上場ブライダル企業6社の財務分析

1. はじめに
婚礼業界は、2020年のコロナ禍で壊滅的な影響を受けました。しかし、2022年以降は回復傾向にあるものの、企業ごとに改善スピードや財務戦略には大きな差が見られます。また昨今、結婚式場の倒産が相次いでいます。この裏にある原因を把握するためには、婚礼企業の「財務安全性」と「収益性」を探ることが重要かと思います。
そこで本ブログでは、上場ブライダル企業6社の自己資本比率(財務の安全性)とROE(収益性)を5年間の推移で分析し、コロナ禍前後の影響とその後の回復状況を比較していきます。また、自己資本比率とROEが一致しないケースについても掘り下げるとともに、これらの数字と業務委託プランナーの活用や箱貸しの戦略が各企業の経営方針とどのように関わるのかについても考察していきます。
Index
2. 自己資本比率とROEとは?
企業の財務状況を分析する際に、自己資本比率 と ROE(自己資本利益率) は非常に重要な指標です。それぞれの意味を理解することで、企業の経営の安定性や収益性を正しく評価することができます。
(1) 自己資本比率とは?
自己資本比率は、企業がどの程度自己資本(株主資本)で経営を行っているかを示す指標 です。具体的には、以下の式で求められます。
自己資本比率(%) = 自己資本 ÷ 総資産 × 100
自己資本比率が高いほど、企業は借入金や負債に依存せずに経営している ことを意味します。一般的に、30%以上が健全な水準 とされ、それ以下だと負債依存が高い と判断されることが多いです。
- (参考:自己資本比率の目安)
- 50%以上 → 非常に安全(倒産リスク低)
- 30%〜50% → 比較的安全
- 20%〜30% → 要注意(負債依存度が高い)
- 20%未満 → 財務的にリスクあり
(2) ROE(自己資本利益率)とは?
ROE(Return on Equity)は、企業が自己資本をどれだけ効率的に活用して利益を生み出しているかを示す指標 です。以下の計算式で求められます。
ROE(%) = 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100
ROEが高いほど、株主資本を効率よく活用し、高い収益を上げている企業 であることを意味します。一般的に、10%以上であれば優良、15%以上であれば非常に収益性が高い と評価されます。
しかし、ROEが高くても、自己資本比率が低い企業は負債を多く抱えている可能性があり、リスクが高まります。そのため、自己資本比率とROEをセットで分析することが重要 なのです。
3. 財務の安全性~自己資本比率の推移
まずは、主要婚礼企業の自己資本比率(財務安全性) の5年間の推移を見ていきましょう。
(1) 自己資本比率の5年推移(2019年〜2023年)
| 企業名 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 市場評価 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| IKK | 44.1% | 43.0% | 45.1% | 50.0% | 51.1% | ◎ |
| ブラス | – | – | – | 32.6% | 35.0% | ○ |
| T&G | 40.6% | 14.9% | 21.9% | 28.5% | 31.2% | △ |
| ツカダ | 37.7% | 26.3% | 22.5% | 26.1% | 29.2% | △ |
| エスクリ | 32.2% | 21.3% | 34.1% | 25.5% | 26.9% | △ |
| ノバレーゼ | 23.5% | 15.7% | 17.1% | 22.6% | 25.3% | △ |
☝️ポイント
- IKKはコロナ禍でも自己資本比率を維持し、さらに向上
(2020年 43.0% → 2023年 51.1%) - T&G、ツカダ、ノバレーゼはコロナで自己資本比率が急落し、徐々に回復
4. 収益性~ROEの推移
次に、ROE(自己資本利益率) の5年推移を見ていきましょう。ROEは、企業が自己資本をどれだけ効率的に活用して利益を生み出しているか を示す指標であり、一般的に10%以上であれば優良、15%以上であれば非常に高い収益性を持つ企業と評価されます。
特に、コロナ禍においては、婚礼業界全体が一時的に大きな赤字に転落したケースが多く、ROEも急落しました。しかし、2022年以降の回復度合いには企業ごとに大きな差が見られます。ROEの推移を確認することで、各企業がどのように収益性を回復させているか を分析します。
(1) ROEの5年推移(2019年〜2023年)
| 企業名 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 市場評価 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| IKK | ▲40.8% | ▲5.3% | 16.7% | 14.0% | 16.5% | ◎ |
| ツカダ | 7.0% | ▲33.4% | 6.9% | 6.9% | 18.9% | ○ |
| T&G | 4.3% | ▲105.1% | 19.7% | 29.8% | 11.2% | ○ |
| エスクリ | 6.2% | ▲83.1% | 8.3% | 2.9% | 10.2% | △ |
| ノバレーゼ | 18.2% | – | 6.9% | 25.9% | 12.2% | △ |
| ブラス | – | – | – | 19.9% | 7.4% | △ |
☝️ ポイント
- IKKはコロナ禍で大きく落ち込んだが、その後回復し、安定して高収益を維持している(2023年ROE16.5%)
- ツカダはコロナ禍でROEが急落したものの、2023年には18.9%と業界トップクラスの収益性を達成
- T&Gは2020年にROE▲105.1%と大きな赤字を記録したが、2022年には29.8%まで急回復し、2023年は11.2%と安定
(2) 収益性の回復度合いの比較
ROEの推移を見ると、各企業の回復度合いに大きな違いがあることがわかります。
- IKKやツカダは、安定した利益を確保しつつ、持続的に収益性を改善する傾向が強い
- T&Gは短期間での急回復が見られるが、変動幅が大きく、2023年は減速傾向にある
- ノバレーゼやエスクリは一時的に大きく回復するものの、今後の安定性が課題
5. 二つの指標の総合評価
3と4でみた二つの指標における総合的な評価を以下にまとめたいと思います。
(1) 財務の安全性(自己資本比率)
自己資本比率が高いほど負債依存が低く、安定した経営が可能ですが、一方で成長投資を抑えすぎるリスクもあります。
| 企業名 | 自己資本比率(2023年) | 評価 | ★評価(5点満点) |
|---|---|---|---|
| IKK | 51.1% | 非常に安定、負債依存が低い | ★★★★★(5) |
| ブラス | 35.0% | 安定 | ★★★★(4) |
| T&G | 31.2% | 改善傾向、やや不安定 | ★★★(3) |
| ツカダ | 29.2% | 負債依存がやや高い | ★★★(3) |
| エスクリ | 26.9% | やや不安定 | ★★(2) |
| ノバレーゼ | 25.3% | 負債依存が高い | ★★(2) |
(2) 収益性(ROE)
同じく、ROE(自己資本利益率)は、企業が自己資本をどれだけ効率的に活用して利益を生み出しているか を示す指標です。
ROEが高い企業ほど、自己資本を有効に使い、高収益を上げていると評価できます。
| 企業名 | ROE(2023年) | 評価 | ★評価(5点満点) |
|---|---|---|---|
| ツカダ | 18.9% | 非常に収益性が高い | ★★★★★(5) |
| IKK | 16.5% | 安定して高収益 | ★★★★(4) |
| ノバレーゼ | 12.2% | 変動が大きいが良好 | ★★★(3) |
| T&G | 11.2% | 収益性はまずまず | ★★★(3) |
| エスクリ | 10.2% | 低めだが回復傾向 | ★★(2) |
| ブラス | 7.4% | 収益性が低く課題あり | ★(1) |
☝️ ポイント
- ツカダはROE18.9%と業界トップクラスの収益性を確保
- IKKは16.5%と安定した収益を維持し、財務の安全性も高い
- T&GやノバレーゼはROEが比較的高いが、変動が激しく安定性が課題
- エスクリやブラスはROEが低い傾向にあるため、今後の成長戦略が課題
上で見たように、自己資本比率とROEが必ずしも一致しないケースも多いため、この点は次のセクションで詳しく解説します。
6. 財務の安全性と収益性が一致しない理由
上でも見たように、自己資本比率(財務の安全性)とROE(収益性)は、必ずしも一致するとは限りません。企業によっては、自己資本比率が低くても高収益を実現している場合や、自己資本比率が高くても収益性が低いケースも見られます。この違いが生じる理由を具体的に見ていきます。
(1) ツカダ・グローバルホールディングのケース
ツカダ・グローバルホールディングは、自己資本比率が低い(29.2%)にもかかわらず、ROEは業界トップクラス(18.9%)を記録しています。この理由は、負債を活用して資本効率を高めている ためです。
ツカダは積極的に事業投資を行い、負債を活用することで収益性を向上させています。しかし、この戦略にはリスクもあります。負債の割合が多いほど、景気の悪化時には財務負担が増え、経営が不安定になる可能性があります。 実際、コロナ禍では自己資本比率が急落し、厳しい経営状況に陥りましたが、2023年にはROEを大幅に改善させました。
(2) ブラスのケース
一方で、ブラスは自己資本比率が比較的高い(35.0%)ものの、ROEは7.4%と低く、収益性が低い傾向にあります。これは、財務的には安定しているが、利益を生み出す力に相対的に課題があることを示しています。(その分、顧客還元度や顧客満足度が高いという見方もあります)
ROEが低い企業は、今後の成長戦略が重要な課題となります。自己資本を活かして新規事業の展開やコスト効率の改善を行わないと、ROEが低いまま停滞する可能性があるため、固定費の圧縮を含めた、より効率的な経営戦略が求められるでしょう。
7. どちらを重視すべきか?
自己資本比率とROEのどちらを重視すべきかは、企業の経営戦略や市場環境によって異なります。
☝️結論:状況に応じたバランスが重要
- 長期的に安定した経営を目指す場合 → 自己資本比率を重視(IKK型)
- 短期的な成長と高収益を狙う場合 → ROEを重視(ツカダ型)
- ただし、負債依存が高すぎると景気悪化時に危険
例えば、IKKは自己資本比率を重視することで安定経営を実現しており、ツカダはROEを重視することで高収益を維持しています。 しかし、どちらの戦略が正解かは企業の置かれた状況や経営目標によって異なります。
8. 業務委託プランナーの活用や箱貸しとの相性
また近年、ブライダル業界では、業務委託フリープランナーの活用や一部箱貸しモデル(料飲サービス・オペレーション以外の持ち込み可)といった柔軟な運営方式が注目されています。これは単なるコスト削減策ではなく、財務体質の改善 や 企業イメージの向上、さらには顧客側の選択自由度を広げるというメリットを生み出す可能性があります。
しかし、こうしたモデルはどの企業にも適しているわけではありません。特に、自社ブランドの統一性を重視し、自社で顧客価値の提供リソースのフル装備を維持したい婚礼企業にとっては、業務委託や箱貸しを積極的に取り入れることが難しいケースもあります。それでも、顧客ニーズの変化や時代の流れがこれらを求めている傾向があるため、財務の安全性や収益性の指標とは異なる視点から、今後は戦略的に取り入れる余地があるともいえるでしょう。
業務委託や箱貸しモデルが財務改善に寄与する理由
業務委託プランナーの導入や箱貸しの活用は、以下の2つの側面から財務改善に貢献するといえます。
① 固定費の圧縮
婚礼業界における最大の経営リスクの一つは、固定費の高さ です。
- ウエディングプランナーやその他スタッフをすべて自社雇用などで抱える場合、人件費の固定化が避けられません
- 繁忙期と閑散期の差が激しいため、閑散期の負担が重くなりがちです
- 業務委託プランナーの活用により、コストを変動費化し、売上に応じた柔軟な運営が可能となります
② 顧客側の選択自由度を担保し、ブランド価値を向上
特に近年の結婚式市場では、「自由度」や「多様性」を求める傾向 が強まっています。
- 一部箱貸しの導入は、新郎新婦にとってより自由な選択肢を提供する手段となります
- 「持ち込み可」の選択肢を増やすことで、新規顧客の獲得につながる可能性があります
- 顧客満足度の向上が、長期的なブランド価値の向上にも寄与することが考えられます
9. まとめ
本記事では、婚礼業界における主要企業の自己資本比率(財務の安全性)とROE(収益性)の5年間の推移を分析し、コロナ禍の影響とその後の回復状況について詳しく見てきました。
(1) 財務の安全性と収益性のバランス
分析の結果、自己資本比率が高い企業ほど財務的に安定しており、経営の持続性が確保されている ものの、必ずしも収益性が高いとは限らない ことが明らかになりました。一方で、自己資本比率が低く、負債依存度が高い企業は、リスクを伴いながらも高収益を上げているケースがある こともわかりました。
- IKKは自己資本比率とROEのバランスが取れた安定型の企業で、今後の成長性も見込める
- ツカダは負債を活用しながら高収益を実現しているが、財務的なリスクも抱えている
- T&Gは短期的にROEが急上昇するなど回復力があるが、変動幅が大きくやや安定性に欠ける
- エスクリやノバレーゼは、今後の成長戦略が鍵となる
- ブラスは財務の安全性はあるものの、相対的な収益性の強化が今後の課題となる
(2) 業務委託プランナーや箱貸しの活用は、企業の戦略次第
業務委託プランナーの活用や箱貸しモデルは、単なるコスト削減策にとどまらず、顧客の選択自由度を広げるという意味でも、婚礼業界の変化に適応する重要な戦略 となり得ます。
- 財務的な観点では、負債依存の高い企業ほど導入のメリットが大きい
- ブランド戦略的な観点では、顧客価値を自前でフル装備したい企業にとっては慎重な判断が求められる
- 顧客ニーズの観点では、カスタマイズ性を求める流れが強まっており、市場の変化に応じた柔軟な対応が必要
顧客動向は、よりカスタマイズ性の高い柔軟且つ多様で、より高い自由度を求めるトレンドへと変化しています。 こうした変化に適応するため、業務委託プランナーや箱貸しの導入を検討することは、単なる財務戦略ではなく、市場適応戦略の一環として考えるべき施策ともいえます。
(3) 結論
自己資本比率とROEのどちらを重視すべきかは、企業の経営戦略や市場環境に依存するため、一概にどちらが正しいとは言えません。
- 安定経営を目指すなら自己資本比率を重視(IKK型)
- 短期的な収益拡大を狙うならROEを重視(ツカダ型)
- 市場環境や顧客ニーズを考慮し、業務委託や箱貸しの活用も視野に入れるべき
各婚礼企業は今後、財務の安全性や収益性のバランスを考えながら、ますます時代の変化に対応した経営戦略を取ることが求められる時代になっていくと思います。
従来のビジネスモデルが通用しなくなりつつある中で、これら分析を踏まえたうえで、「財務の安定性」「収益性の確保」「顧客の多様なニーズへの対応」 をどのように両立させるかが、持続的な成長の鍵となるでしょう。これ以上、結婚式場の倒産が相次ぐことを防止するためにも、ぜひご参考になさってください。
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