を決めるときには、外部を活用するかどうかだけでなく、その方針が社員にどう伝わるかまで考えておく必要があります。弊社の2025年6月16日のブログ「やる気を高めるブライダルの人事設計」でも、ウエディングプランナーの評価と報酬の仕組みを扱いました。
☑ 方針を決める前に確かめること
- 外部を活用する理由を、社員に言葉で説明できるか
- 社員の成果をどう評価し、待遇にどう反映するかを示しているか
- 運営と社員が、それぞれどこを現場と見ているかを話し合ったか
- 方針の良し悪しを、新郎新婦にとってどうかを基準に見直しているか
この中で、明日すぐに確かめられるのは、今の運営方針の理由を、社員に一言で説明できるかどうかです。もし説明できないのであれば、社員はその方針を、自分たちへの評価として受け止めている可能性があります。
よくある質問
まとめ
このブログでは、浜学園と希学園の分裂を手がかりに、同じ方針が立場によってどう違って見えるのかを考えました。
■ このブログの要点
- 浜学園の経営陣が唱えた「専任講師不要論」は、経営から見れば講師への依存度を下げて授業の質を保つための方針と理解できます
- しかし、専任講師から見れば、自分たちの存在意義の否定と映るものでした
- 両者の食い違いの根には、どこを現場と見ているかの違いがありました
- 結婚式場でも、社員に頼り切らず外部の活用や仕組みで質を保とうとする運営方針は、自分たちの待遇の向上や成果への評価を望む社員のウエディングプランナーには、評価が後回しにされたと映ることがあります
- 仕組みはきっちり整え、運用では社員の裁量と成果への評価を残すことが、「個」と「全体最適」の二者択一から抜け出す道になります
☑ 次にすること
- 今の運営方針の理由を、社員に一言で説明できるかを確かめてください
- そのうえで、運営と社員がそれぞれどこを現場と見ているのかを話し合う場を設けてください
どちらの言い分が正しいかではなく、新郎新婦にとってどうかを基準にして考えることが大切です。
用語解説
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 現場主義 | 現場で |
| 専任講師 | 塾に |
| 専任講師不要論 | 専任講師を |
| 運営方 |
会場を |
| 外部の |
会場の |
| 全体 |
一人 |
出典一覧
- 浜学園「浜学園について」 https://www.hamagakuen.co.jp/about/
- 浜学園「教育方針/沿革」(2026年10月14日閲覧) https://www.hamagakuen.co.jp/about/history/
- 浜学園 公式サイト トップページ(2026年10月14日閲覧) https://www.hamagakuen.co.jp/
- Wikipedia「浜学園」(2026年10月14日閲覧) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B5%9C%E5%AD%A6%E5%9C%92
- Wikipedia「前田卓郎」(2026年10月14日閲覧) https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%89%8D%E7%94%B0%E5%8D%93%E9%83%8E
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執筆者
株式会社永光 代表取締役 高橋 龍一
婚礼の現場とフリーのウエディングプランナーを経て、2018年からウエディングプランナーの業務委託サービス「プラスワン・プランナー」を運営しています。
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