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ホテル業界とブライダル業界で進む事業買収

はじめに

2025年9月、西武・プリンスホテルズがアメリカのライフスタイルホテルブランド『エースホテル』を買収したという報道がありました【Traicy, 2025】。

この出来事は、ホテル業界におけるグローバル資本の集中とブランド多層化がさらに進展していることを象徴しています。マリオットやヒルトンを代表例とする世界的ホテルチェーンは、資本を背景に多数のブランドを傘下に収め、異なる顧客層を取り込みながら効率的に事業を拡大しています。今回の買収はその潮流を裏づけるものといえるでしょう。

ホテル業界とブライダル業界の構造的違い

一方で、ブライダル業界は同じ接客サービス業の一角でありながら、構造が大きく異なります。確かに、大手資本による式場やプロデュース会社の統合、M&Aの動きは見られます。しかし業界全体を見れば、地域性が色濃く残り、フリープランナーや小規模事業者もアクターとして存在する分散型の市場構造です。

そのため、ホテル業界のように資本の傘下で多層化が進むというよりも、個別ネットワークによる多様化と分散化が進展していると整理できます。

ブライダル業界の財務課題

加えて、ブライダル業界の企業は大手であっても自己資本比率やROEが低い傾向にあり、必ずしも盤石な経営基盤を有しているわけではありません。

そこで本ブログでは、この点を財務的に分析します。

まず、ROEという指標がなぜ重要なのかを整理し、その後デュポン分解という手法を用いて、ブライダル業界の収益構造における課題を明らかにします。

さらに、資産効率を高める仕組みとして弊社が注目する『箱貸し』モデルについて検討し、最終的に業界全体の将来を展望します。

このような流れで、理論と実務を結びつけた議論を展開していきたいと思います!

ここに注目しよう!

  1. ROEの意味と注目する理由の整理
  2. デュポン分解による構造的課題の分析
  3. 資産効率を高める『箱貸し』モデルの検討
  4. 業界の将来展望

第1節 ROEとは何か、なぜ注目するのか

ROEの基本概念と計算方法

まずはじめに、ROE(Return on Equity=株主資本利益率)とはなにか?を説明したいと思います。

企業の財務分析において、ROE(Return on Equity=株主資本利益率)は極めて重要な指標です。これは、株主が拠出した自己資本を用いてどれだけ効率的に利益を生み出しているかを測るものです。

ROEを重視する理由

このブログにおいて、このROEという指標を重視する理由は、単純な利益額では企業規模の大小に左右され、経営効率を比較できないからです。

具体例で見てみましょう。

  • A社:利益10億円、自己資本1,000億円 → ROE:1%
  • B社:利益10億円、自己資本100億円 → ROE:10%

同じ利益額でも、B社の方が資本効率の高さが明確に示されているということが読み取れます。

ブライダル業界におけるROEの特徴

またブライダル業界の場合、当期純利益が黒字でもROEは低いことが多く見られます。これは資本効率が低く、投下資本に対して十分なリターンを確保できていないことを意味します。

したがって、財務健全性や資本政策を議論する際には、利益額や当期純利益率そのもの以上にROEという指標に注目することが不可欠です。

では、このROEをより詳細に分析するためには、どのような手法を用いればよいのでしょうか。次の節で詳しく見ていきます。

第2節 デュポン分解で経営を見える化する

デュポン分解とはなにか

そして、ここがとても大切なところなのですが、ROEは以下の三つの要素に分解することができるという点です。これをデュポン分解と呼びます。

デュポン分解!

ROE = 純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ

この手法を用いることで、ROEが高いのか低いのかという表面的な評価を超えて、その背景にある経営課題を具体的に特定できるようになります。

各要素の意味と計算式

それぞれの要素が示す内容と計算方法を整理してみましょう。

  • 純利益率 = 当期純利益 ÷ 売上高 売上に対してどれだけ利益が残るかがわかります
  • 総資産回転率 = 売上高 ÷ 総資産 保有資産をどれだけ効率的に使って売上を生み出しているかがわかります
  • 財務レバレッジ = 総資産 ÷ 自己資本 自己資本に対してどれだけ負債を活用しているかがわかります

チョコッと整理!

まず純利益率は、売上に対してどれだけ利益が残るかを示します。計算式は「当期純利益 ÷ 売上高」です。これは企業の収益性を表す指標といえます。

次に総資産回転率は、保有資産をどれだけ効率的に使って売上を生み出しているかを示します。計算式は「売上高 ÷ 総資産」です。この数値が高いほど、資産を無駄なく活用できていることになります。

最後に財務レバレッジは、自己資本に対してどれだけ負債を活用しているかを示します。計算式は「総資産 ÷ 自己資本」です。この数値が大きいほど、借入を多く活用していることを意味します。

具体的な計算例で理解を深める

ここまでデュポン分解の理論をご説明しましたが、実際の数値で見るとより理解が深まります。ROEが高い企業と低い企業では、三つの要素にどのような違いがあるのでしょうか。以下で具体的に検証してみましょう。

【ROEが高い企業の例】

まず、ROEが優秀な企業の例から見てみます。効率重視のA社という企業があったとします。この会社は売上3億円、純利益1,800万円、総資産3億円、自己資本1.5億円という財務状況です。

効率重視A社:売上3億円、純利益1,800万円、総資産3億円、自己資本1.5億円だとします

  • 純利益率:1,800万円÷3億円=6%
  • 総資産回転率:3億円÷3億円=1.0回転
  • 財務レバレッジ:3億円÷1.5億円=2.0倍
  • ROE:6%×1.0×2.0=12%

この企業は三つの要素がバランスよく機能しており、優秀な資本効率を達成しているといえます。

【ROEが低い企業の例①】

一方で、ROEが低迷している企業はどのような状況なのでしょうか。二つのパターンを見てみましょう。

まず、資産効率に課題があるB社の例です。この企業は売上1.5億円、純利益300万円、総資産3億円、自己資本2億円という状況にあります。

資産非効率B社:売上1.5億円、純利益300万円、総資産3億円、自己資本2億円

  • 純利益率:300万円÷1.5億円=2%
  • 総資産回転率:1.5億円÷3億円=0.5回転
  • 財務レバレッジ:3億円÷2億円=1.5倍
  • ROE:2%×0.5×1.5=1.5%

この企業の課題は、総資産回転率が0.5回転と低いことです。3億円の資産を保有しているにもかかわらず、売上は1.5億円にとどまっています。これは、建物や設備といった固定資産が過大で、稼働率が低いか、あるいは賃貸・リース料と人的固定費に見合う稼働が確保できていないことを示しています。

典型的には、立派な式場建物を建設したものの、年間の挙式件数が50組未満程度しかない中小式場に見られるパターンです。純利益率も2%と低く、また資産効率の悪さがROEを大幅に押し下げていることがわかります。これはまさに、中小ブライダル企業特有の「装置産業的な課題」を抱えた企業の典型例です。

【ROEが低い企業の例②】

次に、利益率に問題があるC社を見てみます。この企業は売上2.5億円、純利益250万円、総資産3.5億円、自己資本2億円という財務構造です。

低収益C社:売上2.5億円、純利益250万円、総資産3.5億円、自己資本2億円

  • 純利益率:250万円÷2.5億円=1%
  • 総資産回転率:2.5億円÷3.5億円=0.71回転
  • 財務レバレッジ:3.5億円÷2億円=1.75倍
  • ROE:1%×0.71×1.75=1.24%

この企業の課題は純利益率が1%と極端に低いことです。売上は相応にあるものの、コスト構造に問題があり、利益が残らない状況です。総資産回転率は0.71回転と平均的ですが、収益性の低さがROEを押し下げています。価格競争に巻き込まれているか、人件費や外注費などの変動費が高すぎる可能性があります

ブライダル業界の構造的課題

この分解によって、ROEが低い原因が利益率の低さにあるのか、資産効率の悪さにあるのか、あるいは資本構造の問題にあるのかを切り分けることができます。

ブライダル業界では、以下の要因により総資産回転率が低くなりやすい傾向があります。

  • 建物維持費や人件費といった固定費が大きい
  • 需要の季節変動が激しい
  • 施設稼働率の向上に限界がある

総資産回転率が低ければ、利益率を改善してもROEは伸び悩みます

したがって、この課題に取り組むためには資産効率を改善する方策が不可欠であり、その一つの方向性が後述する『箱貸し』です。

第3節 財務レバレッジでROEを上げる仕組みとその限界

財務レバレッジの基本メカニズム

デュポン分解の三つの要素のうち、財務レバレッジは比較的操作しやすい指標です。

財務レバレッジとは、自己資本に対する負債の比率を指します。借入を増やすことで自己資本に対する利益の割合を大きく見せ、ROEを引き上げることは可能です。これは短期的には一定の効果をもたらします。

財務レバレッジの限界とリスク

しかし、借入を増やすと自己資本比率が低下します。自己資本比率は総資産に占める自己資本の割合を示し、経営の安定性を測る代表的な指標です。

この比率が下がると、以下のリスクが生じます。

  • 外部環境の変化に対して脆弱となる
  • 景気後退や需要の落ち込みが直撃した際の返済負担が重くなる
  • 金融機関からの信用度が低下する可能性がある

特にブライダル業界のように需要変動が激しい業界では、これらのリスクは無視できません。

持続可能な改善の方向性

つまり、財務レバレッジによるROE改善は『てこの原理』で効率を押し上げるように見えるものの、体質を強化するわけではありません。一時的な数値改善に過ぎず、根本的な解決策とはなりえないのです。

持続的な改善を目指すなら、利益率や資産効率を高める方向で取り組む必要があります。

では、ブライダル業界において資産効率を改善する具体的な方策はあるのでしょうか。次の節で詳しく検討してみましょう。

第4節 資産効率改善策としての『箱貸し』

『箱貸し』とは何か

資産効率を高める手段の一つとして、弊社が注目しているのが『箱貸し』です。

『箱貸し』とは、結婚式場が自社の正社員プランナーやサービス人員に依存する運営体制から脱却し、フリープランナーや外部スタッフを活用することで、人的リソースを変動費化する仕組みを指します。この仕組みは、従来の式場運営の常識を根本から変える可能性を秘めています。

従来モデルの課題

従来のブライダル運営は、自社雇用を前提とした人件費構造によって、常に高い固定費を抱える装置産業となっていました。正社員プランナーや専属スタッフを多数雇用し、年間を通じて人件費を支払い続ける必要があります。そのため、稼働率が低下すると直ちに損益に影響が出る脆弱な体質になりやすいのです。

第2節の【ROEが低い企業の例①】で見たように、3億円の資産に対して売上が1.5億円という状況は、まさにこの構造的問題を象徴しています。建物や設備は大規模だが、それに見合う売上を継続的に生み出せない状況です。

『箱貸し』モデルのメリット

これに対し、箱貸しモデルでは施設という『箱』を外部のフリープランナーや事業者が利用する形を取り、式場は人件費の固定化から解放されます。

その結果として、以下のメリットが得られます。

  • 固定費を変動費にシフトし、収益構造を柔軟化できる
  • 稼働の有無にかかわらず負担となる人件費を抑制できる
  • 資産効率の改善とリスク耐性の向上を同時に実現できる

『箱貸し』モデルの結果として得られる効果は多岐にわたります。まず、固定費を変動費にシフトし、収益構造を柔軟化できます。稼働が少ない時期には人件費負担も軽減され、逆に繁忙期には必要な分だけ人材を確保できるようになります。

次に、稼働の有無にかかわらず負担となる人件費を抑制できます。これにより、【ROEが低い企業の例①】のような「3億円の資産があるが売上が1.5億円にとどまる」という状況でも、固定費負担が軽減されるため純利益率の改善が期待できます。

さらに、施設の稼働率向上も見込めます。自社プランナーだけでは対応しきれない繁忙期でも、外部プランナーの活用により稼働率を高めることが可能となり、総資産回転率の改善に直結します。

『箱貸し』の本質的意義

つまり『箱貸し』とは、資産と人材の使い方を根本から変えることで、ROE改善に直結する経営手法だといえます。デュポン分解で見れば、純利益率と総資産回転率の両方を同時に改善する戦略的取り組みなのです。とくに、賃貸・リースによる一定額の賃料負担が残る前提でも、人的固定費を変動費へ切り替えることで、利益率の下支えと総資産回転率の鈍化抑制を同時にねらえます。

第5節 ROE改善に向けた戦略的示唆

三つの改善軸

これまでの整理から、ブライダル業界でROEを改善するための方向性は明確になってきたと思います。財務レバレッジに依存するのではなく、利益率・資産効率・資本構造の三つをバランスよく高めることが必要ということです。

各軸の具体的アプローチ

利益率の向上

まず利益率の向上について考えてみましょう。

これには、顧客体験の価値を高め、適正な価格でサービスを提供できる体制が求められます。差別化された結婚式体験やオペレーションの確立、顧客満足度に基づく価格設定、オペレーションの効率化による収益性向上などが具体的な施策となります。顧客体験の価値を高め、適正な価格でサービスを提供できる体制が求められます。

  • 差別化された結婚式体験価値の確立
  • 顧客満足度に基づく価格設定
  • オペレーションの効率化による収益性向上

資産効率の改善

次に資産効率の改善です。

先に挙げた『箱貸し』のように人的固定費を変動費化し、稼働率に左右されにくい経営体制への転換が有効となります。施設稼働率の最大化はもちろんのこと、固定費の変動費化、多目的利用による収益機会の拡大などが重要な取り組みとなります。

特に、「3億円の大きな資産を持ちながら売上が1.5億円にとどまる」中小企業には、この取り組みが最も効果的です。

  • 施設稼働率の最大化
  • 固定費の変動費化
  • 多目的利用による収益機会の拡大

資本構造の健全化

最後に資本構造の健全化については、過度な借入に頼らず、自己資本比率を一定水準で維持することが不可欠です。

適切な負債比率の維持、内部留保による自己資本の充実、キャッシュフロー経営の徹底などが求められるということです。

  • 適切な負債比率の維持
  • 内部留保による自己資本の充実
  • キャッシュフロー経営の徹底

統合的アプローチの重要性

この三つを組み合わせることで、分散型ネットワークを特徴とするブライダル業界において、持続的にROEを高めることが可能になります。単発的な施策ではなく、経営全体を見渡した包括的な取り組みが成功の鍵を握っているということです。

おわりに

業界構造の整理と今後の展望

ホテル業界は資本集中とブランド多層化が進む一方で、ブライダル業界は依然として分散とネットワーク型の特徴を残しています。両者の構造は異なりますが、資本と人材は密接にリンクしているため、明確な線引きをすることはナンセンスです。

ただし、傾向としての違いを整理することで経営の課題と方向性は見えてきます。

本ブログの結論

ブライダル業界のROEの低さは構造的課題にその原因が大きく存在します。

今回、ブログで検証したように、デュポン分解によって改善の方向性を明確化できたかと思います。さらに、『箱貸し』のように人的固定費を変動費にシフトさせる考え方は、資産効率を高め、業界全体の持続可能性を向上させる有効な手段と位置付けできます。

今後の展望

今後も、財務的視点と経営戦略を組み合わせた議論を深めることが求められます。特に、個社の取り組みを超えて業界全体の構造改革につながる施策の検討がますます重要になるでしょう。

その意味においても、『ROE*箱貸し』の考え方は、ぜひ議論や思考の出発点として捉えていくことが望ましいと思われます!ぜひご参考になさってください!

参考文献

  • Traicy, 「西武・プリンスホテルズ、エースホテルを買収」2025年9月16日, https://www.traicy.com/posts/20250916351085/
  • 「経済産業省/e-Stat, 『特定サービス産業動態統計調査 月報16 結婚式場業(企業調査)』(2023年各月)」 e-Stat
  •  「経済産業省, 『特定サービス産業動態統計調査:調査の結果』」 経済産業省+1
  •  「東京商工リサーチ, 『全国の「結婚式場」112社 業績が急回復 増収企業が7割弱』(2024/6/26)」 TSRネット
  •  「東京商工リサーチ, 『2024年度「ブライダル産業」の倒産、休廃業・解散調査』(2025/4/16)」

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