フリープランナーの単価と実質時給

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フリープランナーの単価は、「打合せ1件あたりいくら」「1施行あたりいくら」という形で示されることがほとんどです。ところが、その仕事に自分が差し出しているものは時間です。報酬は件数で数え、負担は時間で発生しますので、二つの単位が食い違っています。
この食い違いを放置したまま条件を受けてしまうと、後になって「思っていたほど残らない」という感覚だけが残ります。しかし、その感覚を言葉で説明できなければ、次の交渉の材料にはなりません。
そこでこの記事では、提示された金額を拘束時間で割り直して実質時給を出す手順を示します。そのうえで、その数字を契約前のどこで使うのか、2024年11月に施行されたフリーランス法が単価の決め方にどう関わるのかを確認していきます。
件数と時間、単位のずれ
会社員としてウエディングプランナーをしていたときは、この換算を自分で行う必要がありませんでした。なぜなら、月給という形で、働く時間と報酬があらかじめ結び付けられていたからです。出社してから退社するまでの全部が仕事の時間であり、その対価が毎月決まった額で支払われていました。
ところが業務委託では、報酬が成果や件数に対して支払われます。そのため、その1件のために何時間を使ったのかは、自分で数えないかぎり誰も教えてくれません。
弊社は以前、「好きを仕事にする」理想と現実という記事で、フリープランナーには収入が変動するという現実があることを書きました。その変動に備えるためには、まず1件あたりの数字を時間に直しておく必要があります。なぜなら、時間に直しておかなければ、どの仕事を優先し、どの条件を見直すべきかを判断できないからです。
拘束時間に数えるもの
では、何を拘束時間として数えればよいのでしょうか。実際に自分の時間が使われているものは、打合せそのものだけではありません。
| 区分 | 含まれるもの | 見落とされやすい理由 |
|---|---|---|
| 実働 | 新規接客、打合せ、施行当日の立会い | ほとんど見落とされません |
| 移動 | 会場までの往復、会場間の移動 | 「動いているだけ」と感じるためです |
| 準備 | 進行表の作成、会場ルールの確認、提案資料の用意 | 自宅で行うため、仕事として数えにくいからです |
| 待機 | 来館の待ち時間、施行当日の空き時間 | 拘束されていても作業をしていないためです |
| 事後 | 議事録の共有、次回日程の調整、請求書の作成 | 打合せが終わった時点で仕事も終わったと感じるからです |
| 連絡 | 打合せ以外のメールや電話への対応 | 1回が短く、記録に残らないためです |
このうち、特に抜けやすいのが準備と事後の作業です。理由は単純で、その二つは会場ではなく自宅で行われるからです。自宅の机で進行表を整えている1時間は、会場で新郎新婦と向き合っている1時間と同じだけ自分の時間を消費していますが、報酬の対象として意識されにくくなります。
待機の扱いも整理しておいたほうがよいところです。来館予定の30分前に会場へ入り、結果として新規のお客様が来館されなかった場合、その30分は作業をしていません。しかし、その時間に別の仕事を入れることはできませんでしたので、拘束はされています。したがって、実質時給を出す目的においては、待機も時間に数えます。
まずは、次に受ける1件について、これらの区分ごとに時間を記録してみてください。記憶だけで見積もると、移動と準備は実際より短く見積もられます。
実質時給の出し方
拘束時間を数えられるようになると、実質時給を出せます。式は次のとおりです。
実質時給 =(報酬 − 自分が負担した経費)÷ 拘束時間の合計
ここから先は具体的な数字で見ていきます。なお、以下に挙げる金額と時間は、計算の手順を示すために置いた仮のものです。実際の金額は契約ごとに異なりますので、ご自身の条件に置き換えて読んでください。
打合せ1件の拘束時間を、次のように置きます。
| 区分 | 時間 |
|---|---|
| 打合せ本体 | 2.0時間 |
| 事前の準備 | 0.5時間 |
| 移動(往復) | 1.5時間 |
| 事後の作業 | 0.5時間 |
| 合計 | 4.5時間 |
この打合せ1件の報酬を8,000円、自己負担の交通費を1,200円とします。すると、実質時給は次のようになります。
(8,000円 − 1,200円)÷ 4.5時間 = 約1,511円
打合せ本体の2.0時間だけで割ると4,000円になりますので、数字は3分の1近くまで下がります。この差が、冒頭に書いた単位のずれの正体です。
会場が変わると変わる数字
同じ計算を、条件を一つだけ変えて行うと、この数字の性質がはっきりします。
自宅から近い会場で、移動が往復30分で済む場合を考えます。準備と事後は同じだけかかるとしますので、拘束時間の合計は3.0時間になります。交通費の自己負担を600円とすると、実質時給は次のようになります。
(8,000円 − 600円)÷ 3.0時間 = 約2,467円
報酬額はどちらも8,000円で同じです。それにもかかわらず、実質時給は1,000円近く違います。変わったのは会場の立地だけです。
つまり、比べるべきは提示された金額ではなく、移動を含めた後の数字です。「単価の高い会場」と「実質時給の高い会場」は一致しません。遠方の会場から良い条件を示されたとき、その条件が本当に良いのかどうかは、この計算をするまで判断できません。
そして、遠方の仕事ほど交通費の扱いが結論を左右します。交通費が報酬に含まれているのか、それとも別途支給されるのかによって、実質時給は大きく動くからです。ここは口頭で確認して終わらせず、書面に残しておくべき点になります。その理由は、後で触れるフリーランス法の明示義務に関わってきます。
月単位で見た実質時給
1件ずつの計算が終わったら、次は月単位で見てください。なぜなら、1件では成立している条件でも、月でならすと別の数字になることがあるからです。
月の実質時給は、次のように出します。
月の実質時給 = その月の報酬合計 ÷ その月に婚礼の仕事へ使った時間の合計
この分母には、報酬の対象にならなかった時間も入ります。具体的には、直前で中止になった打合せのために行った準備の時間、会場から依頼された事前の打合せの時間、契約に至らなかった問い合わせへの対応などが該当します。これらは実際に自分の時間を使っていますが、支払いの対象にはなっていません。
婚礼には繁忙期と閑散期があります。したがって、1か月だけを見て判断すると、良すぎる月か悪すぎる月のどちらかを見ることになります。2か月か3か月続けて記録し、その幅を確認してください。単価を決めるときに必要なのは、最も良かった月の数字ではなく、幅の下のほうにある数字です。
手取りとの距離
ここまで出してきた実質時給は、税金と社会保険料を引く前の数字です。そのため、この金額がそのまま手元に残るわけではありません。
業務委託の報酬は、原則として源泉徴収されずに満額が振り込まれます。しかし、差し引かれていないだけであって、納税の義務が消えたわけではありません。この点については、業務委託の「振込額」と「手取り」の違いで詳しく整理していますので、あわせてお読みください。
社会保険の負担にも違いがあります。日本年金機構によれば、厚生年金保険の保険料率は18.3パーセントで固定されており、この保険料は事業主と被保険者が半分ずつ負担することになっています。つまり、会社員として働いていたときは、給与明細に出ていた保険料と同額を、会社がもう一方で負担していました。業務委託にはこの折半がありません。
したがって、会社員時代の時給と実質時給が同じ数字になったとしても、最終的に手元に残る額と、将来受け取る年金の額は同じになりません。過去の給与と比較するときは、この差を頭に置いておく必要があります。
最低賃金という参照点
比較の材料として、最低賃金にも触れておきます。厚生労働省は2026年9月3日に、令和8年度の地域別最低賃金の改定額が全ての都道府県で答申されたことを発表しました。全国加重平均は1,177円で、前年度の1,121円から56円の引上げになります。引上げ額の幅は54円から65円で、改定額は2026年10月1日から12月2日までの間に、都道府県ごとに順次発効する予定です。
ただし、この制度がそのままフリープランナーに当てはまるわけではありません。厚生労働省は、地域別最低賃金について「産業や職種にかかわりなく、都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に適用されます」と説明しており、パートタイマーやアルバイトなど雇用形態を問わず適用されるとしています。適用の対象は、あくまで雇用されて働く労働者です。業務委託は雇用契約ではありませんので、この制度の対象には入りません。
言い換えれば、業務委託の報酬には法律で定められた下限がありません。だからこそ、自分で床を決めておく必要があります。
参照点としては使えます。1,177円という金額は、雇用されて働いた場合に最低限支払われる水準です。移動と準備を含めて計算した実質時給がこの水準に近づいているのであれば、条件を見直すか、その仕事の受け方を変えるかを検討する材料になります。ここで大切なのは、下回っているから違法だという話ではなく、自分が判断するための目盛りとして使うという点です。
単価に関わる法律
自分で床を決めるといっても、単価は相手との合意で決まります。その合意の進め方については、法律が定めを置いています。2024年11月1日に、フリーランス・事業者間取引適正化等法が施行されました。正式名称を「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」といい、公正取引委員会と中小企業庁が所管しています。
このうち、単価に直接関わるものを整理します。
| 条項 | 内容 | 単価との関係 |
|---|---|---|
| 第3条 取引条件の明示 | 業務委託をしたら直ちに、書面か電磁的方法で取引条件を明示する義務があります。電話などの口頭は認められません | 明示事項には報酬の額と支払期日が含まれます。発注側が諸経費を負担する場合は、総額が把握できるように明示することとされています |
| 第4条 期日における報酬支払 | 給付を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間で支払期日を定め、その日までに支払う義務があります | 「30日以内」「月末まで」という書き方では、支払期日を定めたことになりません |
| 第5条 買いたたきの禁止 | 通常支払われる対価に比べて著しく低い報酬の額を、不当に定めることが禁止されています | 報酬の額は、受注側と協議して定めることが求められています |
| 第5条 変更・やり直し | 発注側の都合で発注を取り消したり、やり直しをさせたりする場合、作業に要した費用を負担する必要があります | 準備に使った時間が無条件で無償にならない根拠になります |
このうち、単価を考えるうえで最も重要なのは買いたたきの判断のしかたです。公正取引委員会のパンフレットによれば、買いたたきに該当するかどうかは、次の4つの要素を勘案して総合的に判断されます。
- 報酬の額の決定に当たり、受注側と十分な協議が行われたかどうかなど、対価の決定方法
- 差別的であるかどうかなど、対価の決定内容
- 「通常支払われる対価」と当該給付に支払われる対価との乖離の状況
- 当該給付に必要な原材料等の価格動向
注目していただきたいのは、1番目に協議の有無が挙げられている点です。つまり、単価について話し合うという行為そのものが、この法律の想定に含まれています。金額の話を切り出すことは、遠慮すべきことではありません。
なお、パンフレットには違反となる例として、冠婚葬祭業者が披露宴等の司会を委託している司会者に対し、式場で提供しているおせち料理やクリスマスケーキ等の購入を要請して購入させた事例が挙げられています。これは購入・利用強制に当たるものとして示されています。婚礼の現場に近い例ですので、発注する側も受注する側も知っておくべき内容です。
ただし、第5条の禁止行為が適用されるのは、1か月以上の業務委託を行う場合です。1日だけの単発の依頼には、この条文は適用されません。一方で、第3条の明示義務は、期間の長短にかかわらず適用されます。
発注側も時間で計算している
ここまではプランナーの立場で書いてきましたが、発注する婚礼施設の側も、実は時間を根拠に金額を組み立てています。
弊社は以前、新規接客における接客報酬と成約報酬の合理的な算出方法という記事で、施設側の立場から接客フィーの算出方法を示しました。そこでは、工数単価にお出迎えからお見送りまでの時間を掛けることで接客フィーを求めています。つまり、発注する側の計算も、根拠は時間に置かれています。
したがって、プランナーが拘束時間を根拠に話をすることは、施設側の計算と同じ土俵に乗ることを意味します。感覚のぶつけ合いにはなりません。
ただし、施設側が数えているのは会場の中で発生する時間であることが多く、移動と準備は含まれていない場合があります。この差こそが、実際の論点になります。自分が数えた拘束時間を示し、そのうちどこまでを報酬の対象と考えるのかを、最初にすり合わせておくのが確実です。
また、委託の範囲が曖昧なままだと、書かれていない作業が少しずつ積み上がり、拘束時間だけが膨らみます。この構造については、業務「委託」と「丸投げ」の違いで整理しています。単価が適正かどうかは、金額だけでは決まらず、何をどこまで請けているのかとセットで決まります。
提示の前に決める6項目
以上を踏まえて、条件を提示したり、提示された条件に返答したりする前に決めておく項目をまとめます。
| 項目 | 確認の観点 |
|---|---|
| 1件あたりの想定拘束時間 | 実働だけでなく、移動・準備・待機・事後を含めて数えます |
| 交通費の扱い | 報酬に含まれるのか、別途支給なのかを書面で確認します |
| 時間が延びたときの扱い | 打合せが延長した場合や、回数が増えた場合の追加分を決めます |
| キャンセル時の扱い | 直前の中止で、準備に使った時間が無償にならないようにします |
| 支払期日 | 「○日以内」ではなく、具体的な日付で決めます |
| 中途解除の条件 | 契約が途中で終わる場合の予告の有無と期間を確認します |
これらは、いずれも金額そのものではありません。しかし、実質時給を左右するのは、この6項目のほうです。1件8,000円という金額が同じであっても、交通費の扱いとキャンセル時の扱いが違えば、手元に残る額は変わります。
数字を持って話す
単価の話を切り出すことに抵抗を感じる方は少なくありません。値上げの要求だと受け取られるのではないか、次の依頼が来なくなるのではないかと考えるからです。
しかし、拘束時間を示すことは、値上げの要求とは別のことです。それは、その金額で何時間分を頼んでいるのかという前提を、双方で確認する作業です。施設の側も、移動と準備にどれだけの時間がかかっているかを把握していない場合があります。示されて初めて、自分たちの見積りの前提が分かることもあります。
そして、この話ができるかどうかは、手元に数字があるかどうかで決まります。感覚では相手も判断できないからです。
次に受ける1件から、移動と準備を含めた時間を記録してみてください。1件では何も分かりませんが、10件たまると、自分の実質時給がどこからどこまでの幅に収まっているのかが見えてきます。その幅こそが、次に単価を決めるときの根拠になります。
用語解説
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 実質時給 | 報酬から自分が負担した経費を差し引き、拘束時間の合計で割った金額のことです |
| 拘束時間 | 実働だけでなく、移動・準備・待機・事後の作業を含めた、その仕事のために使った時間の合計のことです |
| 工数単価 | 作業1時間あたりに設定する単価のことです |
| フリーランス法 | 正式名称を「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」といい、2024年11月1日に施行されました |
| 特定受託事業者 | フリーランス法が対象とする、従業員を使用しない個人などの受注者のことです |
| 買いたたき | 通常支払われる対価に比べて著しく低い報酬の額を、不当に定めることです |
| 地域別最低賃金 | 都道府県ごとに定められ、その地域の事業場で働く労働者と使用者に適用される賃金の下限のことです |
| 標準報酬月額 | 社会保険料を計算するために、給与額を区分して当てはめた金額のことです |
出典一覧
- 公正取引委員会・中小企業庁「ここからはじめる フリーランス・事業者間取引適正化等法パンフレット」(令和6年11月1日施行) https://www.jftc.go.jp/file/flpamph.pdf
- 厚生労働省「全ての都道府県で地域別最低賃金の改定額が答申されました」(2026年9月3日報道発表) https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_75950.html
- 厚生労働省「最低賃金の適用される労働者の範囲」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/chingin/newpage_43886.html
- 日本年金機構「厚生年金保険の保険料」 https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20150515-01.html
- プラスワンプランナー「業務委託の『振込額』と『手取り』の違い」(2026年9月17日公開) https://plusone-p.com/gyoumuitaku-tedori/
- プラスワンプランナー「新規接客における接客報酬と成約報酬の合理的な算出方法」 https://plusone-p.com/shinkisekkyaku-seiyakuhoushu/
- プラスワンプランナー「業務『委託』と『丸投げ』の違い」(2025年10月18日公開) https://plusone-p.com/gyoumuitaku-marunage/
- プラスワンプランナー「『好きを仕事にする』理想と現実」 https://plusone-p.com/freeplanner-reality/
※ 本記事は2026年9月18日時点で公表されている内容に基づいています。制度は改正されることがありますので、実際の判断にあたっては各出典元の最新の情報をご確認ください。記事中の金額と時間は、計算手順を示すための仮の数値です。
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