新着情報

測定による行動変容~新規接客と施行

はじめに

ウエディングプランナーは、成約率や売上・顧客満足度といった数値が測定され、評価されます。また、その測定自体が、ウエディングプランナーの行動に大きな影響を及ぼします。測定結果が適切に活用されれば、行動改善や業務効率の向上などの「良い行動変容」につながります。しかし一方で、その設計や運用が不適切だと、プレッシャーを生む、不健全な競争が起こる、ストレス過多により退職を選ぶ、あるいは短期的な成果だけを追求するという「悪い行動変容」が起きるといったこともあります。

そこで本ブログでは、伊丹敬之・青木健晴著(2016)『現場が動き出す会計』日経BP社の第13章を参照し、測定が行動変容を促す仕組みである「3つの目」、測定結果の扱い方を分類する「4つのパターン」について考察したいと思います。

そして最後に、ブライダルの現場での「良い行動変容」と「悪い行動変容」の例について考察し、ウエディングプランナーが真に顧客と会社と自分のためになるような「良い行動変容」を起こすには、どのような設計が必要かを考えてみたいと思います。

電光掲示板の具体例

とある工場の話です。

この工場の生産ラインには、オペレーター毎の持ち場があり、どこかが故障するとライン全体の稼働率に影響しまうという状況がありました。すなわちどこかが故障すると、自分の持ち場にも支障が出るため、そうならないようにみな自分の持ち場を守ることに注力しているということです。でもとはいっても工場では、故障や不具合はつきものです。

ですが、持ち場によって担当する機械や必要な技能が異なります。なので、稼働率が低下することは避けたいと皆が思いつつも、別の持ち場を応援することはできないという状況が続いていました。

工場のマネージャーはこの状況を変えたいと、どうしたら皆の行動を変えられるか?と腐心していたのですが、なかなかうまくいきません。ヘルプが可能なように、機械や技能の社内教育を進めたり、オペレーター全員にわかるよう、稼働率計を各所に設置して協力行為を促したりもしましたが、どれもうまくいきませんでした。

そこでふとマネージャーは思い付きます。「そうだ、工場見学者から見える位置に電光掲示板を設置しよう!そこに稼働率が映し出されるようにしよう!」と。すると、オペレーターの行動が信じられないぐらいに変わっていったのです。主な変化としては、頻繁にミーティングをするようになり、ライン全体の稼働率向上に向けて皆が協力するようになっていったのです。

この背景として、この工場は見学者の訪問が多いという特徴があり、外部見学の人が来た際に「稼働率」という測定結果が公開されるようになったことが原因として挙げられます。また見学者のなかには、社員の家族や友人が来ることも多かったようで、「よく見られたい」「お客様の信頼を裏切りたくない」という欲求がオペレーターの行動を良い形で変えていったということが挙げられます。

この変化には、マネージャー自身が心底驚いたようで、試しにやってみただけなのに測定結果を誰と共有するかでこんなに行動が変わるものかと息をまいたとのことです。もっとも、稼働率の高低によってオペレーターの評価やボーナスが変わるわけでもなく、ただ公開方法を変えただけでもあります。

つまりは、工場見学者という外部の人たちに、「まずい数字」を見られたくないという心理がオペレータ全員に働き、良い行動変容へとつながったということです。

(出典: 『現場が動き出す会計』第13章、伊丹敬之・青木健晴著、2016年、日経BP社)

以上の話をまとめると、以下のようになります。

  • 事例の概要:
    • 生産ラインに設置された電光掲示板で、リアルタイムで各ラインの稼働率を表示
    • 「稼働率の見える化」が、オペレーター間の、「まずい数字」を見られたくないという心理へとつながり、「よく見られたい」「お客様の信頼を裏切りたくない」という意識が生まれ、自然な協力体制が生まれた
  • 良い効果:
    • 「周囲の目」が機能し、各ラインが他ラインと協力することで「良い行動変容」が促進された
    • 査定や賞与にも影響はなく、ただ「公開の仕方」を変えただけで、上記の結果につながった
  • 学び:
    • 測定結果を「公開」することは、「良い行動変容」の強力な引き金となる
    • つまり、「測った」だけで、人の行動が良い変化につながることがある

測定と公開の4つのパターン

前節で紹介した工場の生産ラインの事例をおさらいすると、稼働率という測定結果自体は、以前から存在していたという前提がまず大事です。マネージャーは、この稼働率をなんとか向上させたいとずっと腐心していたが、なかなかうまくいかなかったということです。

にもかかわらず、測定結果の「公開の仕方」をちょっと変えただけで、行動がガラッと変わったということが最大のポイントとなるわけです。

では、これは何故生じたのでしょうか?

「誰が見るか?」という「気になる目」が行動に変化を与える要因となったということです。

一般に、測定結果の使い方に関しては、「評価対象とするかしないか」、「公開するかしないか」という二つの観点から、次の4つのパターンに分類されます。

上記に基づき、新規接客の成約率を「評価対象とするかしないか」「公開するかしないか」という前提で分類してみたいと思います。

1. 評価され、公開される(パターン1)

  • 測定結果が評価の対象となり、かつ公開される状態
  • : プランナーの成約率が会社全体に共有され、評価にも反映される
  • 効果: 競争意識が高まり、行動変容が促進される。

2. 評価されるが、公開されない(パターン2)

  • 測定結果が評価の対象となるが、公開はされない状態
  • : 成約率が上司のみの評価材料となり、会社全体では共有されない
  • 効果: 個別のフィードバックが可能

3. 評価されないが、公開される(パターン3)

  • 測定結果が評価の対象とはならないが、公開される状態
  • : 成約率が評価には関係ないが、会社全体では共有される
  • 効果: 「よく獲れるプランナーと思われたい」という意識から、粘り強さがうまれる

4. 評価されず、公開されない(パターン4)

  • 測定結果が共有されず、評価基準としても使用されない状態
  • : 成約率が評価にも関係がなく、会社全体でも共有されることがない
  • 効果: 前月と比べて少しでも成長したいとの意識から、自己変革につながる行動がうまれる

✔︎ポイント

第3と第4のパターンのように、成約率が評価対象にならない場合でも、行動が良い形に変化することがある

⇨工場の電光掲示板の例は、第3のパターンに該当

測定が行動変容を促す「3つの目」

では、いままで見てきたように、なぜ人は測定されるとたとえそれが評価対象でない場合でも、行動が変化することがあるのでしょうか?先にその理由として、「まずい数字」を見られたくない、「よく見られたい」「お客様の信頼を裏切りたくない」という意識が生まれたからということを述べました。

では、それは「誰の目」を意識しての行動変化なのでしょうか?それを把握するためには、測定が行動に影響を与える、「上司の目」「周囲の目」「内なる目」という「3つの目」の視点をそれぞれ理解することが不可欠です。

人間の行動というのは、この「気になる目の数」によって変容すると考えられるからです。

では、それぞれの「目」が行動に対してどのような影響を与えているかを詳しく見ていきたいと思います。

  1. 上司の目:
    • 上司の目から見て測定結果が評価基準として用いられることで、上司の視点を意識した行動が生まれます。たとえば、成約率が公開される場合だと、この「上司の目」がプランナーの行動に大きな影響を与えます。
    • どんな行動変容が生まれるか?
      • 目標達成に向けた意識が高まる
  2. 周囲の目:
    • 仮に、上司の目がない場合、すなわち成約率が評価対象にならない場合でも、会社全体で公開されることで、チーム内で互いの成果が見えるようになります。
    • どんな行動変容が生まれるか?
      • これは、競争意識を高める要因となり、「一番になりたい」との思いから、「1組でも多く獲れるように頑張ろう」との行動変容へつながります
  3. 内なる目:
    • あまりない例ですが、成約率が仮に評価対象でも公開されることもない場合はどうでしょうか?
    • どんな行動変容が生まれるか?
    • 測定結果を自己評価に活用し、自発的に行動を変える可能性があります。自分の接客方法や提案スタイルを振り返り、次の改善目標を設定することにもつながります。

測定の功と罪

今まで見てきたように、「人は測定されるだけで行動を変える」ことが理解いただけたと思います。それは、【測定結果を見る目が気になる→よく見せたい→行動を変える】という原理が働くからです。では、この行動変容というのは、必ず「良い行動変容」を生むことばかりにつながるのでしょうか?

冒頭にも触れたように、ブライダルの現場では、「成約率や売上・顧客満足度」というのは、「評価対象であり、公開される」ことが一般的です。上の例で言うと、パターン1に該当します。

ですが、測定というのは、必ずしも「良い行動変容」ばかりにつながることはなく、弊害を生む可能性があるということにも触れておく必要があります。

意図せざる悪影響

二次効果を予測することが難しい

測定というのは、「良い行動変容」が生まれるだけであれば万々歳なのですが、思わぬ落とし穴も潜んでいます。それは、良い面ばかりに目がいくことにより、測定することによる「二次効果=予期せぬ行動を生む可能性」を軽視あるいは完全にはじめから見落としてしまうからこそ生じてしまいます。

以下に、「結婚式場が一円でも多く利益を捻出するために、人件費や外注費を厳しくチェックする」という事例を、詳しく見てまいりしょう。

短期/中期という時間的視点
  • 例)残業代を節約するために、残業時間が少ないプランナーを評価するシステムを取り入れる
    • 短期効果;残業代の圧縮とプランナーの負担軽減につながる
    • 中期効果;評価のための「嘘の報告」が増え、サービス残業が横行する
直接/間接という距離の視点
  • 例)利益を上げるために、プランナーが司会とアテンドを兼任できるようにする
    • 短期効果;プランナーのスキルが向上し、司会や美容への外注費が圧縮できる
    • 中期効果;プランナーが疲弊し、外注先も売上低下につながり、離職率の増加や外注先の倒産などにつながる
部分/全体という影響範囲の広さの視点
  • 例)交通費を削るために、すべての打ち合わせを在宅オンライン化する
    • 部分効果;打ち合わせ時の交通費は減るため、会社全体の利益向上につながる
    • 全体効果;処理業務がDX化されておらず、結局出社しないといけないので、逆に効率が悪化し、交通費も結局発生することになる

二次効果を見通すことの大切さ

このように、何かを測定する際、一次効果だけでなく二次効果まで見通して設計を考えないと、「意図せざる悪影響」が生じ、結果コストやマイナスが大きく発生してしまうということにもつながります。

新規接客と施行における行動変容

ではいままで見てきた視点に沿ってブライダルの新規接客と施行を考察した際に、成約率や売上・顧客満足度を測定し評価対象とすることで、どのような「良い行動変容」が生まれ、あるいは「悪い行動変容」が生まれる可能性があるかを見てまいりたいと思います。

新規接客における行動変容

まずは新規接客における「良い行動変容」から見ていきたいと思います。

  • 良い行動変容:
    1. 成約を第一にした行動
      • 「どうしたら成約いただけるか」を常に第一に考え、積極的な競合リサーチや顧客ニーズの察知に努めようと努力する
      • 成約率1位になって、賞賛を得たい!との意識が強く働き、モチベーション高く仕事ができる
    2. 会社の利益への貢献を意識
      • 自分の1件が如何に大事かを常に意識するようになる
      • オフシーズンや直近枠への受注を強化し、会社に貢献したいという意識が強くなる

次に、「悪い行動変容」も考察したいと思います。

  • 悪い行動変容:
    1. 即決の目的化: 顧客に十分な検討時間を与えず、契約を急がせる
    2. 過度な値引き: 利益を無視して成約率を上げる
    3. 不誠実な対応: 他社を貶めたり、誤った情報で契約を取ろうとする
    4. 上司からの強要: 成約率向上を求める過度なプレッシャーから過剰なストレスがかかり、「長時間拘束する」などの強引な接客を行う

続いて、施行における「良い行動変容」と「悪い行動変容」も考察したいと思います。

施行における行動変容

  • 良い行動変容:
    1. 顧客満足度の向上:
      • 顧客満足度を第一に考えた提案を行うために最大限努力する
      • 新郎新婦およびゲストからのアンケートを活用し、自身の接客に活かそうと努める

純粋に顧客満足度だけが評価対象で公開対象であれば、そこまで「悪い行動変容」が生じることはありませんが、一方で、「売上」が測定の評価対象および公開対象となることで、以下の「悪い行動変容=二次効果」が生まれる可能性もあります。

  • 悪い行動変容:
    1. 売上が目的化:
      • 顧客の満足よりも売上と利益を優先するようになり、過剰な人数アップの提案などを行うようになる
      • 結婚式当日に、両親にまで写真アイテムを販売したりなど、売上至上主義ともとらえられかねないリスクを伴う行動を起こす
    2. 対応に差をつける:
      • 少人数帯の顧客や売上向上が見込めない新郎新婦への対応がおざなりになる
      • 「どうせ会食だから」などと手を抜くようになる

良い行動変容を促す測定の設計

以上見てきたように、「成約率や売上・顧客満足度」を「評価対象とし、公開する」こと自体は、ごくどこの式場でも当たり前に行われていることであります。ただしかし、その結果として、「良い行動変容」が生まれる一方、「悪い行動変容」が生まれるリスクもあるということがおわかりいただけたかと思います。

ここで重要なことは、測定自体が悪いということでも、測定が悪い行動変容を生むということではありません。人間というのは、「測られると行動を変える性質がある」という真理を把握した上で、「悪い行動変容」につながらないような、すなわち「良い行動変容」を促すための設計こそが何より必要ということです。

それを踏まえると、設計段階で以下のような要素を組み込むことが重要となってきます。

1.成果指標とプロセス指標のバランス

成約率や売上のような成果指標だけではなく、プロセスに関するデータも測定対象に含めます。

打ち合わせにおけるヒアリング満足度のアンケートによる測定
  • これも実際、そうしたサービスをリリースし導入している式場もありますが、目的がしっかりと伝わらず、形骸化しているケースも見られます。
  • そうした場合は、「回収率が低い」といった悪い二次効果や、「監視されているように感じる」といったモチベーション低下につながります
  • 解決策としては、「適度な頻度」と「プランナーの負担にならないオペレーション」がセットで必要になります

2.定量データと定性データの併用

新規接客の場合
  • 即決に至らない場合でも、「接客報告シート」にて、ヒアリング能力とそれに対してどのようなアプローチをしたかを評点化できるようにする
  • この際、「どれだけ顧客ニーズを把握できているか」「それに対してどのようなアプローチや切り返しをしたか」「顧客ニーズと提案とのマッチング度は何点か」ということを重視し、プランナーの自己評価と上司評価を照合させるようにする
  • これを繰り返すことで、良い二次効果として、「即決力」が高まっていく
  • また、即決に至らない場合でも、「何が足りなかった」や「自分の評価と上司の評価にズレがないか」、「ないのに決まらないのはなぜか?」「ズレがあるから決まらなかった」などの客観的分析ができるようになっていく
施行の場合
  • 売上や利益およびNPSだけでなく、ウエディングプランナー自身の気づきなども評価に加えることで、偏った行動を防ぐようにする
  • たとえば、売上利益があまり上がらず、でもNPSが良い新郎新婦がいた場合、ここにプランナーの自己評価も査定対象とすることで、プランナーがどこに重きをおいたか、それが全体利益や顧客利益にどのように影響を与えたのかを把握できる
  • これにより、「もっと提案しても、NPSはいい数字のまま、売上も向上できたのでは?」という視点がプランナーと上司とで共有できるようになる

3. 感情に配慮した測定設計

  • 内なる目を尊重する仕組み
    • ウエディングプランナーに対して、「部分最適」と「全体利益」の両方への貢献度や成果を振り返る仕組みを設け、内省的な成長を促進する
    • いわゆる自己評価シートですが、「より良い結婚式をつくるには?」というテーマをもうけ、それに対して自分の果たした役割(=部分最適)と、会社への貢献(全体利益)とをそれぞれ自由形式で記述してもらうなどを行う
    • これは主に、「定性的」視点の評価だが、毎回テーマは変えずに、純粋に「より良い結婚式をつくるためには」という視点を問い続けるのが望ましい
    • 回を重ねる中での変化や自己成長、あるいはブレない点、本人の思い、会社との差異がある部分を可視化する役割も果たす

まとめ

以上見てきたように、「人は測定すること行動を変えることがある」ということをブライダルの現場に当てはめて考察してきました。

そこでわかったことは、測定結果が「良い行動変容」を促進する一方で、不健全な行動やストレスなどの「悪い行動変容」を生む可能性もあるということです。特にブライダル現場では、「評価され、公開される(パターン1)」が多く採用されていますが、この設計を前提としつつ、「意図せざる悪影響=測定の二次効果」を見越した制度設計がより求められます。

それは何よりひとえに突き詰めると、「離職率の低下」にもつながっていくものと考えられるからです。

本ブログでは、測定の影響と設計について議論しましたが、次回のブログでは「仕組みはきっちり、運用は緩く」の考え方を取り入れ、測定と現場の裁量のバランスについて深掘りしていきたいと思います。ぜひ参考になさってください!

  • 参考文献;伊丹敬之・青木健晴著(2016)『現場が動き出す会計』日経BP社

こちらもおすすめ


一覧を見る