業務「委託」と「丸投げ」の違い

はじめに
ブライダルの仕事においては、同じスキルを持つプランナーでも、会場によって成約率や顧客満足度が大きく変わることがあります。前の会場では高い成果を出していたプランナーが、別の会場に移った途端に数字が伸びなくなる。こうした事例は、決して珍しくありません。
この差は、個人の能力や相性だけでは説明がつきません。問題は、会場の構造にあります。
この点、社会科学の蓄積は、組織や個人の成果が個人の能力だけでは決まらないことを明らかにしてきました。教育をどう設計するか、環境をどう整えるか、人間関係をどう築くか。この三つを丁寧に設計する会場では、社員も業務委託も、誰もが安定して成果を出します。一方で、これらを整えずに結果だけを求める会場では、どれほど優秀な人材を採用しても、成果は再現しません。
前者を知性主義と呼び、後者を反知性主義と呼びます。本ブログでは、組織論・組織行動学の系譜を婚礼施設のマネジメントに接続し、成果を出せる会場と出せない会場の構造的な差を整理します。
Index
第1章 知性主義の系譜〜社会科学が示してきた「成果の条件」
フレデリック・テイラーの「科学的管理法」
「頑張れば成果が出る」という精神論は、少なくとも学術的には100年前に終わっています。
1911年、フレデリック・テイラーは『科学的管理法の原理』を発表しました。彼が示したのは、作業を標準化すれば誰でも成果を出せるという事実です。
それまでは「仕事は職人の勘と経験でやるもの」とされていましたが、テイラーは作業を分解し、最適な手順を設計することで、未熟な労働者でも熟練工と同じ生産性を実現しました。効率化の出発点は、ここにあります。
けれども、テイラーの理論には限界がありました。人間を機械のように扱えば、確かに短期的な生産性は上がります。しかし、人はやがて疲弊し、離職し、モチベーションを失います。そこで登場したのが、1924年から1932年にかけて行われたホーソン実験です。
エルトン・メイヨーの「ホーソン実験」
ホーソン実験を主導したエルトン・メイヨーは、工場の照明を変えれば生産性が上がるかを調べました。結果は予想外でした。照明を明るくしても、暗くしても、生産性は上がったのです。なぜか。答えは「観察されている」という承認感でした。労働者は、自分が注目され、大切にされていると感じたとき、最も高いパフォーマンスを発揮しました。これが、心理的安全性と信頼関係の重要性を示した最初の実証研究です。
アブラハム・マズローの「欲求段階節」
ここから、動機づけ理論は一気に発展します。1954年、アブラハム・マズローは『人間性の心理学』で欲求段階説を発表しました。人は生理的欲求から始まり、安全、所属、承認を経て、最終的には自己実現を目指します。給与だけでは、人の動機づけは完結しないのです。

ダグラス・マグレガーの「X理論・Y理論」
1960年、ダグラス・マグレガーは『企業の人間的側面』でX理論とY理論を提示しました。X理論は「人は本来怠け者で、監視とペナルティがなければ働かない」と考えます。一方、Y理論は「人は自ら成長したいと望み、信頼と裁量があれば自発的に動く」と考えます。マグレガーが示したのは、マネジメントの前提が成果を決めるという事実です。
フレデリック・ハーズバーグの「衛生要因」
同じ1959年、フレデリック・ハーズバーグは『仕事と人間性』で動機づけ-衛生理論を発表しました。給与や労働環境は「不満を防ぐ」だけで、成果を高めるには達成感・承認・成長機会が必要だと彼は主張しました。つまり、不満をなくすことと、満足を生むことは、別の要因なのです。
デイビッド・マクレランドの「達成動機理論」
1961年、デイビッド・マクレランドは『達成社会』で達成動機理論を展開しました。人は達成・親和・権力のいずれかの欲求を強く持ちます。達成動機が高い人には、具体的な目標と即座のフィードバックが効きます。親和欲求が高い人には、チーム内での役割と信頼関係が効きます。画一的なマネジメントでは、人は動かないのです。
クレイトン・アルダーファーの「ERG理論」
1969年、クレイトン・アルダーファーはマズローの理論を再構成し、ERG理論を提示しました。存在(エグジステンス)・関係(リレイテッドネス)・成長(グロース)の三つが揃って初めて、人は持続的に成果を出せると彼は主張しました。
これらの理論に共通するのは、「成果は設計できる」という前提です。教育を整え、環境を整え、人間関係を整えれば、誰でも成果を出せます。逆に、これらを整えずに結果だけを求めても、再現性は生まれません。
第2章 属人性では説明できない差
特に新規接客においてよくある事象ですが、同じプランナーが、会場によって成果が変わるということが生じます。この現象は、婚礼施設では珍しくありません。
たとえば、業務委託の新規接客プランナーが、A会場では成約率70パーセントを達成していたのに、B会場に移ると成約率35パーセントに下がってしまうことがあるというのは、そう珍しいことではありません。スキルも経験も変わらないのに、成果が変わるということです。
この差は、なんでしょうか?個人のスキル、すなわち属人性の問題でしょうか?
もちろんどんな会場であっても、一定以上の素晴らしい成果を達成するプランナーも存在するため、一見すると属人性の差と捉えられがちですが、この差の答えは明確に、「構造の差」といえます。
前章でみてきた論点を踏まえると、以下の三領域の設計の有無が成果を分ける要因となっていることが把握できると思います。
教育の設計
A会場の接客前までの状況
A会場の前提は、業務委託フリープランナーが新規接客で初めて訪れるまでに、以下のことが明確になっていました。
- 顧客層が明確であった
- 競合会場やエリアが明確であった
- 顧客の非成約要因や切り返しトークが共有されていた
- 受注可能な条件が明示されていた
- 日程はどこまで埋まっているか一目瞭然であった
- そのバンケットが何名から何名まで対応できるかが明確であった
- 予算帯はどのゾーンを狙うかが明確であった
- 見積方針も具体的であった
- 値引きはどの基準で認められるかが明確であった
- 特典付与の権限がどこまであるかが明確であった
- プランナーの裁量範囲はどこで線を引くかが明確であった
- これらが全て文書あるいはデータなどで渡されていた
- 事前の同席やロールプレイングがあった
- その他顧客情報や会場関連情報の保管場所も明確であった
これらにアクセスできる環境が、接客に訪れる前から明確に用意され、共有されていました。
B会場の接客前までの状況
一方、B会場では、「ウチにはマニュアルなどは特にないから、ゼクシィなどを見て事前に予習しておいて」で終わりでした。見積方針は口頭で、「お客様に合わせて、プロとして責任をもって判断して」、権限範囲は「その都度相談して」。という状況でした。
これでは、いくらスキルのあるプランナーでも、路頭に迷ってしまいます。
現実、このような会場は多いということも付記しておく必要があるでしょう。
環境の設計
またA会場では、たとえ非成約の場合でも、振り返りが「学びの場」として定例化かつ共有されていました。プランナーが「この特典、他会場と比べて弱くないでしょうか?」と発言しても、「確かに。もちろん特典がすべてではないけれど、改善項目として検討します」と受け止められます。質問することが歓迎され、業務委託のプランナーの提案が採用される文化がありました。
一方、B会場では、質問すると「それくらい自分で考えて」と返されます。失注すると「なんで取れなかったの?」と詰められます。結果、プランナーは発言を控え、情報を取りに行かなくなりました。
第1章でも紹介しましたが、ホーソン実験においては、人は承認されていると感じるとき、最も高いパフォーマンスを発揮するという事実があります。ここからわかることは、心理的安全性の欠如は、どんな優秀なプランナーであっても、スキルの発揮を妨げることにつながるということです。
人間関係の設計
さらにA会場では、支配人・新規・施行の各チームが業務委託のフリープランナーを「同じチームの一員」として迎え入れていました。初回接客にはマネージャーがサポートし、随時の見積相談や、クロージング前には激励のメッセージやアドバイスを送られていました。業務委託であっても、社員と同じように扱われていたということです。
一方、B会場では、プランナーは「外部の人」扱いでした。見積相談ができる環境は整備されておらず、マネージャーは忙しくつかまらず、質問しようにもなかなかいないにも関わらず、「なんで相談がなかったの?なんでとれなかったの?」と、結果だけをつめてくる環境でした。これでは、信頼関係と心理的安全性を構築することはできないでしょう。
この差が、成約率の差につながったということです。
重要な事実は、このようなことは日本全国で非常に多く存在する事例であるということです。
第3章 「業務委託」と”丸投げ”は異なる――反知性主義の回避
第2章までですでに察しのいい方はお気付きであると思いますが、ここで重要な区別をする必要があります。
それは、業務『委託』とは、信頼して任せるということで、放任=丸投げではないということです。
信頼して任せるということは、「信任」であり、前提を共有するということであり、そのうえに成果が生まれます。信任と放任は全く異なります。そして成果を共創するためには、以下の三点が必須となります。
目的の共有
成果の定義は何か。成約率なのか、単価なのか、満足度なのか。KPIはどう測るのか。週次なのか、月次なのか、案件単位なのか。意思決定の手順はどうなっているのか。誰に、いつ、何を相談するのか。
これらが曖昧なまま「とにかく成約してきて」では、外部からやってきたフリープランナーは動けなくなってしまうということです。
情報の開放
過去の接客データ、見積、コンプライアンス基準。これらを「社員だけ」に閉じていては、業務委託は戦えません。情報は武器です。成約理由、失注理由、顧客属性、競合比較、値引き基準、特典の原価、利益構造。これらを開放してこそ、外部のフリープランナーであっても、その会場の一員として最適な接客ができるようになります。
支援の継続
現場支援の窓口は誰か。誰に聞けば即答できるか。意思決定の権限はどこまであるか。承認フローの速度はどうか。肯定的なフィードバックや振り返りはあるか。成果の承認、改善提案の採用、次のアクションの合意などができる環境は整備されているか。
これらが継続的に行われてこそ、成果は安定してきます。
これらを欠いた「丸投げ」は、心理的安全性と内発的動機づけを同時に毀損していきます。
丸投げというのは、反知性主義そのものともいえます。「とにかく結果だけ出せ」という思考は、第1章でも明らかにしたように、100年にわたる社会科学の知見や系譜を無視しているということです。成果は偶然や属人性だけではなく、構造設計で生まれるということへの理解がなにより大事となります。こうした前提をもつことは、反知性主義に対比し、知性主義と定義できます。
第4章 状況に適合させるリーダーシップ
いままで見てきたように、業務委託のフリープランナーがよいパフォーマンスをあげるためには、個人の能力が高いことはもちろん大前提でありつつも、会場側の、とくにマネージャークラスの関与やリーダーシップのあり方が非常に大事になってくるという点も重要です。
1967年、フレッド・フィドラーは『リーダーシップ効果性理論』で、成果を生むリーダーシップは「性格」ではなく、「部下との関係性×業務の明確性×リーダー権限の強さ」で決まることを示しました。

「プランナーとの関係がよく・会場マニュアルが整備され・マネジャーの権限も強い」場合のフリープランナーへの関わり方
まずは、この表の数字の「1」をみてください。
『フリープランナーとの関係が「よい」で、会場のタスクが構造化され明確、すなわち「高い」で、かつマネージャーの権限が「強い」状況』がある場合、黒の実線のタスク志向型のリーダーシップが「よい」ということがわかります。
つまりは、業務委託のフリープランナーを受け入れる環境が整っていて、業務マニュアルやフローも明確で、かつマネージャーのリーダーシップも強い会場では、フリープランナーは、「プロの仕事をする」タスク志向型に集中できるということです。かつマネージャーのリーダーシップも、そのためのサポートに徹するだけでよいということが読み取れます。
表からは、この状況が「好ましい状況」であることがわかります。
「プランナーとの関係がよく・会場マニュアルが整備され・マネジャーの権限も強い」場合のフリープランナーへの関わり方
一方で、数字の「8」も見てください。
『フリープランナーと関係が「悪い」で、会場のタスクが構造化されておらず不明確、すなわち「低い」で、かつマネージャーの権限が「弱い」状況』というのがある場合、この場合でも同じく、タスク志向型のリーダーシップが「よい」ということが読み取れます。
これはすなわち、業務委託のフリープランナーを受け入れる環境が不十分で、業務マニュアルやフローも未整備で、かつマネージャーのリーダーシップも弱い(接客的なサポートがない)会場こそなおさら、フリープランナーが「プロの仕事をする」タスク志向型の会場の関与が必要ということです。端的にいうと、会場マネージャーのリーダーシップは、フリープランナーが「決めるためのプロの仕事ができる環境整備=タスク整理」をしてあげること、そのためのサポートに徹するだけでよいということです。
これは、前章までで見てきた内容と見事に一致するのではないでしょうか。
リーダーの関わり方を状況に合わせて切り替える設計が必要で、それこそがフリープランナーのパフォーマンス向上の最大の理由となるということを理解いただけばと思います。
おわりに
本ブログでは、婚礼施設におけるフリープランナーの成果の再現性を、知性主義と反知性主義の対比で整理してきました。ここで改めて、両者の違いを確認します。
知性主義とは、社会科学の知見に基づいて、教育・環境・人間関係を設計する立場を指します。
第1章で見てきたように、テイラー以降の組織論・組織行動学が積み上げてきた理論は、組織や個々の成果が偶然ではなく、構造設計によって再現できることを実証してきました。環境を整え、働き手の心理的安全性を担保し、状況に適合したリーダーシップを実装する。こうした設計があれば、業務委託フリープランナーも、安定して成果を出せる前提が整います。
逆に反知性主義とは、構造を整えずに、結果だけを求める立場を指します。
「とにかく成約してきて」「やり方は任せた」「できないなら別の人を探す」。こうした丸投げの運用は、理論を軽視し、過程を問わず、結果だけを要求します。目的の共有も、情報の開放も、支援の継続もない。これでは、どれほど優秀な人材を採用しても、成果は再現しません。
婚礼の仕事において、成果を決めるのは属人性や個々のスキルだけではありません。構造の有無が成果を決めます。それが未整備であれば、たとえ社員であっても、すなわち教育・環境・人間関係が整っていなければ、成果は出ません。逆にいえば、業務委託であっても、これらが整っていれば、成果は出るということです。
知性主義の実装は、難しいことではありません。第4章で示したように、心理的安全性の構築、状況に合わせたのリーダーシップの運用。自社の組織の実態に合わせて、これらを意識し制度化すれば、成果の再現性は高まります。重要なのは、精神論に頼らず、社会科学の裏付けに基づいて、構造を設計することです。そのための知見を、100年にわたる社会科学は雄弁に示してくれています。
以上をまとめると、業務委託フリープランナーが良いパフォーマンスを上げるためには、丸投げを避け、目的・情報・サポートを整えた環境整備や作業標準化を実装し、状況に合わて関与の仕方を変えていくことが何よりも重要です。
ぜひ、多くの婚礼企業の方々が、社会科学の知見を前提に、業務委託プランナーか社員プランナーかを問わず、組織と個人のパフォーマンスが安定かつ最大化し、成果を出せる仕組みづくりができるようになることをねがってやみません。ぜひご参考になさってください!
参考文献
- テイラー, F.W. (1969) 『科学的管理法』上野陽一訳, 産業能率短期大学出版部. (原著1911年刊行)
- メイヨー, E. (1967) 『産業文明における人間問題』村本栄一訳, 日本能率協会. (原著1933年刊行)
- マズロー, A.H. (1987) 『人間性の心理学』小口忠彦訳, 産業能率大学出版部. (原著1954年刊行)
- マグレガー, D. (1970) 『企業の人間的側面』高橋達男訳, 産業能率大学出版部. (原著1960年刊行)
- ハーズバーグ, F. (1968) 『仕事と人間性』北野利信訳, 東洋経済新報社. (原著1959年刊行)
- マクレランド, D.C. (1971) 『達成社会』林保ほか訳, 産業能率大学出版部. (原著1961年刊行)
- アルダーファー, C.P. (1969) “An Empirical Test of a New Theory of Human Needs”, Organizational Behavior and Human Performance, 4(2), 142-175.
- フィドラー, F.E. (1970) 『新しいリーダーシップ』山田雄一訳, 産業能率大学出版部. (原著1967年刊行)
- 松木知則(2020)「非正規従業員の働くモチベーションに影響を与える要因の経時変化〜飲食チェーンでの実証研究〜」,芝浦工業大学,博士論文
- スティーブン・P・ロビンス「マネジメント入門—グローバル経営のための理論と実践」ダイヤモンド社
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