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やる気を高めるブライダルの人事設計

はじめに

今回は、ブライダルにおける人事制度や報酬制度を、マズローの5段階欲求説、マクレガーのX-Y理論、ヴルームの期待理論、アダムスの公平性理論、そしてダニエル・ピンクの動機づけ理論(モチベーション3.0)を用いて、内発的動機づけと外発的動機づけの観点から考察していきたいと思います。まずは、これらの理論的枠組みについて簡単に紹介し、とある製造業における取り組みの具体例を挙げ、ブライダルにどのように活かせるかなどを検証していきます。

理論の紹介

マズローの欲求5段階説

人間の欲求は5つの段階に分かれており、下から順に「生理的欲求」「安全の欲求」「所属と愛の欲求」「承認欲求」「自己実現の欲求」とされています。基本的には、下の階層が満たされると、次の欲求が強くなると言われています。

マクレガーのX理論・Y理論

マグレガーは、組織づくりの根本は「人をどう捉えるか」にかかっていると説きました。人間観ひとつで、マネジメントの方針も、働き方も、組織の空気さえも変わってくるという考え方です。やる気を引き出すために、内発的動機づけを重視する考え方です。

  • X理論:人は基本的に働きたがらないので、管理や指示が必要(アメとムチ)
  • Y理論:人は自ら働く意欲があり、自己実現のために自ら行動し問題解決する(自主性尊重)

報酬制度がどちらを前提に設計されているかで、働き方も変わってきます。現代社会においては、Y理論を主体として組織管理が望ましいとされています。

ヴルームの期待理論

人がやる気になるかどうかは、3つの要素が関係していますという理論です。なぜ、そにに対してやるきがでるのかの、「なぜ」の部分がこの理論からは明らかになります。

  • 期待(Expectancy):がんばれば結果が出ると思えるか
  • 道具性(Instrumentality):結果が出れば報酬がもらえると信じられるか
  • 誘意性(Valence):その報酬を自分が欲しいと思えるかどうか

この3つがそろってはじめて、行動に移そうという気持ちが高まるとされています。

アダムスの公平性理論

具体的には、自分がもらっている報酬と、そのために使った労力や時間が、他の人と比べて釣り合っているかどうかが大切、という考え方です。それが不公平だと感じると、やる気を失ったり不満がたまりやすくなります。また、他との比較における自分の仕事量に対して報酬が多すぎても実は逆効果という研究結果が出ています。つまりは、「釣り合っている」ということが重要なわけです。

ダニエル・ピンクのモチベーション3.0

またD・ピンクによると、アメとムチでは人は本質的に動かない、という考えのもと、次の3つが現代のやる気の源だとされています。

  • 自律性(Autonomy):自分で選べること
  • 熟達(Mastery):うまくなっている実感
  • 目的(Purpose):意味や貢献を感じられること

特に「選べること」は、やる気の源として大きな意味を持つとされています。

外発的動機づけと内発的動機づけの違い

ここで何度か出てきた、「外発的動機づけ」と「内発的動機づけ」にも触れておきましょう。

ここまで紹介した理論を踏まえると、「人がやる気になる理由」は、大きく外発的動機づけ内発的動機づけに分けられることがわかります。

外発的動機づけとは、報酬や評価、罰則など、外からの刺激によって行動が促されるものです。一方、内発的動機づけは、興味や好奇心、やりがいなど、自分の内側から生まれるエネルギーによって動く状態を指します。

それぞれの違いは、以下のように整理できます。

たとえば、インセンティブ報酬や昇進といった制度はわかりやすく即効性がありますが、その反面、効果が持続しにくかったり、コストがかかるという側面もあります。

一方、内発的動機づけは、得意分野の仕事を任されたり、前向きなフィードバックを受けることで高まりやすく、自発的な行動につながります。ただし、効果の出方に個人差があり、設計が難しいという課題もあります。

実際の制度設計においては、この2つの動機づけをどう組み合わせていくかが大切です。次に紹介する製造業の事例では、外発的報酬をベースにしながらも、内発的なモチベーションが引き出されていった好例です。

製造業の「安全改善提案」のインセンティブ制度

内容

とある製造請負企業の取引先で、安全改善に関するアイデアを募集し、1件採用あたり500〜5,000円の報酬を月毎に支給する制度を導入していました。さらに、年間で最も多く採用された班には社長賞が授与されます。社員・派遣・請負といった雇用形態にかかわらず、全作業者が平等に参加できる点がこの制度の大きな特長です。

効果

このような制度設計により、作業者や班の多くは金銭的報酬よりも「社長から直接表彰される」という名誉に強い価値を見出すようになりました。実際その請負先にとっても、社長賞の受賞により、取引先におけるプレゼンスが高まるため、大きな意味を持つインセンティブでした。特に、この取引先では「安全はすべてに優先する」という社是があり、社長賞の受賞はその模範と見なされるため、大いにモチベーションが向上しました。

機能した理由

この制度が機能した背景には、マズローの欲求段階説における「承認欲求」の充足があります。また、制度の設計は報酬という外発的動機づけを基盤としたX理論に基づいていますが、社長賞の存在により、単なる報酬以上の作業者の主体的な提案行動を引き出すことができました。これは、Y理論に基づく内発的動機づけが有効に機能したからだと考えられます。実際、その請負先はこの動機づけが大いに働き、他の班と比べて際立ったアイデア採用件数を記録しました。

期待理論による補完


一方で、こうしたインセンティブ制度が常に効果を発揮するとは限りません。例えば、とある企業が派遣社員に対して昇給を前提とした正社員登用を提案したところ、本人がこれを固辞した事例がありました。このようなケースは、マズローのような段階的欲求理論だけでは十分に説明できないため、ヴルームの期待理論による補完的な解釈が有効と考えられます。期待理論では、動機づけを以下の3つの要素で捉えます。

  • 期待(Expectancy):努力すれば目標が達成できるという認識
  • 道具性(Instrumentality):目標達成によって報酬が得られるという確信
  • 誘意性(Valence):その報酬を魅力的だと感じるかどうか

この派遣社員の場合、努力によって正社員登用されるという「期待」、および登用によって昇給が得られるという「道具性」は満たされていたと考えられます。しかし、本人にとってその報酬はライフワークバランスほど魅力的ではなく「誘意性」が低く、動機づけにはつながりませんでした。またこの現象は、昇給による業務負担の増加を忌避する損失回避バイアスや現状維持バイアスといった認知心理学的要因からも説明が可能です。

インセンティブのリスクと対策


なお、インセンティブ制度には、時間の経過とともに制度疲労が生じたり、提案行動が目的化するなどのリスクがあります。なので、そうしたリスクにも目を配らせておく必要があります。インセンティブのリスクとして、形骸化を防ぐためには、制度設計の段階で期間設定を設けるなどの対策が重要です。なお、製造業における「安全改善提案」のインセンティブは、ブライダル業界などにも「プランニング改善提案」「サービス改善提案」などで応用可能です。

また、あえてインセンティブを導入しないという判断も有効な選択肢です。

たとえば弊社では、施行におけるウエディングプランナーへの報酬は案件ごとの固定報酬を基本とし、売上や評価に連動したインセンティブは原則設けていませんこの仕組みにより、過度な売上プレッシャーからの解放や報酬格差の解消、顧客満足の追求が可能となり、結果として売上向上や人材定着につながっています。

なお、プランナーの報酬単価は雇用に比して高く設定しており、この点で一定のインセンティブ性を内包しているともいえます。さらに、報酬や自律性( D・ピンク)のいずれを重視するかは、期待理論が示すように個人の主観的認知によって異なりますしたがって、個人差に応じた柔軟なインセンティブ設計と選択可能性も非常に必要になります。またアダムスの公平理論が示すように、報酬と仕事量が等しくなる点が仕事の満足度という観点も重要です。

効果的なインセンティブの例

では、具体的にどのようなインセンティブがブライダルにおいては効果的なのでしょうか?最後にそれに触れておきたいと思います。

弊社が考える、有効なインセンティブとは、「インセンティブの選択自体に自己決定権を与える制度」です。インセンティブの選択に自己決定権を持たせることは、各人の主観的認知に基づく「誘意性」を高める点で、期待理論の枠組みと一致します。さらに、選択の裁量があること自体が、「自律性」にもつながり、内発的動機づけを高める効果も期待できます。

具体的には、「ブースト出勤手当」「土日祝の休暇」「教育投資」を選択できる制度です。ホテルやブライダルなどのサービス業は、土日祝が休めないこと、そして給与の低さが退職理由につながることが多いです。そこでこの不満を逆手にとります。

ブースト出勤手当

ある従業員にとっては、積極的に勤務することが、追加の報酬を得る機会となりインセンティブになります。ただし、休暇を取得する従業員分の働きも求められるため、時給換算で通常出勤の1.5倍増の報酬を支給します。

休暇

ある従業員にとっては、土日祝に休めることが大きなインセンティブになる。なので、報酬の代わりに、休暇をインセンティブとして選択できるようにします。

教育投資

将来のキャリアアップを目指す従業員にとっては、自己啓発のための費用を会社が負担することが、インセンティブになります。

おわりに

ここまで、製造業での事例などを通じて、効果的なインセンティブとは何かといったことを、さまざまな理論に照らしながら見てきました。

重要なことは、報酬がモチベーションになる人もいれば、自由度や学びの機会のほうが大事な人もいます。だからこそ、制度をつくる側が一方的に「これがやる気につながるはず」と決めつけず、現場の声や価値観の違いをくみ取ることが必要ということをおわかりいただけたのではないでしょうか。

つまり、インセンティブの制度設計は、「選べる」ようにすることが大事ということです。実際、インセンティブを自分で選べる制度は、ヴルームの期待理論がいう「誘意性」を高めるだけでなく、ダニエル・ピンクが示す「自律性」にもつながります。

ブライダルにおいて、これからの時代の制度設計は、何が正解かを固定するのではなく、変化にあわせて見直せること、 人により選択の余地があることが非常に重要になってきます。ぜひご参考になさってください!

参考文献

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