なぜ結婚式を挙げないのか?――それぞれの幸せのカタチ

はじめに
――価値観のズレがもたらす問題
近年、結婚式場の倒産が相次いでいます。2024年3月には、大阪を拠点とする結婚式場紹介カウンター「コンパル」が破産申請を行ったというニュースが報じられました(出典:Yahoo!ニュース)。この背景には、単なる経済的要因だけではなく、結婚式そのものに対する価値観の変化や、業界の構造的な問題が複雑に絡み合っています。
弊社の過去ブログでも取り上げた通り、こうした変化は「社会・経済の変化(マクロ)」「価値観の多様化(ミドル)」「業界構造の硬直性(ミクロ)」という三層構造で捉えることができます。その中でも、本ブログではミドル視点――すなわち、結婚式という文化的イベントが一部の人々にとって“文化的に合わなくなっている”という相性の問題に焦点を当て、社会学的に考察していきます。
結婚式を挙げるかどうかは、もはや経済的な問題だけではありません。「その文化に自分が属しているかどうか」「その空間に心地よさを感じられるかどうか」という文化的な親和性=相性の問題が大きく影響しています。マーケティングの手法や式場の提供価値が、この変化に適応しきれていないとすれば、業界はますます人々から距離を置かれてしまうでしょう。
Index
1. 結婚式は「誰の文化」なのか?
──特定の層にフィットしていた従来型モデル
結婚式は長らく、「晴れの場」として人生の節目を祝う場であり、同時に自己表現の場でもありました。特に1990年代以降、日本のブライダル業界は「豪華さ」「演出」「感動」をキーワードに、商業化と演出産業化を進めてきました。
このモデルに親和性を示すのは、比較的外向的で、他者との関わりや社会的な承認に対して前向きな傾向を持つ層です。たとえば、体育会系の部活動に所属していた経験のある人や、大企業など組織的な環境で働いている人などがその一例として挙げられます。
彼らにとって結婚式は、人生の節目を象徴的に表現し、周囲と喜びを共有する機会として自然に受け入れられやすく、祝われることへの心理的な抵抗も比較的少ない傾向があります。
また、「多くの人に見てもらう」「感動を共有する」といったスタイルにも積極的な価値を見出しやすく、こうした価値観が、従来のブライダルマーケティングや式場の演出設計と親和的であったと考えられます。
式場側のマーケティングや接客スタイルも、この層に向けて最適化されてきました。たとえば、派手な演出や豪華な装飾、涙を誘う演出などが好まれ、「結婚式はこうあるべき」という無言の文化規範が形成されていったのです。
ところが、社会全体の価値観の多様化が進む中で、「この文化にそもそも馴染めない」「そこに所属したいと思わない」という層が、より顕在化してきました。
2. 結婚式を「しない人たち」の選択
──文化的な違和感と「なし婚」の拡大
結婚式を行わない「なし婚」が増えていることは、業界内でも既に広く認識されている問題です。リクルートが発行する『ゼクシィ結婚トレンド調査2023』によると、結婚式や披露宴を実施しなかったカップルの割合は21.4%に上り、ここ数年で大きな増加傾向が見られます(出典:ゼクシィ結婚トレンド調査2023)。
なし婚の理由としてよく挙げられるのは「経済的負担」「コロナの影響」「準備の煩雑さ」などですが、それだけでは説明がつかない側面もあります。
結婚式を行わないという選択には、経済的・実務的な要因に加えて、より根源的な心理的・文化的背景が存在します。たとえば「人前に立つことが苦手」「友人が少ない」「目立つのが恥ずかしい」といった個人の気質に起因する理由です。ただこれらの理由による結婚式をしたくないという意識は、決して近年に生まれてきたものではありません。
ただし、かつてはそうした個人の本音よりも、「みんながやっているから」「親のために」など社会的な期待に応えることが重視されていたため、結婚式は“やらなくてはいけないもの”という位置づけが強かったのです。
現在は、そうした同調圧力や義務感が薄れつつあり、「しない」という選択肢が自然に受け入れられる社会になってきています。これには核家族化の進行や、かつてのような「家と家を結びつける儀式」としての結婚式の役割が希薄になっていることも背景にあります。つまり、結婚式の社会的意味が変質しつつあることが、「なし婚」の広がりと密接に関係しているのです。
3. マーケティングと文化的ミスマッチの構造
──固定化された「結婚式を挙げる新郎新婦像」の限界
このような文化的相性のズレに対して、ブライダル業界のマーケティングは十分に対応できているでしょうか。
現在の主流マーケティングは、いまだに「結婚式は素晴らしいもの」「人生に一度の特別な日」「親孝行のカタチ」など、多様な家庭観を脇においた一定の価値観に基づいたコピーが多く見られます。もちろん、それ自体が間違いではありません。ただし、それが唯一の正解であるかのように語られることで、「違和感を持つ人たち」を無意識に置き去りにしているのです。
弊社ブログでも指摘しているように、これは装置産業としての限界にも関係しています。大量の設備投資・固定費を要する式場ビジネスでは、効率的な集客が求められるため、「マス向けのモデル化された顧客像」をベースにした営業・広告が採用されがちです。
比較的外向的で感情表現が豊か、かつ家族との関係性を大切にするような層を主要なターゲットとして想定し、その層に響くメッセージや演出を中心に設計してきたということです。
たとえば、「感動的な演出」や「親への感謝を伝える場面」、あるいは「SNSなどを通じた共有・発信」などが、その価値観と親和性の高い要素として取り入れられてきました。
しかし、実際にはこうした価値観に自分を重ねられないカップルも少なくなく、むしろそれ以外の傾向を持つ人々の方が増えている可能性があります。
文化的にフィットしない空間に対して、人は無意識に「ここは自分の居場所ではない」と感じます。その違和感こそが、式場との接点を減少させ、「なし婚」という選択に繋がっている可能性があります。
4. 結婚式の「本質」を見つめ直すために
──「やるべき」論からの脱却
これまでのブライダル業界は、「結婚式とはこうあるべき」という前提に基づいてサービスや演出を設計してきました。挙式・披露宴・ドレス・演出――それらが揃ってこそ結婚式だという価値観を、広告や接客を通して無意識のうちに押し出してきたのです。
しかし今、業界が問われているのは、そうした“外形的な完全性”ではなく、“内側の意味”を見つめ直すことではないでしょうか。
例えば、
- 「挙式」は絶対に必要なのだろうか??
- 「衣裳」は絶対に着る必要があるのだろうか??
という純朴な問いかけに対し、愚直に向き合う必要があるということです。
もっと突き詰めると、
- 本当に祝いたいと思う人たちが
- 一緒に食事をしながら
- ともに「祝う」気持ちを共有する
それだけでも、立派な“結婚式”と呼んでいいのではないかという考え方です。
つまり、
「集う・食べる・祝う」——この3つの要素こそが、結婚式の文化的本質であり、
それが実現されていれば、形式や演出がどれほど簡素であろうと、それは十分に意味のある結婚式であると捉える視点が必要なのではないかということです。
このような価値観を、業界側がまず理解し、受け入れ、その上で多様な選択肢を提示すること。
それが、文化的な排除を避け、多様なカップルに「選ばれる」ための第一歩となるのではないでしょうか。
そして何より重要なのは、
「結婚式は素晴らしいから、やるべきだ」と押しつけるのではなく、
「あなたにとって意味のある場とは何か?」という問いを、一緒に考える姿勢です。
この転換があってこそ、ブライダル業界は文化的多様性を受け入れる業界へと変化し続けられるのではないかと思います。
おわりに
結婚式の実施率が下がっている理由は、単なる経済的要因でも、人口減少だけでもありません。そこには、“文化的な共感の不在”という、より根源的な問題が存在しているのではないでしょうか。
今の結婚式は「特定の文化」に属する人には歓迎される一方で、それ以外の人には「違和感」や「疎外感」を与えてしまっている。そうであるならば、業界は「結婚式とは本来どういう文化的意味をもつのか?」を見直し、より多様な価値観と共生するスタイルへと舵を切る必要があります。
これからのブライダルは、「集う・祝う・食べる」という本質をより追求したものである必要を感じます。ブライダル業界に身をおく一人ひとりがその意識を持ち、多様な文化的相性を尊重する姿勢に転じていくことこそ、いまもっとも求められている姿勢ではないでしょうか。
引用・参考文献
- リクルートブライダル総研『ゼクシィ結婚トレンド調査2023』
https://souken.zexy.net/research_news/trend.html - 厚生労働省『人口動態統計』
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1.html - 経済産業省『ブライダル産業の構造転換に向けた調査・分析 報告書』
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/service/bridal/index.html
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