業務委託と社員採用のバランス

はじめに
婚礼企業においては、ウエディングプランナーの人材確保が大きな課題となっています。業務委託のフリープランナーを活用する企業もあれば、社員を増やして内部で完結させようとする企業もあります。しかし、一時的に業務委託を活用するものの、やがてその割合を減らして社員採用に重点を置く企業も少なくはありません。ただ行き着くところ、結果的に全体の業務負担が減らず、逆に現場が疲弊してしまうケースも珍しくはないのが実情です。
人材戦略を考える際には、短期的なコスト削減だけでなく、長期的に業務が回る仕組みをどう構築するかが重要です。そこで本ブログでは、婚礼業界でよく見られる問題を整理し、持続可能な人材活用のために何が必要かを考えていきます。
Index
婚礼業界でよく見られる人材マネジメントの問題
昨今の婚礼企業の多くは、業務委託と社員採用(新卒・中途)のバランスをどう取るかを常に考えています。特に、「社員の離職→業務委託の活用→社員の増加→業務委託の削減→社員の長時間労働の常態化→離職の増加→再び業務委託に頼る」という矛盾したサイクルに陥るケースがよく見られます。
例えば、ある企業では、業務委託のフリープランナーを多く活用していましたが、コスト削減を目的に社員を増やし、業務委託の依頼を減らしました。しかし、その後、次のような問題が発生しました。
1. 採用した新卒・中途が即戦力にならず、業務負担がむしろ増えた
- 社員を増やせば全体の業務負担が減るはずが、新人の教育が必要になり、逆に既存メンバーの負担が増加した
- ウエディングプランナーの仕事は幅が広く、OJTに頼る文化も強いため、即戦力になるまでに時間がかかる
- 結婚式の準備は4〜5ヶ月程度かかるため、「新人が独り立ちするまでの周期」が長く、すぐには経験値が積めない
結果起こること
人は増えたのに、現場の負担は減らない!!
2. 業務の標準化が進んでいない=属人化がまかりとおっている
- 業務の標準化が進んでいないため、新人への教育に時間と個人差が生じる
- 新人が育つのに時間がかかるため、当面は中堅やベテラン社員に担当が集中する
- 忙しい人ほど業務量が増え、負担が集中し、結果的に「できる人がさらに忙しくなる」悪循環
結果起こること
人は増えたのに、業務の標準化が進んでいないため、既存社員の仕事は増え、新人は育つのに時間がかかる
3. 長時間労働が常態化し、社員が疲弊して辞めていく
3-1.業務の分担が進まず、特定のプランナーに負担が集中する
ウエディングプランナーは、一顧客一担当制が基本です。そのため、新人が入社してもすぐに担当を持つことは難しく、既存の社員に業務が集中しやすくなります。
結婚式は長期間にわたり準備を進めていくものです。新郎新婦と何度も打ち合わせを重ねながら信頼関係を築き、細かな要望に対応していく必要があります。そのため、経験や知識が不足している新人がすぐに実務を担うことは困難だからです。
また、結婚式の準備にはプランニングだけでなく、以下のような多岐にわたる業務が含まれます。
- 会場や提携業者との調整:装花、音響、映像、料理、進行などを各関係者と連携する
- スケジュール管理:新郎新婦の希望に沿った計画を立て、進捗を調整する
- トラブル対応:式の準備過程で発生する予期せぬ変更や調整に対応する
これらの業務は、現場ごとの運用ルールや個別の判断が多く求められ、経験を積みながら覚えていく側面が強いものです。そのため、新人が短期間で独り立ちすることは難しく、結果として既存社員への質問や負担が集中しやすくなります。
また、業務の進め方が個々のプランナーに依存してしまうことも、負担を増やす要因の一つです。たとえば、過去の事例やノウハウが体系的に共有されていなければ、プランナーごとに異なるやり方で業務を進めることになり、無駄な手間や時間が生じることがあります。
結果起こること
業務の分担が進まず、負担が一部のプランナーに集中し続ける状況が生まれてしまう
3-2.長時間労働が常態化する要因
またウエディングプランナーの業務は、長時間労働になりやすい特徴があります。これは単に「残業が当たり前」という文化があるからではなく、業務の特性や顧客対応の仕組みが影響しているためです。
主な要因として、以下の5つが挙げられます。
①顧客対応の時間が不規則になりやすい
- 結婚式を控える新郎新婦の多くは、日中は仕事をしている
- そのため、打ち合わせや相談の時間が夕方以降や休日に集中しやすい
- 日中は社内業務や事務処理などを行い、夜間に顧客対応をする形になり、勤務時間が長くなる
②準備にかかる工数が多く、ギリギリまで調整が発生する
- 結婚式は一生に一度のイベントであり、ミスが許されない
- そのため、細部まで確認を重ね、最終的な調整をギリギリまで行うことが多い
- 同時に複数の担当をもつため余裕を持ちにくく、業務時間が延びやすくなる
③業務範囲が広く、個人の負担が大きい
- ウエディングプランナーの業務は、プランニングだけでなく、以下のような幅広い役割を担う
- プロデュース全般の業務
- 衣裳・美容・装花・写真・映像・音響・引出物など各パートナー間との連携
- 列席ゲストからの問い合わせ対応など
- これらの業務は分業が難しく、担当プランナーがすべての調整を引き受けることになりがち
④イレギュラー発生が多く、業務の負担が増えやすい
- 新郎新婦の希望が途中で変わることが多く、その都度各所の調整が必要になる
⑤プランナー自身の「より良い結婚式を提供したい」という想い
- 「もっと良い提案ができるのではないか」「もう少し準備を進めておきたい」という気持ちが生まれ、労働時間が延びることがある
結果起こること
休日出勤や休日対応も増え、疲弊して長くは続けられず、一定数は必ず辞めてしまう
4. 人が足りなくなり、結局業務委託に依頼を増やすことに
このような状況が続くと、結果人が足りなくなり、以下の悪循環が生まれます。
- 社員の離職が進み、現場が回らなくなると、業務委託に再び頼るしかなくなる。
- しかし、一度依頼を減らした業務委託側はすでに他の案件を抱えており、以前のようにすぐには動けない。
- 「必要なときだけ頼る」というスタンスでは、業務委託側との関係が希薄になり、安定的な協力が得られなくなる。
結果起こること
短期的なコスト削減が、長期的な業務運営を不安定にする
婚礼企業がとるべき戦略
以上見てきたように、「外注費を抑える」ために業務委託の活用をセーブし、社員を増やしていっても、上記のような悪循環が生まれてしまいます。これは実際、多くの婚礼企業の現場でいままさしく起こっていることでもあります。
確かに、業務委託の活用を抑えると、一見コスト管理がしやすくなるように思えます。しかし、長期的な視点で考えると、業務の属人化や長時間労働の常態化によって、人材の定着が難しくなり、結果的にコスト増につながる可能性の方が格段に高まるともいえます。
婚礼施設において人の定着率を高めるためには、「まず社員雇用ありき」で考えるのではなく、「業務委託ありき」で考えることが実は長期的には有効な施策ということです。以下に、重要な点をまとめます。
1. 業務委託と長期的なパートナーシップを築く
業務委託は「社員に比べてコストが高い」と思われがちですが、実は正しく活用することで、業務の安定性や柔軟性を高めることができます。社員のみで回そうとすると、繁忙期と閑散期の波に対応しづらく、人件費の固定化が経営リスクになりやすいからです。
また、業務委託は経験豊富な人材が多く、社員だけではカバーできない領域の顧客を担当できる役割も担えます。「必要なときだけ依頼する」関係ではなく、長期的な視点でパートナーとして協力を続けることが、婚礼施設における安定的な運営にもつながっていきます。
《具体的な施策》
- 業務委託の活用を短期的なコスト削減の手段ではなく、業務の安定要素として位置づける
- 「閑散期には契約を減らす」などの単純なコストカットではなく、年間を通じた適正な業務量配分を考える
- 業務委託にも社内の情報共有を適切に行い、組織的な知見を外部人材とも共有することで、安定した関係を築く
2. 社員採用は慎重に進め、教育・定着の仕組みを強化する
社員を増やせば、短期的には「人が増えたことで安心感がある」かもしれません。しかし、教育体制が整っていなければ、新人が即戦力になるまでの間、逆に現場の負担が増えてしまいます。また、離職率が高い職場では、新人を採用しても定着せず、採用・教育コストばかりが膨らんでしまいます。
社員を増やす場合は、単なる人員補充ではなく、教育や定着の仕組みを強化し、長く活躍できる環境を整えることが重要です。
《具体的な施策》
①OJTだけに頼らず、研修プログラムやマニュアルを整備し、早期戦力化を支援する
ウエディングプランナーの仕事は、実務経験がものを言う業務が多いため、OJT(現場で学ぶ教育手法)が一般的です。しかし、OJTに頼るだけでは指導係の業務負担が増え、新人が必要なスキルを体系的に学ぶ機会が不足しやすいという課題があります。
そのため、以下のような施策を導入することで、OJTと並行して新人の成長を促進することが重要です。
▶動画マニュアルの整備
- 「打ち合わせの進め方」「ヒアリングのコツ」「アイテム販促の仕方」など、実際の業務を映像化して学べる環境を作る
- 経験豊富なプランナーの接客を録画し、何度でも見返せる教材として活用する
▶チェックリストの活用
- 「初回打ち合わせで確認すべきポイント」「進行表作成時の注意点」などをマニュアル化し、新人でも抜け漏れなく業務を進められるようにする
- 業務フローを明文化することで、新人が自分で考えて進められる環境を作る
②「この人について学ぶ」形式ではなく、体系的な学習機会を用意し、教育負担を分散する
従来のOJTでは、新人が特定の先輩プランナーにつき、「見て学ぶ」「手伝いながら覚える」という方法が一般的です。しかし、この形式では指導係の負担が増えたり、新人が学べる範囲が指導係の経験やスタイルに依存したりするという課題があります。
そのため、以下のような方法を取り入れ、属人化せずに学べる環境を整備することが重要です。
▶複数の先輩プランナーと関わる「メンター制度」の導入
- 新人1人につき1人の指導者をつけるのではなく、「Aさんは打ち合わせスキル」「Bさんは進行管理」など、担当ごとに学ぶプランナーを分ける
- これにより、新人が特定の指導者のスタイルに依存せず、幅広い視点で学ぶことができる
▶「標準業務フロー」を作成し、誰でも学べる環境を作る
- 「初回打ち合わせの進め方」「進行や演出提案のポイント」「当日のスケジュール作成の仕方」など、業務ごとの標準フローを文書化する
- 指導係が不在でも、新人が自主的に学び、実践できる環境を整える
▶「ケーススタディ研修」を実施する
- 実際に過去に発生した事例をもとに、「この状況ではどう対応すべきか?」を考えるケーススタディを研修に導入
- 「トラブル対応」「クレーム対応」「臨機応変な対応」など、過去の事例に基づく実践的な課題を個々のプランナーごとに考えてもらう機会を作る
③新卒・中途の定着を促すために、ワークライフバランスやキャリアパスの明確化を行う
ウエディングプランナーの仕事は、長時間労働が発生しやすい業務構造があり、離職率が高くなりがちです。そのため、新人が長く働ける環境を作るために、ワークライフバランスを維持しながら成長できる仕組みを整えることが必要です。
▶「残業の見える化」を行い、業務の偏りを防ぐ
- 各プランナーの稼働状況や残業時間をチームで共有し、特定の人に業務が偏らないようにする
- 繁忙期と閑散期の波を考慮し、年間の労働時間を管理する体制を作る
▶「キャリアパス」を明確化し、成長の指標を示す
- スキルマップを作成し、昇給や昇格基準を明確化する
- 「◯年目でこういう業務を任される」「次のステップではこういうスキルを身につける」といった成長のロードマップを提示し、将来の見通しを立てられるようにする
▶働きやすい環境を整備する(例:フレックスタイム制・リモートワークの活用)
- 繁忙期以外の期間は柔軟な働き方ができるよう、フレックスタイム制を導入
- 打ち合わせや事務作業など、オンライン対応が可能な業務はリモートワークを活用し、出勤の負担を軽減する
3. 「婚礼企業ならではのノウハウや人的資産」は本当に必要なのか?
3-1. 婚礼企業ごとに蓄積が必要な「独自のノウハウ」とは?
また、婚礼業界の企業が業務委託の活用を懸念する際によく挙げる理由のひとつに、「業務委託に頼ると、会社独自のノウハウや人的資産が蓄積されないのではないか?」というものがあります。
確かに、企業が持つノウハウや人的資産は競争力の源泉になり得ます。しかし、ここで一度立ち止まって考えたいのは、「婚礼企業にとって本当に独自のノウハウや人的資産とは何か?」 という点です。
婚礼業界におけるプランニング業務は、どの企業でも共通する要素が多いものです。例えば、以下のようなスキルは婚礼業務を遂行する上で不可欠ですが、必ずしも企業ごとに独自性が求められるものではありません。
- ヒアリング力:新郎新婦の要望を引き出し、適切な提案を行う力
- プランニング能力:婚礼の進行や演出を考え、最適なプランを作る力
- 会場オペレーションの知識:会場ごとの特徴や運営ルールを理解し、スムーズに結婚式をオペレーションする力
- トラブル対応力:当日の予期せぬ事態に対処し、業務を円滑に進める力
これらは、婚礼業界で働くウエディングプランナーなら誰もが等しく持つべきスキルであり、企業独自のノウハウとは言い難い部分です。
では、「会社独自のノウハウや人的資産が蓄積されないと困る」と懸念する企業は、一体何を「独自のもの」と考えているのでしょうか?
企業ごとに異なる可能性がある要素として、例えば以下のようなものが挙げられます。
- その会場ならではの運営ノウハウ(設備の使い方、バックヤードの動線、スタッフの役割分担など)
- 過去の事例を活かした提案力(この会場ではこういう演出ができる、こういう工夫が成功した、などの蓄積)
- ブランドとしての接客スタイル(企業ごとに異なるおもてなしのルールやマニュアル)
確かに、これらの知識が社内に蓄積されていることは、企業運営にとって有利に働くこともあるでしょう。しかし、ここで考えるべきは、「そのノウハウは本当に社内でしか継承できないものなのか?」 という点です。
3-2. 本当に社員でないと、それらを蓄積できないのか?
仮に、ある企業が「業務委託に頼ると、会場ごとのノウハウが蓄積されない」と考えていたとします。しかし、それが本当に必要不可欠なものであれば、業務委託プランナーはその企業では機能しないはずです。
しかし、実際には業務委託のプランナーが活躍できている企業も多くあります。これは、業務委託のプランナーがその企業のオペレーションを理解し、適応できるからです。つまり、「業務委託だからノウハウが蓄積されない」というのは詭弁であり、むしろ「業務委託を活用することで標準化が進み、誰でも対応できる仕組みが整う」可能性があるのです。
また、業務委託のプランナーも、特定の会場と長期間契約すれば、結果的にその会場のノウハウを身につけていきます。そうなると、業務委託だからといって必ずしも「企業独自のノウハウが失われる」とは言えないのではないでしょうか?
もし「会社独自のノウハウを蓄積したい」と考えるのであれば、「業務委託を減らす」のではなく、「業務委託ともノウハウを共有できる仕組みを作る」ことが本質的な解決策です。
4. 短期的なコスト削減より、長期的な業務効率を優先する
多くの企業が、短期的なコスト削減を重視するあまり、結果的に業務の非効率を招くという矛盾を抱えています。
先にも触れましたが、たとえば、「業務委託は単価が高いからコスト削減のために社員を増やす」という考え方は、一見合理的に見えます。しかし、社員を増やした結果、長時間労働が常態化し、疲弊して離職が増えると、採用・教育コストが発生し、結局コストがかさむことになります。
また、業務委託を減らしたことで一時的にコストは下がっても、業務が回らなくなり、結果的に生産性が落ちてしまうこともよくあります。コスト削減は大切ですが、それ以上に「業務がスムーズに回る仕組み」を優先するべきです。
《具体的な施策》
- コストを「人件費」だけでなく、「業務効率」とセットで考える
- 単純な経費削減ではなく、長期的な視点で「組織としての持続可能性」を重視する
- 「社員採用ありき」よりも、まず業務の標準化や分業体制の見直しを行う
5.長時間労働を防ぐために必要なこと
またこれも先にも触れましたが、長時間労働が常態化すると、心身の負担が大きくなり、結果的に社員が疲弊して離職するケースが増えてしまいます。
これを防ぐためにも、以下のような施策が重要になります。
- 業務の標準化を進め、属人化を防ぐ
- 過去の事例やノウハウを共有し、業務のやり方に一定の基準を設ける
- ワークフローや顧客対応のマニュアル化を進め、新人でも対応しやすい仕組みを作る
- 分業の仕組みを整え、特定のプランナーに業務が偏らないようにする
- アシスタント業務を明確にし、新人が経験を積みながら成長できる環境を作る
- 業務ごとに役割分担を決め、効率的に業務を進める
こうした仕組みを整えることで、長時間労働を抑えながら、持続可能な働き方を実現することが可能になるのではないでしょうか。
おわりに
以上見てきたように、婚礼企業においては、業務委託と社員採用のバランスをどう取るかが、企業の成長と安定に直結します。短期的なコスト削減を優先しすぎると、結果的に業務が属人化し、長時間労働が常態化し、社員の離職を招くことになりかねません。
重要なのは、「社員採用ありき」ではなく、「業務を持続的に回す仕組みを作る」ことです。業務委託を適切に活用し、教育・定着の仕組みを整え、長期的な業務効率を優先することで、安定した企業運営を実現できるのではないでしょうか。ぜひ参考になさってください!
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