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自律性を引き出す組織マネジメントとは

「細かく指示を出さないと動いてくれない」「人によってパフォーマンスの差が大きい」

婚礼施設のマネジメントにおいて、こうした悩みを抱えていらっしゃる方は多いのではないでしょうか。今回のブログでは、組織論の視点から、プランナーやスタッフの自律性を引き出すマネジメントについて考えてみたいと思います。

1. 組織が機能するための3つの条件

組織論の古典的な理論に、チェスター・バーナードが提唱した「組織成立の3要件」があります。バーナードによれば、組織が成立し機能するためには、以下の3つの条件が必要とされています。

バーナードの組織成立の3要件

  • ①共通目的:組織として目指す方向性が共有されていること
  • ②コミュニケーション:意思伝達の手段が整っていること
  • ③協働意思(貢献意欲):メンバーが組織に貢献しようとする意欲を持っていること

婚礼施設に当てはめると、「お客様に最高の一日を届ける」という共通目的があり、朝礼やミーティング、チャットツールなどのコミュニケーション手段が整備され、スタッフ一人ひとりが「この式場のために貢献したい」という意欲を持っている状態が理想といえます。

しかし実際には、この3要件のどこかに課題を抱えているケースが少なくありません。特に「共通目的の共有」と「協働意思の醸成」は、意識して取り組まなければ自然には実現しにくいものです。

2. 組織文化と組織風土——判断基準の共有

バーナードの3要件に加えて重要なのが、「組織文化」「組織風土」という概念です。

組織文化とは

組織文化とは、「何が重要で何が重要でないかについて共通の意味を与え、判断や行動の基準となるもの」と定義されます。具体的には、組織の中で共有されている価値観・態度・信念・習慣が、従業員の日常的な判断や行動に影響を与えます。

組織風土とは

また、組織風土とは「個々のメンバーがどのように自らの仕事や職場集団、組織をみているか」と定義できます。組織風土が明確な組織では、メンバー全員が同じ「組織像」を共有しています。一方、組織風土が不明確な組織では、メンバーごとに認識がバラバラになってしまいます。

婚礼施設において組織文化・組織風土が明確であれば、「うちの式場ではこういう対応をする」「こういう場面ではこう判断する」という基準が共有され、細かい指示がなくてもスタッフが自律的に判断・行動できるようになります。逆に、組織文化・風土が不明確だと、同じ場面でもスタッフごとに対応がバラバラになり、結果としてマイクロマネジメント(細かい指示)が必要になってしまいます。

3. プランナーの特性と「真実の瞬間」

ウエディングプランナーという仕事には、ある特性があります。それは、顧客と直接向き合い、「ありがとう」という言葉を直接受け取れる仕事だということです。

スカンジナビア航空のCEOだったヤン・カールソンは、「真実の瞬間(Moments of Truth)」という概念を提唱しました。これは、顧客と従業員が接する瞬間こそが企業の価値を決定づけるという考え方です。プランナーは日々この「真実の瞬間」に立ち会っており、お客様からの感謝や感動を直接受け取ることができます。

この特性は、内発的動機づけを高める上で非常に大きな強みとなります。自分の仕事が誰かの幸せに直結していることを実感できるからこそ、細かい指示がなくても「もっと良い結婚式にしたい」という自律的な行動が生まれやすいのです。

プランナーのように主体性と自律性が豊かな人材に対しては、細かい指示を与えるマネジメントよりも、「任せる」マネジメントのほうが効果的です。もちろん、業務上の手順やフローは遵守する必要がありますが、その枠組みの中で「成約のために」「素晴らしい結婚式のために」と自律的に動ける環境を整えることが重要です。

「真実の瞬間」は弊社の過去ブログも参照ください!

4. 段階的な権限移譲——職務拡大と職務充実化

では、すべてのスタッフに対して「任せる」マネジメントが有効かというと、そうではありません。人材の習熟度に応じて、マネジメントの密度を変えていく必要があります。

ここで参考になるのが、ハーズバーグの「二要因理論」「職務拡大」「職務充実化」という概念です。

ハーズバーグの二要因理論とは

フレデリック・ハーズバーグが提唱した動機づけ理論で、仕事における満足・不満足の要因を2種類に分類したものです。

  • 衛生要因(不満足を防ぐ要因)
    給与、労働条件、職場環境、人間関係など。これらが不十分だと不満が生じますが、充実させても「不満がない」状態になるだけで、積極的な満足にはつながりません。
  • 動機づけ要因(満足を生む要因)
    達成感、承認、仕事そのもののやりがい、責任、成長の機会など。これらが充実することで、内発的な動機づけが高まり、積極的に仕事に取り組むようになります。

この理論に基づくと、給与や労働環境を整えるだけでは「不満がない」状態にしかならず、スタッフの自律性や主体性を引き出すには「動機づけ要因」に働きかける必要があります。そのための具体的な手法が「職務拡大」と「職務充実化」です。

職務拡大と職務充実化

職務拡大(横軸)は、担当するタスクの数や種類が増えることを指します。たとえば、電話対応だけだったスタッフがサービス業務も担当するようになる、といった変化です。

職務充実化(縦軸)は、職務の計画・実施・評価に対して自分で管理できる裁量が増えることを指します。たとえば、新人教育を任される、ブライダルフェアの企画を担当する、といった変化です。

この考え方を婚礼宴会のサービススタッフに当てはめると、次のような成長段階が見えてきます。

サービススタッフの成長段階の例

  • ステップ1:ドリンク係として基本業務を習得
  • ステップ2:主賓卓の担当に抜擢
  • ステップ3:両親卓の係を任される
  • ステップ4:「今日は50名の歓談中心の披露宴」という共有だけで自律的に動ける

最初の段階では、インカムを使ったキャプテンの指揮命令のもと、統制のとれた動きが必要です。しかし、主賓卓や両親卓を任されるレベルになると、マイクロマネジメントは必要なく、必要最小限の情報共有だけで全体を考えた最良の動きが可能になります。

ハーズバーグの二要因理論によれば、このように高次の役割を与えることは「動機づけ要因」となり、内発的動機づけを高めます。「任される」ことで成長を実感し、さらに自律性が向上するという好循環が生まれるのです。

5. 目指すべき組織の姿——ティール組織という考え方

ここまでの議論を踏まえ、最終的に目指すべき組織の姿について考えてみたいと思います。参考になるのが、フレデリック・ラルーが提唱した「ティール組織」という概念です。

ラルーは、組織には発達ステージがあり、環境変化に順応するための段階があると述べています。ただし重要なのは、前の段階を内包しながら発達していくものであり、後の段階が優れているわけではないという点です。

組織の7つの発達段階

  • ①受動的(無色):階層や長も存在せず、自我も十分に形成されていない社会
  • ②神秘的(マゼンダ):因果の理解は不十分で「今」を生きる部族社会
  • ③衝動型(レッド):強い者が力によって支配する社会。高圧的なリーダーシップ
  • ④順応型(アンバー):因果を理解し将来に向けた計画を行う社会。階層が生まれ、家父長的な権威主義的リーダーシップ
  • ⑤達成型(オレンジ):イノベーション、説明責任、実力主義の社会。経営工学的なリーダーシップ
  • ⑥多元型(グリーン):価値観を重視し、権限移譲を行う社会。奉仕型(サーバント)リーダーシップ
  • ⑦進化型(ティール):自主経営、全体性、存在目的で動く社会。指揮・統制に依らず「生命体」のように進化し続ける

ティール組織の特徴は、「自主経営(セルフマネジメント)」「全体性」「存在目的」の3つです。誰もが強い権限を持ち、各自が判断・行動できる組織構造をとります。社員が「仮面」をつけずにありのままでいられ、組織自体を「生命体」として捉え、その目的が進化し続けます。

婚礼施設のプランナーのマネジメントにおいては、多元型(グリーン)から進化型(ティール)の間を目指すことが現実的な目標といえます。お客様に近い位置で「真実の瞬間」を体験できるプランナーは、内発的動機づけが働きやすく、自律的に動ける素地があるからです。

一方、統制が必要な業務もあります。たとえば婚礼宴会のサービスでは、「2時間30分の中でサービスを完遂する」「限られた人数で円滑に行う」といった制約があり、キャプテンの指揮命令のもと統制のとれた動きが必要です。こうした業務では、順応型(アンバー)をベースとしながら、習熟度の高いスタッフには段階的に裁量を与えていく形が適しています。

重要なのは、「全員に対して同じマネジメント」ではなく、「人材の特性と習熟度に応じてマネジメントの密度を変える」という視点です。すべての組織がティールを目指すべきではなく、事業特性や人材の状況に応じて適切な段階があるのです。

6. 補足:他業界から学ぶマネジメントの工夫

ここで、婚礼業界とは異なる製造業の現場から、マネジメントのヒントを得たいと思います。

製造業の現場では、顧客と直接接する機会がほとんどありません。そのため、プランナーのように「真実の瞬間」を体験することが難しく、内発的動機づけを高めにくいという課題があります。

この課題に対して、製造業では「後工程はお客様」という考え方を取り入れている企業があります。自分の作業の次の工程を担当する人を「お客様」と捉え、その人に良い仕事を届けるという意識を持つことで、擬似的な「真実の瞬間」を創出するのです。

婚礼施設への応用

婚礼施設においても、バックヤード業務(厨房、設営、清掃など)を担当するスタッフは、お客様と直接接する機会が限られています。こうしたスタッフに対しては、「あなたの仕事がプランナーやサービススタッフを支えている」「その先にはお客様の笑顔がある」という認識を共有することで、貢献意欲を高めることができます。

また、製造業では指示がないと動けない「指示待ち人材」が多い場合、まずはマイクロマネジメントで安定稼働を確保し、習熟度が上がった人材には段階的に判断業務を任せていく、という方法が取られています。これは婚礼施設においても、新人スタッフや経験の浅いスタッフに対するマネジメントに応用できる考え方です。

7. まとめ——人材と習熟度に応じたマネジメント

本ブログのポイント

  • ①組織の基盤を整える
    バーナードの3要件(共通目的・コミュニケーション・協働意思)を満たし、組織文化・風土を明確にすることで、自律的な判断・行動の土台を作る。
  • ②プランナーの特性を活かす
    「真実の瞬間」を体験できるプランナーには、細かい指示より「任せる」マネジメントが効果的。
  • ③段階的に権限を移譲する
    ハーズバーグの二要因理論に基づき、「動機づけ要因」に働きかける。習熟度に応じて職務充実化を図り、内発的動機づけを高める。
  • ④目指すべき組織像を持つ
    ティール組織論を参考に、プランナー組織ではグリーン〜ティールを目指す。ただし統制が必要な業務ではアンバーをベースに、段階的に自律性を高めていく。
  • ⑤顧客接点のないスタッフにも配慮する
    バックヤード業務のスタッフには「後工程はお客様」の意識を共有し、擬似的な「真実の瞬間」を創出する。

これらの施策は即効性があるものではなく、短期的には管理負荷が増す可能性もあります。しかし、スタッフの自律性を高め、内発的動機づけを強化することは、中長期的な定着率と生産性の向上につながります。人材の特性と習熟度に応じたマネジメントの使い分けを、ぜひご検討いただければ幸いです。

参考文献
  • チェスター・I・バーナード(1938年)『経営者の役割』ダイヤモンド社
  • 桑田耕太郎・田尾正夫(1998年)『組織論』有斐閣アルマ
  • フレデリック・ハーズバーグ(1966年)『仕事と人間性』東洋経済新報社
  • ヤン・カールソン(1990年)『真実の瞬間』ダイヤモンド社
  • フレデリック・ラルー(2018年)『ティール組織——マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』英治出版

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