業務委託の競業避止義務は妥当か〜対価と役割から検証する

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いつもブログをお読みいただき、ありがとうございます。プラスワン・プランナーを運営する、株式会社永光の高橋龍一です。
本日のブログでは、業務委託契約書の競業避止条項は妥当なのかを、いくつかの観点から検証します。競業避止条項とは、委託元と競合する業務を受託しないことを定める条項で、契約期間中だけでなく、契約が終わった後の一定期間についても定めます。
このテーマを取り上げる理由
このテーマを取り上げるのは、弊社に、引き抜きや商道徳を無視した取引をめぐるトラブルの相談が多く寄せられているからです。しかも、相談は婚礼施設とフリープランナーの双方からいただいています。
- フリープランナーから:引き抜きに応じて、婚礼施設やほかの委託会社と契約したところ、その婚礼施設や委託会社に多くの問題があった
- 婚礼施設から:他社や委託会社と契約しているフリープランナーとは知らずに契約し、その会社とトラブルになった
- 経験の浅いフリープランナーをめぐって:契約の重みを理解しないまま、業務経験も少ない状態で多数の婚礼施設と契約し、トラブルになった
実際、私自身も、かつてクラウドソーシングを通じてウェブサイトの制作を依頼したところ、代金を支払った後で業者と連絡が取れなくなり、詐欺の被害に遭ったことがあります。この経験については、後半で詳しくお伝えします。
条項の厳しさだけで判断すると選択を誤る
こうしたトラブルを防ぐための取り決めの一つが、競業避止条項です。ただ、フリープランナーは、複数の婚礼施設や委託会社と取引しながら働くことが多いため、競業避止条項は、受けられるお仕事を狭める条項として受け止められやすいものです。しかし、私は、競業避止条項を、条項があるかどうかや、どれだけ厳しいかだけで判断すると、契約先の選択を誤ると考えています。なぜならば、競業避止条項は、フリープランナーが受けられるサポートとセットになっているからです。
例えば、委託会社と契約すると、フリープランナーは自分で営業しなくても、委託会社が探してきた婚礼施設でお仕事ができます。また、お仕事に入る前に研修を受けることができ、婚礼施設とのあいだでトラブルが起きたときには、委託会社が間に入って対応するのが一般的です。マッチングサービスを使う場合も、自分で営業しなくても、サービスを通じて婚礼施設と出会うことができます。
こうしたサポートの裏側では、委託会社や運営会社が費用をかけています。そのため、条項の重さが妥当かどうかは、受けられるサポートと見合っているかで判断できます。反対に、サポートがほとんどないのに条項だけが重い契約は、見合っているとはいえません。
今回の検証の進め方と結論
今回は、前半で、法律、ビジネスモデル、他業界の事例、秘密保持条項との関係、商慣習の5つの観点から、フリープランナーにとって競業避止条項が妥当かどうかを検証します。後半では、プラスワン・プランナーを運営する弊社としての考え方と、実際に定めている取り決めをお伝えします。
結論からお伝えすると、競業避止条項は、フリープランナーが受けられるサポートと、そのためにかかっている費用に見合う範囲であれば妥当です。むしろ、婚礼施設・委託会社・フリープランナーの三者の利益を守るために必要なものです。反対に、その範囲を超える条項や、説明もなく一方的に求める条項は、妥当とはいえません。
■ このブログでわかること
- 業務委託の競業避止条項とは何か
- 競業避止条項が妥当といえるかの5つの観点からの検証
- フリープランナー目線で見る、問題になる場合とやりすぎの場合
- 契約する前に確認しておきたいこと
- プラスワン・プランナーでの取り決めと、その考え方
業務委託の競業避止条項とは何か
冒頭でお伝えしたとおり、競業避止条項は、委託元と競合する業務を受託しないことを定める条項です。フリープランナーが委託会社と結ぶ業務委託契約書では、例えば次のような内容が求められます。
- 契約期間中は、競合する別の委託会社と契約しないこと
- 契約期間中も契約が終わった後も、委託会社を通じて受託していた婚礼施設と、委託会社を通さずに直接契約しないこと
- 委託会社の契約先で知り合った関係者からの勧誘に、委託会社を通さずに応じないこと
条文にすると、例えば「契約期間中及び契約終了後の一定期間、当社を介さずに、当社の取引先である婚礼施設と直接契約してはならない」といった書き方になります。
フリーランスのガイドラインでの呼び方
なお、公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省の「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(以下、フリーランスのガイドライン)では、契約終了後の取り決めを「競業避止義務」、契約期間中にほかの会社と取引しない取り決めを「専属義務」と呼び分けています。ただ、契約書では、この2つがまとめて競業避止条項として書かれることもあるため、このブログでは両方をあわせて競業避止条項として扱います。
前提としてマッチング型と再委託型の違いを押さえる
検証に入る前に、フリープランナーが業務委託で働くときの2つの契約形態を確認しておきます。なぜならば、どちらの契約形態を選ぶかによって、競業避止条項で求められる内容が変わるからです。
マッチング型は婚礼施設と直接契約する
まず、マッチング型は、フリープランナーがマッチングサービスを通じて婚礼施設と出会い、婚礼施設と直接業務委託契約を結ぶ契約形態です。フリープランナーにとっては、自分で営業しなくても婚礼施設と出会え、受発注のシステムを使ってお仕事を受けられる点がメリットです。サービスの運営会社は、その対価として、成立した取引に応じた手数料を受け取ります。
再委託型は委託会社と契約する
これに対して、再委託型は、フリープランナーが委託会社と業務委託契約を結び、委託会社が婚礼施設から受託した業務を担う契約形態です。実際にお仕事をする場所は婚礼施設です。フリープランナーは、委託会社から次のようなサポートを受けられます。
- 委託会社が探してきた婚礼施設でお仕事ができる
- お仕事に入る前に研修を受けられる
- 婚礼施設とのあいだでトラブルが起きたときに、委託会社が間に入って対応する
- 報酬は委託会社から支払われる
委託会社は、これらにかかる費用を、婚礼施設から受け取る委託料でまかなっています。つまり、マッチング型では出会いと受発注の仕組みを、再委託型では研修やトラブル時の対応、報酬の支払いまでを受けられるという違いがあります。
ウエディングプランナー経験のある方へもう一度、結婚式の仕事をしてみませんか土日だけOK月2日からブランクがあっても相談できます個別相談会に申し込む →検証1 業務委託の競業避止義務は法律から見て妥当か
まず、最上位にあるのは法律です。そのうえで、法律から見た結論は、競業避止条項そのものは否定されておらず、フリープランナーが確認すべきはその範囲だということです。
フリーランスのガイドラインが挙げる3つの目的
具体的には、フリーランスのガイドラインは、フリーランスとの取引に独占禁止法などがどう適用されるかをまとめたものです。その中で、競業避止義務などを定める目的として、次の3つを挙げています。
- 秘密情報の漏洩を心配せずに取引すること
- 自社の業務に専念してもらうこと
- 育成にかけた費用を回収すること
そのうえで、目的のために「合理的に必要な範囲」で定めることは、「直ちに独占禁止法上問題となるものではない」としています。つまり、フリープランナーにとっては、条項があること自体ではなく、その範囲が目的に見合っているかどうかが、確認すべき点です。
優越的地位の濫用になる場合
一方で、立場の強い会社が、必要以上に重い条項を一方的に押しつけ、フリープランナーが断れない場合は、「優越的地位の濫用」として独占禁止法上の問題になります。必要以上に重いかどうかは、次のような点を総合して判断されます。
- 求められる内容や期間が、目的に比べて重すぎないか
- フリープランナーにとって、どれだけ不利になるか
- 補償などの見返りがあるか
立場の強い会社に当たるかどうか
では、どのような場合に、委託会社が立場の強い会社に当たるのでしょうか。フリーランスのガイドラインは、フリーランスがその会社との取引にどれだけ依存しているかや、ほかの取引先に切り替えられるかなどで判断するとしています。そのため、例えば、複数の委託会社や婚礼施設と取引しているフリープランナーにとって、特定の委託会社が立場の強い会社に当たる可能性は低くなります。反対に、特定の委託会社の業務のみを受託しているフリープランナーにとっては、その委託会社が立場の強い会社に当たることもあります。
図2のとおり、委託会社が立場の強い会社に当たるかどうかは、フリープランナーがその委託会社との取引にどれだけ頼っているかで変わります。
委託会社は本当に立場が強いのか
そもそも、委託会社は一律に立場が強いといえるのでしょうか。法律による保護の対象かどうかで見ると、そうとはいえません。
委託会社は、婚礼施設に対しては業務を受託する側で、フリープランナーに対しては業務を委託する側です。このうち、フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は、第2条第1項で、保護の対象を、従業員を使用しない個人や、代表者のほかに役員がおらず従業員も使用しない法人と定めています。そのため、個人で働くフリープランナーは保護の対象になる一方で、従業員のいる委託会社は対象になりません。むしろ委託会社は、フリープランナーに対して、取引条件を書面などで明示する義務を負う側です。
また、2026年1月に下請法から名前が変わった取適法は、婚礼施設と委託会社の資本金や従業員数の差によっては、委託会社を保護の対象にすることがあります。ただし、取適法が第5条で禁じているのは、代金の支払の遅れや減額、買いたたきなどの行為です。婚礼施設が、委託会社を通さずにフリープランナーと直接契約に切り替えることは、禁止される行為に含まれていません。
つまり、委託会社は、一律に立場が強いとはいえません。フリープランナーは法律で保護される一方で、委託会社が取引先を探したり研修を行ったりするためにかけた費用を、直接契約への切り替えから守る法律の定めはなく、守れるのは契約だけです。だからこそ、競業避止条項が置かれているのです。
検証2 ビジネスモデルから見て妥当か
次に、ビジネスモデルから見た結論は、運営会社や委託会社が、先にかけた費用を回収するために取り決めを置くことには理由があります。ただし、その範囲は、フリープランナーが受けるサポートに見合っている必要があるということです。
フリープランナーが受けるサポートには先にかかった費用がある
なぜならば、フリープランナーがお仕事を始める前から、マッチング型の運営会社も、再委託型の委託会社も、費用をかけているからです。ただし、費用の中身と、回収のしかたは異なります。
- マッチング型:婚礼施設とフリープランナーが出会える場をつくり、受発注のシステムを運営するために、運営会社が費用をかけています。この費用は、成立した取引の手数料から回収されます。
- 再委託型:フリープランナーがお仕事をする婚礼施設を探し、研修を行い、トラブルのときに間に入るために、委託会社が費用をかけています。この費用は、婚礼施設から受け取る委託料から回収されます。
図3のとおり、どちらも、先にかけた費用を、取引が続く中で少しずつ回収するビジネスモデルです。
直接契約はフリーライダーになる
そのため、フリープランナーと婚礼施設が、サービスや委託会社を通さずに直接契約すると、運営会社や委託会社はかけた費用を回収できなくなります。フリープランナーと婚礼施設は、費用を負担しないまま、出会いやサポートという成果だけを受け取ることになるからです。このような状態は、フリーライダー(ただ乗り)と呼ばれます。
このように費用の流れで見てみると、競業避止条項が何を守るためのものなのかを、わかりやすく整理できると思います。
契約形態によって求められる内容が変わる
ただし、フリープランナーが求められる内容は、契約形態によって変わります。マッチング型で主に求められるのは、サービスを通さずに婚礼施設と直接契約しないことです。運営会社が守るのは、サービスを通した取引から得る手数料だからです。これに対して、再委託型では、直接契約をしないことに加えて、競合する会社と契約しないことも求められることがあります。委託会社が守るのは、取引先を探したり研修を行ったりするためにかけた費用だからです。
例えば、クラウドワークスは、仕事を依頼したい企業や個人と、フリーランスをつなぐクラウドソーシングのサービスで、婚礼以外の業界のマッチング型の一つです。株式会社クラウドワークスの「クラウドワークス利用規約」でも、会員同士がサービスを使わずに直接業務委託契約を結ぶことは、過去5年以内に会員だった者も含めて禁止されています。つまり、婚礼に限らず、マッチング型のサービスでは、サービスを通さない直接取引を規約で禁止しているということです。
検証3 他業界の事例から見て妥当か
続いて、他業界の事例から見た結論は、費用をかけて取引やノウハウを提供した側が、それを守る取り決めを置くことは、他業界でも認められているということです。
フランチャイズの例
フランチャイズでは、加盟店のオーナーは、本部からレシピや店の運営方法を教わって開業します。公正取引委員会の「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方」は、契約が終わった後に加盟店が近くで似た店を開くことを禁じる取り決め(競業禁止)について、本部のノウハウを守るために必要な範囲を超える場合に問題になるとしています。
これをフリープランナーに置き換えると、委託会社の研修で教わった接客の進め方を使い、同じ婚礼施設と直接契約する場合が近いといえます。このフランチャイズの考え方を当てはめると、次のように整理できます。
- 問題にならない取り決め:研修で教わったノウハウを守るために必要な範囲で、契約が終わった後の一定期間、委託会社を通さずに同じ婚礼施設と直接契約しないよう求める取り決め
- 問題になる取り決め:研修と関係のない婚礼施設との契約まで禁じるなど、ノウハウを守るために必要な範囲を超えて、フリープランナーの働き方そのものを縛る取り決め
芸能事務所の例
また、芸能事務所に所属するタレントは、事務所が費用をかけたレッスンや売り出しによって育ちます。売れたとたんに独立すれば、事務所はかけた費用を回収できません。そこで、内閣官房と公正取引委員会が2025年9月30日に公表した「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」は、育成の費用を合理的な範囲で回収するために、次のことを認めています。
- 専属の期間を定めること
- 移籍や独立の際に、金銭を求めること
ただし、その条件をあらかじめ契約に定め、説明することが前提です。なお、この指針は、欧米で主流の、本人が専門家と契約して費用を負担するエージェントシステムというビジネスモデルもあると紹介しています。
✔ エージェント契約とは
エージェント契約とは、本人が、仕事の獲得や報酬の交渉を担う専門家(エージェント)と契約する形態です。芸能の指針は、本人が専門家と契約して費用を負担する仕組みを「エージェントシステム」と呼び、欧米で主流のビジネスモデルとして紹介しています。
- 専属マネジメント契約:芸能事務所が、育成やスケジュール管理などを担い、その費用とリスクも負担する
- エージェント契約:本人が専門家と契約し、費用を負担する。本人の自主性が重視され、本人が担う業務は増える
つまり、2つの違いは、育成などの費用を誰が負担し、どこまでを本人が担うかにあります。
吉本興業の契約の見直し
さらに、芸能の世界では、2019年に、吉本興業が所属する芸人の大半と契約書を交わしていなかったことも問題になりました。公正取引委員会の事務総長は、2019年7月24日の定例会見で、契約書がないことは直ちに独占禁止法上の問題になるわけではないが、契約内容が不明確だと優越的地位の濫用などを招く原因にもなり得るとして、契約書面がないことは競争政策の観点から問題があると述べています。その後、吉本興業は、次の方針を示したと報じられています。
- 芸人と書面で契約を交わす
- 従来のマネジメント契約に加えて、エージェント契約を導入する
- 一定の仕事量がある芸人は、どちらかを選べるようにする
2つの契約の違いは、次のとおりです。
- マネジメント契約:事務所のマネージャーが、営業やスケジュール管理などを一貫して担う、従来からの契約です。
- エージェント契約:事務所がテレビ局などから仕事を取り、報酬を交渉して、芸人に代わって受け取る契約です。芸人の自主性が重視されるため、芸人が担う業務が増える一方で、事務所の業務は減る可能性があると報じられています。
つまり、事務所に多くを任せる代わりに条件が重い契約と、自分で担う業務が増える代わりに自由度が高い契約を、芸人の側が選べるようにしたということです。
婚礼の業務委託に当てはめると
こうして他業界の事例と比べてみると、婚礼の業務委託もわかりやすく整理できると思います。
フリープランナーが、委託会社が探してきた婚礼施設で、委託会社の研修を受けてお仕事をする関係は、フランチャイズの加盟店が本部からノウハウを教わる関係や、タレントが事務所に育てられる関係と同じです。そのため、契約が終わったあとに委託会社を外して同じ婚礼施設と直接契約すれば、委託会社は、取引先を探したり研修を行ったりするためにかけた費用を回収できません。
また、吉本興業の2つの契約のように、委託会社に多くを任せるのか、自分で担う業務を増やして自由度を高めるのかによって、フリープランナーが求められる取り決めの重さが変わる点も同じです。
つまり、フランチャイズでも芸能事務所でも婚礼の業務委託でも、問われているのは、守る範囲が合理的かどうかと、事前に契約で示しているかどうかです。
検証4 秘密保持条項だけで足りるか
さらに、秘密保持条項との関係から見た結論は、秘密保持条項だけでは、フリープランナーが身に付けたノウハウまでは守りきれないため、競業避止条項にも合理性があるということです。
秘密保持条項とは
競業避止条項と並んで、業務委託契約書に定められるのが秘密保持条項です。秘密保持条項とは、業務を通じて知った顧客の情報や会社の情報を外に漏らさないことを定める条項で、秘密保持契約(NDA)と同じ役割を持ちます。
フリープランナーが婚礼施設で業務をすると、次のような情報に触れることになります。
- 料金表など、婚礼施設の情報全般
- その婚礼施設のオペレーションやノウハウ
- 失注の理由とその対応
- 成約率向上のための研修の内容
これらは、婚礼施設や委託会社が時間と費用をかけて積み上げてきたもので、いわば会社の資産です。そのため、フリープランナーには、まず秘密保持条項で、これらを外に漏らさないことが求められます。
秘密保持条項の2つの限界
ただし、秘密保持条項には、次の2つの限界があります。
- 身に付けたノウハウは返却できない:資料であれば返却や削除を求めることができますが、研修や業務を通じて身に付けた接客の進め方や、その婚礼施設のオペレーションやノウハウは、本人の中に残ります。
- 守られているかを確認しにくい:情報を漏らしたかどうかは、外からは見えません。
例えば、ある婚礼施設で成約率向上のための研修を受けたフリープランナーが、契約が終わったあとに競合する婚礼施設と直接契約したとします。資料を一切持ち出していなくても、身に付けた進め方は、そのまま競合する婚礼施設で使われることになります。しかし、それが秘密保持条項に反するかどうかを、外から確認することは困難です。
身に付けたノウハウは本人の経験だけで得たものか
ここで考えておきたいのは、フリープランナーが身に付けたノウハウが、本人の経験だけで得たものなのかという点です。
もちろん、それまでのキャリアで積み上げてきた経験は、本人のものです。ただ、婚礼施設で成果を出すまでには、本人の経験に加えて、次のようなサポートがあります。
- 婚礼施設が行う研修や、オペレーションやノウハウなどの提供
- 委託会社が行う導入研修や、業務中の相談への対応
- 急に業務に入れなくなったときに、委託会社が代わりのフリープランナーを手配するバックアップ
- トラブルが起きたときに、委託会社が間に入って行う対応
つまり、婚礼施設で身に付けたノウハウには、婚礼施設や委託会社が費用をかけて提供したものも含まれています。そのため、本人がそれまでに積み上げてきた経験と、業務を通じて提供されたものとを分けて考えることが大切です。競業避止条項が守るのは後者であり、前者まで対象にする条項はやりすぎだといえます。
競業避止条項が補う役割
こうして見てみると、秘密保持条項と競業避止条項の役割の違いも、わかりやすく整理できると思います。
図4のとおり、秘密保持条項が「情報を漏らさない」という外からは見えない行為を定めるのに対して、競業避止条項は「委託会社を通さずに競合する取引をしない」という、取引があるかどうかで確認できる行為を定めます。つまり、秘密保持条項では守りきれない部分を、競業避止条項が補っているということです。
検証5 商慣習とビジネスマナーから見て妥当か
最後に、商慣習とビジネスマナーから見た結論は、契約書に書いていなくても、紹介を受けた会社を通すことは取引の筋であり、そのうえで双方の利益を守ることが求められるということです。
紹介で始まった取引は紹介した会社を通す
例えば、委託会社やマッチングサービスの紹介で始まった取引は、紹介した会社が、その婚礼施設との取引を始めるために費用をかけています。そのため、フリープランナーが紹介先の婚礼施設と直接契約したいと考えたときは、契約書に条項がなかったとしても、まず紹介した会社に相談するのが筋だと私は考えています。婚礼施設が、紹介されたフリープランナーと直接契約したいと考えたときも同じです。そのうえで、直接契約を禁止するのではなく、紹介料という対価を支払って認めるという方法もあります。実際に、人材紹介でも、紹介された人を採用した企業は、紹介会社に手数料を支払います。
利益相反を避ける
あわせて、利益相反を避けることも大切です。利益相反とは、一方の利益を優先すると、もう一方の利益を損なう関係のことです。婚礼の業務委託では、例えば次のような場合に利益相反が起きます。
- 同じエリアで競合する2つの婚礼施設の新規接客を、それぞれ別の会社から受託する
- 同じ委託会社からの依頼であっても、同じエリアで競合する婚礼施設の新規接客を受託する
新規接客を担当するフリープランナーは、成約率向上のための研修の内容や失注の理由とその対応など、婚礼施設の情報を知る立場にあります。そのため、競合する婚礼施設の両方を担当すれば、同じ新郎新婦が両方を見学したときに、どちらの成約を優先するのかという問題が起きます。また、一方の婚礼施設で知った情報が、もう一方の新規接客に影響しないとは言い切れません。
この利益相反は、婚礼施設と直接契約している場合でも、マッチングサービスを通した場合でも、委託会社から再委託を受けた場合でも、同じように起きます。つまり、契約形態や競業避止条項があるかどうかにかかわらず、フリープランナー自身が意識して避けるべきことです。
フリープランナーの利益も守る
一方で、委託する側の利益だけを守ればよいわけではありません。フリープランナーが自ら獲得した取引まで競業避止条項の対象にすると、必要な範囲を超えるおそれがあります。委託する側とフリープランナーの両方の利益を守ることが、取引を続ける前提です。
フリープランナー目線で見る問題になる場合とやりすぎの場合
ここまでの検証を、フリープランナーの立場に置き換えると、競業避止条項は、どちらか一方を縛るものではなく、お互いが守るべき線を示すものだとわかります。
フリープランナー側で問題になる場合
まず、フリープランナーの側で問題になりやすいのは、例えば次のような場合です。
- 委託会社を通じて入った婚礼施設から直接契約を持ちかけられ、委託会社に相談しないまま応じる
- 契約期間中に、同じ婚礼施設に、別の委託会社を通して入り直す
- 研修で受け取った資料やマニュアルを、ほかの会社の業務に流用する
なぜならば、どれも、委託会社が費用をかけて用意した取引先や研修を、委託会社を通さずに使うことになるからです。
委託会社側がやりすぎの場合
一方で、委託会社の側がやりすぎといえるのは、例えば次のような場合です。フリーランスのガイドラインの考え方に照らすと、こうした条項は、目的に必要な範囲を超えていると考えられます。
- 一度も業務を行っていない婚礼施設まで、すべて対象にしている
- 契約終了後の期間が長すぎる、または期間の定めがない
- フリープランナーが自分で営業して獲得した仕事まで対象にしている
- 研修を受けられない、トラブルのときに間に入ってもらえないなど、条項に見合う支援がない
- 条項の理由について、契約前に説明がない
つまり、運営会社や委託会社を通じて出会った婚礼施設と、研修で伝えたノウハウを守る範囲であれば妥当で、それを超えて働き方そのものを縛る場合はやりすぎということです。契約する前には、次の点を確認しておくと安心です。
☑ 契約する前に確認すること
- 競業避止条項の対象(どの婚礼施設や会社か)と期間(契約期間中だけか、終了後も含むか)
- 自分で獲得した仕事が、対象から除かれているか
- 運営会社や委託会社から、どのような支援を受けられるか(研修を受けられるか、トラブルのときに間に入ってもらえるか、報酬はいつ支払われるか)
- 直接契約を望む場合に、相談先や紹介料などの方法があるか
プラスワン・プランナーの考え方は法律を最上位に置き双方の利益を守ること
ここからは、プラスワン・プランナーを運営する弊社の考え方をお伝えします。弊社は、最上位にあるのは法律だと考えています。そのうえで、商慣習とビジネスマナーを守ることで、婚礼施設とフリープランナーの両方の利益を守れると考えています。
目指すのは欧米型のエージェントシステム
そして、弊社が目指しているのは、芸能の指針でいえば欧米型のエージェントシステムに近い働き方です。つまり、フリープランナー一人ひとりが自律して業務を選び、その自律を委託会社のマネジメントが支える関係です。
個の自律と、それを支えるマネジメントについての考えは、私のThreadsでも発信しています。
引き抜きをしない商道徳
あわせて、弊社は、そもそも引き抜きはしない、させないという商道徳や倫理も欠かせないと考えています。冒頭でお伝えした引き抜きをめぐるトラブルも、条項があるかどうかより前に、この商道徳が守られていれば防げたものだと考えています。
契約自由の原則や個の自律とは両立する
ただし、この商道徳は、契約自由の原則や個の自律と相反するものではありません。契約自由の原則とは、誰とどのような契約を結ぶかを、当事者が自由に決められるという原則です。民法第521条も、契約をするかどうかと契約の内容を、法令の範囲内で自由に決定できると定めています。
契約自由の原則や個の自律と、この商道徳が両立する理由は、次の3つです。
- 契約の自由は、結んだ契約が守られることを前提にしている:契約を自由に結べるのは、結んだ契約が守られるからです。契約期間中の引き抜きは、他社が結んだ契約を崩すことになり、契約の自由の土台そのものを損ないます。
- 民法も、自由とあわせて誠実さを求めている:民法第1条第2項は、権利の行使と義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならないと定めています。これを信義誠実の原則といいます。
- 自律とは、自分を律すること:個の自律は、誰にも縛られないことではなく、自分で判断し、その結果に責任を持つことです。引き抜きに応じない、引き抜かないという判断は、外から課される制限ではなく、自律したフリープランナーや婚礼施設が自ら選ぶものです。
つまり、契約を自由に結べることも、引き抜きをしない、させないという商道徳も、「結んだ契約は守られる」という信頼があってこそ成り立つものです。
私自身の経験から
こう考える理由の一つは、冒頭でお伝えした私自身の経験です。私は2018年春、プラスワン・プランナーのウェブサイトを作るために、あるクラウドソーシングのサービスを通じて制作を依頼しました。ところが、代金を支払った後に業者と連絡が取れなくなり、詐欺の被害に遭いました。業者の行為は、そのサービスの規約に明らかに違反するものでした。それにもかかわらず、運営会社は何の対応もしませんでした。
規約で禁じていても、違反が起きたときに誰も間に入らなければ、被害を受けた側は守られません。冒頭でお伝えした引き抜きをめぐるトラブルも、同じ構図です。取り決めがあっても、それが守られず、守らせる人もいなければ、損をするのは婚礼施設とフリープランナーです。
この経験から、私は、取り決めを置くだけでなく、トラブルが起きたときに間に入って対応することまでが、運営会社や委託会社の役割だと考えています。そして、この役割は、エージェント契約でもマネジメント契約でも変わりません。だからこそ、どちらの契約形態でも、直接契約についての取り決めを置いています。
プラスワン・プランナーでは2つの契約形態から選べる
その結論として、弊社には、マッチング型に当たるエージェント契約と、再委託型に当たるマネジメント契約の2つがあり、フリープランナーも婚礼施設もどちらかを選択できます。
エージェント契約とマネジメント契約の違い
| 項目 | エージェント契約 | マネジメント契約 |
|---|---|---|
| 契約の |
婚礼施設 | 弊社 |
| 業務期間中の |
あり | あり |
| 導入教育と |
なし | あり |
| 弊社の |
委託料の |
委託料の |
どちらの契約でも、業務期間中は、婚礼施設とフリープランナーの間のサポートと相談に弊社が対応します。違いは導入教育とチューター制の有無で、これが手数料の差の理由です。また、マネジメント契約の委託料は、毎月15日に弊社からお支払いしています。詳しくは、2026年10月27日のブログ「業務委託の支払期日〜報酬はいつ確定し、いつ入るか」でお伝えしています。
マネジメント契約でのお願い
マネジメント契約では、契約書とは別に、条文の理由を説明する書面をお渡しし、署名の前にご質問をお受けしています。その書面では、「直接契約・勧誘についてのお願い」として、次の3つをお願いしています。
- 弊社を通さずに、弊社の取引先の婚礼施設と直接契約しないこと
- 弊社および弊社の契約先の婚礼施設との利益相反が生じないこと
- 弊社の契約先で知り合った方からの勧誘に、弊社を通さずに応じないこと
一方で、ご自身で獲得された取引は対象にしないことを、契約書に明記しています。導入研修は無償です。エージェント契約にも、弊社が紹介した婚礼施設との直接契約についての規約があります。
直接契約を望む場合の規約
そして、婚礼施設がフリープランナーとの直接契約を望む場合は、紹介料をいただいたうえで直接契約を認める規約を設けています。法律の範囲内で、弊社が担う役割と費用に見合った取り決めを置き、そのうえで直接契約の選択肢も設けることが、弊社の考える双方の利益の守り方です。
まとめ
このブログでは、業務委託契約書の競業避止条項が妥当なのかを、法律、ビジネスモデル、他業界の事例、秘密保持条項との関係、商慣習の5つの観点から検証しました。法律は競業避止条項そのものを否定しておらず、問われるのは範囲です。運営会社や委託会社が先に費用をかけるビジネスモデルでは、直接契約によるフリーライダーを防ぐために取り決めを置くことに理由があり、フランチャイズや芸能事務所でも同じ考え方が認められています。
そのうえで、競業避止条項は、フリープランナーが受けられるサポートと、そのためにかかっている費用に見合う範囲であれば妥当であり、三者の利益を守るために必要なものです。だからこそ、フリープランナーは、条項の厳しさだけで判断するのではなく、その対価として受けられるサポートとあわせて比較し、契約先を選ぶことが大切です。
■ このブログの要点
- 法律は競業避止条項そのものを否定しておらず、問われるのは範囲である
- 運営会社や委託会社が先にかけた費用を回収するために取り決めを置くことには理由があるが、その範囲はサポートに見合う必要がある
- フランチャイズや芸能事務所でも、同じ考え方が認められている
- 秘密保持条項だけでは、身に付いたノウハウまでは守りきれない
- 運営会社や委託会社を通じて出会った婚礼施設と、研修で伝えたノウハウを守る範囲なら妥当で、働き方そのものを縛るのはやりすぎ
- プラスワン・プランナーでは、エージェント契約とマネジメント契約のどちらかを選択できる
用語解説
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 競業避止義務 | 契約の |
| 専属義務 | 他の |
| 秘密保持義務 | 業務を |
| 優越的地位の |
取引上の |
| フリーライダー | 費用を |
| マッチング型 | フリープランナーが |
| 再委託型 | 委託会社が |
| 契約自由の |
契約を |
| 信義誠実の |
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出典一覧(9件)
- 公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(2021年3月26日策定、2024年10月18日・2026年1月1日改定、22〜23・42ページ)
- 株式会社クラウドワークス「クラウドワークス利用規約」(2026年7月14日改定、第9条第9項・第27条第5項)
- 公正取引委員会「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方」(2002年4月24日、2021年4月28日改正)
- 内閣官房・公正取引委員会「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」(2025年9月30日、1〜2・13〜14ページ)
- 公正取引委員会「令和元年7月24日付 事務総長定例会見記録」(2019年7月24日)
- e-Gov法令検索「民法(明治29年法律第89号)」(第1条第2項・第521条)
- e-Gov法令検索「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和5年法律第25号)」(第2条第1項)
- e-Gov法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(昭和31年法律第120号)」(第2条・第5条)
- Business Insider Japan「芸人のギャラ、取り分増える? 吉本興業「エージェント契約」を導入へ」(2019年8月9日)

執筆者
株式会社永光 代表取締役 高橋 龍一
婚礼の現場とフリーのウエディングプランナーを経て、2018年からウエディングプランナーの業務委託サービス「プラスワン・プランナー」を運営しています。
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