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ブライダル業界をファイナンスする

はじめに

結婚式業界において「少子高齢化」や「婚姻数の減少」といった外的変化が進むなか、「いかに変化する外部環境に対応するか」といった視点が語られることが多いです。

しかし、果たして、変化に対応するということは「外部環境への対応」という大きな枠組みだけを指すのでしょうか?

今回は、ファイナンス的な視点からそれらを考えてみたいと思います。なぜなら、ファイナンス的にみることで、こうした変化のなかにも「変えられないリスク」と「変えられるリスク」があることに気づけるからです。。そうしたリスクの違いを明らかにしながら、ブライダル業界の持続可能性を高めるための実践的なヒントを探っていきたいと思います!

リスクには2種類ある

ファイナンスの視点では、リスクは大きく「市場リスク」と「個別リスク」に分けられます。まずそれぞれの違いを押さえておきましょう。

  • 市場リスク(ベータ):経済全体の景気や少子高齢化、婚姻組数の減少など、個々の企業ではどうすることもできないリスク。
  • 個別リスク(アルファの余地):人件費構造や利益構造など、企業独自の取り組みで対処可能なリスク。

このように、リスクには「逃れられないもの」と「自分で設計できるもの」があり、それぞれで経営のアプローチが異なります。

市場リスク=変えられないリスク

結婚式業界をファイナンスの視点で捉えるうえで、最初に押さえておくべき概念が「市場リスク」と、それを定量的に表す「ベータ(β)」です。

● ベータとは何か

ファイナンスにおいてベータとは、ある資産や事業が、市場全体の動きとどれだけ連動して動くかを示す指標です。

  • 市場全体が上がれば、自社の価値も上がる
  • 市場全体が下がれば、自社の価値も下がる

このように、市場に引っ張られて上下する度合いを数値化したものがベータです。

例えば、ベータが1.0であれば、市場が10%動けば自社もほぼ10%動く。
ベータが2.0であれば、市場の2倍揺れやすい。
逆に、ベータが0.5であれば、市場の半分程度しか動かないという意味になります。

● なぜベータなのか?

市場リスクとベータは同義ではありませんが、「市場リスクにどれだけ影響を受けるか」を数値で示すのがベータです。

つまり、ベータは市場リスクの“体感温度”のようなものといえます。

● 結婚式業界における「市場リスク」

このベータという概念を、結婚式業界に当てはめてみましょう。

業界が市場全体に影響される要素とは、たとえば以下のようなものです。

要素市場リスクとしての意味
少子高齢化将来の婚姻件数そのものが減る可能性
婚姻数の長期減少挙式・披露宴ニーズの母数が減少する
景気悪化・物価高騰消費者の支出意欲・可処分所得が減る

これらは、どれだけ現場が努力しても避けられない「構造的な波」です。
ファイナンス的には、「与えられた外部環境」であり、事業者自身ではコントロールできない変動要因です

● わかりやすく言うと…

以下のようにイメージすると、ベータの役割がよりはっきりします。

具体例内容
天気に例えると市場リスクは“気候そのもの”、ベータは“その気候にどれだけ敏感か”
海に例えると市場リスクは“海のうねり”、ベータは“その波にどれだけ揺れるか”

このように、ベータとは市場リスクの影響をどれだけ受けるかを示す指標であり、
結婚式業界で言えば「人口動態」や「景気」など、業界全体に共通する“避けがたい波”にあたります。つまり、「変えられないリスク」ということです。

個別リスク=変えられるリスク

一方で、企業独自の構造設計や経営努力によって変えられるリスクも存在します。これが「個別リスク」であり、ファイナンスではこれを改善・最適化する余地として「アルファ(α)」と呼びます。

アルファとは、市場全体の動き(=ベータ)では説明できない、企業独自の努力や判断によって得られる成果のことです。ブライダル業界に当てはめれば、以下のような取り組みが該当します。

工夫・戦略意味するもの
箱貸し運営自由度を高め、オペレーション&ブランドマネジメントに集中できる
プランナー業務委託人件費の変動費化による固定費の圧縮

これらはまさに、「市場の波を完全には止められないが、その揺れを自社の設計で小さくする」ための取り組みです。アルファの追求とは、このように、「変えられるリスクに対応する」ということを指します。

ベータとアルファの違いを整理する

ここまでの話を図でまとめると、以下のようになります。

項目ファイナンス的意味ブライダル業界での具体例経営でできること
ベータ  市場全体との連動性少子化、婚姻組数減少、経済不況原則としてコントロール不可
アルファ自社努力による上乗せ成果箱貸し運営、人材構造見直し戦略設計によって最適化可能

つまり、「ベータは下げられないが、アルファは対応できる」というのが、ファイナンス的にみたブライダル業界の最適解といえます。

ファイナンス視点をもっとブライダルに!

最後に、もうひとつ大切な考え方として「シャープレシオ」があります。

シャープレシオとは、「どれだけのリスク(=ブレ)を取って、どれだけのリターンを得ているか」を示す指標です。数式では「リターン − リスクフリー利率 ÷ リスク(標準偏差)」で表され、リスク1単位あたりの成果を測るものです。

つまり、アルファを積み重ねて成果を上げながら、リスク(特に個別リスク)を抑えることができれば、シャープレシオは改善されます。

この考え方は、ブライダル業界における「固定費を抑え、より新郎新婦の満足と婚礼施設の利益を産み出すための設計」にそのまま応用できます。

ファイナンス的に考えるということは、「構造を見直すための思考の道具を使う」ということです。変えられないリスクに気づき、変えられるリスクに集中する。そんなシンプルで本質的な経営視点を支えるのが、ファイナンスという共通言語なのです。

ファイナンス的に考えることは、事業構造そのものを「設計し直す」ための視点ともいえます。市場リスクに押し流されそうなブライダル業界だからこそ、変えられることに目を向け、設計する力が問われています。このブログが、そうした取り組みのヒントになれば幸いです!

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