ブライダル業界は寡占化するの??

1. はじめに
婚姻数の減少に伴い、ブライダル市場は縮小を続けています。こうした局面では「大手への集約が進む」という見方がよく聞かれます。実際、2025年にはノバレーゼとエスクリの経営統合が発表され、業界再編の可能性が示唆されました。
一方で、市場が縮小しても多数のプレイヤーが共存し続ける業界もあります。では、ブライダル業界はどのような道を今後たどるのでしょうか。それとも、まったく別の構造変化が起きるのでしょうか。
本ブログでは、他業界の事例を参照しながら、ブライダル業界の構造変化の方向性について考察していきます。
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2. 寡占化が進む条件、進まない条件
業界が寡占化するかどうかは、いくつかの構造的な条件によって決まります。まず、寡占化が進みやすい条件を整理しておきたいと思います。
寡占化が進みやすい条件
第一に、規模の経済が強く働く業界です。生産量や店舗数が増えるほど単位あたりのコストが下がるため、大手が有利になります。
規模の経済とは
事業規模が大きくなるほど、1単位あたりのコストが下がる現象のことです。たとえば、100個仕入れるより10,000個仕入れる方が1個あたりの仕入れ値は安くなります。物流、システム開発、広告宣伝なども、規模が大きいほど効率が上がります。
第二に、初期投資や参入障壁が高い業界では、新規参入が難しく、既存の大手が市場を支配しやすくなります。
参入障壁とは
新しく事業を始めようとする企業が直面するハードルのことです。必要な資金、技術、許認可、ブランド力などが該当します。参入障壁が高いほど新規参入が難しく、既存企業が有利になります。
第三に、ネットワーク効果が働く場合も寡占化が進みます。利用者が増えるほどサービスの価値が高まるため、先行者が優位に立ちます。
ネットワーク効果とは
利用者が増えるほど、サービスの価値が高まる現象のことです。たとえば、SNSは利用者が多いほど交流相手が増えて便利になります。結婚式場の検索サイトも、掲載数が多いほど消費者にとって便利になり、消費者が集まるほど式場にとって魅力的な広告媒体になります。
第四に、サービスの標準化が可能な業界では、大量生産や大量供給による効率化が効くため、大手への集約が進みやすくなります。
寡占化が進みにくい条件
一方で、寡占化が進みにくい条件もあります。第一に、属人性が高い業界です。サービスの質が個人の技術や関係性に依存する場合、規模を拡大してもメリットが薄くなります。
属人性とは
サービスの質が「誰がやるか」に大きく左右される性質のことです。マニュアル化や標準化が難しく、担当者個人の技術、経験、人柄がサービスの価値を決めます。美容師やウェディングプランナーの仕事は属人性が高いといえます。
第二に、地理的制約がある業界では、全国展開の効率が悪く、地域ごとにプレイヤーが分散します。
第三に、顧客の差別化ニーズが多様な場合、画一的なサービスでは対応しきれず、多様な事業者が共存することになります。
第四に、参入障壁が低い業界では、退出と参入が繰り返され、寡占化が進みにくくなります。
これらの条件を念頭に置きながら、実際の業界事例を見ていきましょう。
3. 他業界の事例
コンビニエンスストア〜寡占化
コンビニ業界は、寡占化が最も進んだ業界の一つです。セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソンの上位3社で国内シェアの90%以上を占めています。2018年から2024年にかけて、大手3社のシェアは85.7%から89.9%へとさらに上昇しました。
なぜここまで寡占化が進んだのでしょうか。理由は明確です。物流網の構築には巨額の投資が必要であり、規模が大きいほど配送効率が上がるからです。また、商品開発やシステム投資においても規模の経済が働きます。さらに、コンビニのサービスは高度に標準化されており、どの店舗でも同じ品質を提供できます。これらの条件がすべて揃っているため、大手への集約が進みました。
美容室〜寡占化しない業界
美容室業界は、コンビニとは対照的に寡占化が進んでいません。全国に約27万施設が存在し、大手チェーンのシェアは極めて低い状況です。2024年には倒産件数が107件と過去最多を記録しましたが、それでも新規開業が退出を上回っており、分散構造が維持されています。
寡占化が進まない理由は何でしょうか。最大の要因は属人性の高さです。顧客は「どの店か」ではなく「誰に切ってもらうか」で店を選びます。スタイリスト個人の技術と顧客との関係性がサービスの核心であり、これは規模を拡大しても代替できません。また、美容室は顧客の生活圏内に立地する必要があり、地理的制約が大きいという特徴もあります。さらに、美容師資格と小規模な初期投資があれば開業できるため、参入障壁が低くなっています。これらの条件により、多数の小規模事業者が共存し続けているのです。
葬儀業界〜部分的な再編
葬儀業界では、部分的な再編が進んでいます。2024年には燦ホールディングスときずなホールディングスの統合が発表されました。休廃業66件、倒産8件と、退出も過去最多水準となっています。
しかし、完全な寡占化には至っていません。葬儀業界には地域密着の老舗事業者が多く、長年の信頼関係や地域ネットワークが競争優位となっています。全国展開の大手と地域密着の中小が棲み分ける構造が続いており、一方的な集約は進んでいません。なお、新設法人105件が退出74件を上回っており、新規参入も継続している点は注目に値します。
外食産業〜二極化
外食産業では、緩やかな寡占化と二極化が同時に進行しています。上位30社のシェアは2000年の9.5%から2023年には17.2%へと拡大しました。特にカフェ業界では、スターバックスやコメダ珈琲といった大手チェーンがシェアを伸ばし、下位事業者との差が広がっています。
一方で、「町の個店」も依然として存在感を持っています。外食は「何を食べるか」だけでなく「どこで誰と食べるか」という体験的価値が重視されるため、画一的なチェーン店では満たせないニーズがあります。その結果、大手チェーンと個性的な個店が共存する二極化の構造が形成されています。
ホテル・旅館〜多極化
ホテル・旅館業界では、M&Aが活発化しているものの、寡占化は進んでいません。旅館の施設数は1989年の77,269から2017年には38,622へと半減しました。一方で、ホテルは4,970から10,402施設へと倍増しています。業態間の構造変化は起きていますが、特定の大手への集約は見られません。
寡占化が進まない理由は、立地、歴史、おもてなしといった要素の属人性にあります。「この場所でしか味わえない体験」や「この旅館ならではのサービス」が差別化要因となり、規模の経済だけでは競争優位を築けません。その結果、多様な事業者が価格帯や特色ごとに棲み分ける多極化の構造が続いています。
各業界の比較
| 業界 | 寡占化 | 主な要因 |
|---|---|---|
| コンビニ | 進んだ | 規模の経済、物流網、サービスの標準化 |
| 美容室 | 進まない | 属人性、地理的制約、低い参入障壁 |
| 葬儀 | 部分的 | 地域密着と全国展開の併存 |
| 外食 | 二極化 | 大手チェーンと個店の棲み分け |
| ホテル・旅館 | 多極化 | 立地、歴史、おもてなしの属人性 |
4. ブライダル業界はどうなの?
では、ブライダル業界はどのような構造変化をたどるのでしょうか。他業界の事例を参考にしながら、いくつかの視点から検討していきます。
ブライダル業界は単一の市場ではなく、複数のレイヤーで構成されています。本ブログでは、消費者との接点に近い順に「送客メディア」「式場」「プランナー」の3つのレイヤーに分けて考えます。衣裳や装花、写真・映像といったサプライヤー領域も重要ですが、今回は式場選びに直接関わるレイヤーに焦点を当てます。
送客メディア〜一強多角と分散化
結婚式場の集客において、送客メディアは大きな存在感を持っています。現状の構造を整理すると、「一強多角」という表現が実態に近いでしょう。
ゼクシィは掲載会場数も多く、認知度も高く、売上規模も大きいです。一方で、ハナユメは相談カウンターの顧客満足度で高い評価を得ており、ウェディングパークやみんなのウェディングなどは費用明細を含む口コミで独自のポジションを築いています。最大手のゼクシィが存在しつつも、他のプレイヤーはそれぞれ異なる強みで競争しているのが現状です。
この「一強多角」の構造に加えて、送客メディア以外の情報源も既に存在しています。
Instagramでは「#プレ花嫁」「#卒花嫁」といったハッシュタグを通じた情報収集が定着しています。Googleマップの口コミを参考にする消費者もいます。式場の自社ホームページやSNSアカウントも、情報収集の選択肢に入っています。いわゆるD2Cと呼ばれる領域です。
D2Cとは
「Direct to Consumer」の略で、中間業者を介さずに消費者へ直接販売・アプローチする事業形態のことです。ブライダル業界に当てはめると、送客メディアを経由せず、自社のSNSやホームページ、口コミを通じて直接顧客を獲得するモデルを指します。顧客データを自社で蓄積でき、自社ブランドの世界観や良さを直接伝えられるメリットがあります。
式場側から見ると、集客チャネルの選択肢は以前より増えています。送客メディアへの掲載、Instagram運用、自社ホームページのSEO対策、Googleマイビジネスの活用など、複数のチャネルを組み合わせることが可能です。実際に、自社集客に力を入れる式場は増えています。
では、この先どのような方向に進むのでしょうか。いくつかの可能性が考えられます。
- 第一に、情報源の分散化がさらに進む可能性です。消費者が複数の情報源を使い分けるようになれば、特定のメディアへの依存度は下がります。送客メディアの相対的な影響力が低下し、式場ごとの自社集客力が問われるようになるかもしれません。
- 第二に、送客メディア間の競争が激化する可能性です。市場縮小の中でパイを奪い合う形になれば、各社の差別化がより鮮明になるか、あるいは淘汰が進むかもしれません。
- 第三に、現状の一強多角構造が維持される可能性です。消費者の「まとめて比較したい」というニーズ、いわゆる「集合知」がある限り、送客メディアの存在意義は残ります。ゼクシィの圧倒的な認知度とブランド力は簡単には崩れないともいえます。
いずれの方向に進むにせよ、式場にとっては集客チャネルの選択肢が増えているという事実があります。送客メディアだけに依存するのか、自社集客を強化するのか、両方を組み合わせるのか。その判断は各式場の戦略と実行力にかかっています。
式場運営〜統合と多様化
式場運営については、2つの異なる動きが同時に起きる可能性があります。
- 一つは、大手チェーン間の統合です。2025年のノバレーゼとエスクリの経営統合は、市場縮小局面における再編の一例です。複数の式場を効率的に運営するための規模の経済を求めて、今後も統合が起きる可能性はあります。ただし、現時点では大型統合の事例は限定的であり、これが業界全体の傾向となるかどうかは、今後の動向を見る必要があります。
- もう一つは、多様な式場の共存です。ブライダル業界には、美容室やホテル・旅館と共通する特性があります。結婚式場は新郎新婦やゲストのアクセスを考慮して選ばれるため、地理的制約があります。また、価格帯、式の形式、雰囲気など、顧客が重視する軸は多岐にわたり、画一的なサービスでは対応しきれない領域が残ります。
これらの特性がある限り、大手チェーン、地域密着型、専門特化型、高価格帯、カジュアル路線といった多様なプレイヤーが共存する余地はあります。ただし、市場縮小が続く中で、すべての形態が生き残れるわけではなく、淘汰と新陳代謝が進む可能性も考慮すべきです。
プランナー〜属人性と働き方の多様化
他方、プランナーの働き方は多様化しています。式場所属のプランナー、フリーランスプランナー、業務委託フリープランナーなど、複数の形態が存在します。
美容室のスタイリストと同様に、プランナーの仕事は属人性が高いといえます。「誰に担当してもらうか」が顧客の満足度の指標や選択基準となる場合があり、この特性は個人やフリーランスにとって追い風となりえます。
一方で、フリーランスプランナー市場がどの程度拡大しているのか、あるいは縮小しているのかについては、信頼できるデータが限られています。市場全体が縮小する中で、フリーランスとして独立しても十分な案件を確保できるかどうかは、個人の力量や地域の市場環境に大きく依存します。
したがって、プランナー層が「多極化する」と断言することは難しく、属人性の高さという構造的特性と、市場縮小という環境要因の両面から見ていく必要があります。
5. ブライダル業界の構造変化をどう見るか
ここまでの分析を整理すると、ブライダル業界の構造変化について、いくつかのことがいえます。
第一に、「大手への集約が進む」という単純な見方は適切ではないということです。コンビニのような条件がすべて揃っているわけではなく、属人性、地理的制約、顧客ニーズの多様性といった寡占化を妨げる要因も存在します。
第二に、レイヤーによって異なる動きが起きる可能性があるということです。送客メディア、式場運営、プランナーというレイヤーごとに、構造変化の方向性は異なります。
第三に、複数のシナリオがありえるということです。自社集客へのシフトが進むのか、大手統合が加速するのか、多様な式場が共存し続けるのか。これらは二者択一ではなく、同時に進行する可能性もあれば、地域や価格帯によって異なる動きが出る可能性もあります。
本ブログでは、他業界の事例から寡占化の条件を整理し、ブライダル業界への適用を試みました。しかし、構造変化は単一の要因で決まるものではなく、経済環境、技術進化、消費者の価値観変化など、複合的な要因の影響を受けます。
皆さんは、どのようにお考えでしょうか?
次回は、この構造変化にAIの進化がどのような影響を与えるのかについて考察していきます。
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