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ブライダル産業フェア2025に参加して

はじめに

いつもありがとうございます。株式会社永光の高橋龍一です。

2025年6月10日(火)のブライダル産業フェアに参加し、業界の現状と動向を肌で感じることができました。今回はその感想と提言です。

今年もセミナーの内容には、購買心理学に基づいたアプローチが多く取り上げられており、感情労働エモーショナルな接客が強調されていました。確かに、顧客に寄り添い、共感し、感情を動かすことはウエディングプランナーとして非常に重要なスキルです。特に「どうしたら買ってもらえるか」「どうやって集客するか」という問いに対して、感情に訴えかけるアプローチは有効だと感じます。

接客セミナーの疑問点

ただ一方で、購買心理学をベースにしたアプローチが、結婚式というビジネスモデルを俯瞰してみた時に、そろそろ限界に達しているのではないかとも感じました。感情に訴えかけることは重要ですが、顧客の意思決定が冷静で理性的に行われる場面が増えてきており、感情だけでは顧客の購買行動を完全に支配することができない局面が増えていると感じます。

このような時代において、行動経済学の視点がますます重要になってきます。なぜなら、行動経済学の視点を入れることで、顧客の選択や意思決定を単なる感情に頼ることなく、事実やデータに基づいて人間の行動の傾向を理解し、それを前提にした接客が可能となるからです。感情に訴えかけることの重要性はいつにも増して大事ではあります。しかし、今後は行動経済学の視点を加えて、より理性的なアプローチが求められる時代だと思います。

今後の採用に関して

さらに、大手ブライダル企業2社の人事部長のセミナーにおいては、中途採用が非常にハードになっている現状を聞き、改めて今後の採用戦略についても考えさせられました。新卒一括採用は依然として有効ですが、中途採用については、報酬や安定性を重視する傾向が強まっており、今後は業務委託やジョブ型雇用へのシフトが求められると感じています。

今回のブログではこれら二点に関して、考察していきたいと思います。

1. 購買心理学とその限界

購買心理学は、顧客の感情に訴えかけ、購買行動を促す理論です。セミナーでも多く取り上げられていましたが、感情的な要素を動かすことが重要だという点には強く共感します。顧客が感情的に動くことで、最終的な購買行動を促進するためのテクニックは確かに有効です。しかし、購買心理学が顧客個々の感情を重視する個別性の高いアプローチであるのに対し、行動経済学はさらに進んで、顧客行動を構造的に捉えます。これにより、より再現性の高い接客の視点をもつことができます。

購買心理学の代表的なモデル

  • AIDMAモデル(Attention, Interest, Desire, Memory, Action)
    顧客が購買に至る過程を示す基本的なモデルで、最初に顧客の注意を引き、その後に興味を持たせ、欲求を引き出し、記憶に残すことで最終的に行動を促します。このモデルは、ウエディングプランナーとして顧客の心を動かし、感情的なつながりを築くために活用できます。
  • AISASモデル(Attention, Interest, Search, Action, Share)
    特にインターネットでの消費者行動に適したモデルで、顧客が検索をし、最終的に行動を起こす過程を示します。現在、顧客はオンラインで情報収集を行い、その後来店や契約に至るため、このモデルを意識した接客が有効です。
  • 8段階モデル
    顧客の購買行動を細分化し、注目、興味、連想、欲望、比較検討、信頼、行動、満足に至るまでの段階を示します。ウエディングプランナーとしては常に、この段階を把握し、顧客の各段階に応じた適切な対応を行うことが大切です。

2. 行動経済学とその必要性

このように購買心理学がお客様の感情に働きかけ、購買意欲を高めるための考え方だとすれば、行動経済学は、同じ「感情」という要素に目を向けつつも、その捉え方と活用の仕方が大きく異なります

行動経済学が教えてくれるのは、人が何かを決めるとき、いつも論理的に考えているわけではない、という現実です。むしろ、無意識の感情や、ある状況で誰もが陥りやすい心理的な「偏り(バイアス)」によって、その判断が大きく左右される、ということが明らかになっています。つまり、感情がどのようにして、一見すると合理的に見えない行動につながるのか、その仕組みを深く掘り下げていきます。

この行動経済学の視点を取り入れることで、ウエディングプランナーの仕事における接客を、より深いレベルで理解できます。そして、経験や勘だけでなく、誰もが実践でき、より良い結果につながる接客のヒントが得られます。

行動経済学の応用

行動経済学の視点を採り入れることで、お客様の感情を動かすヒントやポイントをもっとロジカルに理解することができます。

構造的に考える大切さ

お客様が何かを決める時、その背後には感情だけでなく、さまざまな要素が影響しています。行動経済学では、たとえば周りの人の意見、提案の仕方、情報の見せ方など、もっと広い視点でこれらの要因を捉えます。これにより、私たちウエディングプランナーは、単に感情に働きかけるだけでなく、お客様がなぜその選択をするのか、その「道のり」を構造的に理解できるようになります。

例えば、人は「みんなが選んでいるから」という単純な理由で、物事に興味を持つことがあります。これは、周りの意見(社会的影響)が意思決定に影響する典型例です。行動経済学の視点があれば、こうした普遍的な心理を読み解き、より体系的に、誰もが実践できて結果につながる接客ができるようになります。

人は「なんとなく」で決める?

特に私たちは、常に合理的に物事を判断しているわけではありません。時に、「なんとなく」とか「こっちの方が良さそう」といった感覚で決めてしまうことがあります。そうした人間の「非合理的な判断」の背景には、ある共通のパターンがあることがわかっているんですね。

たとえば、こんな経験はありませんか?

  • アンカリング効果: 最初に見た高い価格が基準となって、その後の価格が安く感じられる効果です。もし最初の見積が「300万円」と提示された後で「200万円」の見積を見せられると、「あれ、意外と安いかも?」と感じやすくなります。
  • 選択過多効果: 魅力的な選択肢がたくさんありすぎると、かえってどれを選べばいいか分からなくなり、「また今度にしよう」と決断を先延ばしにしてしまうことがあります。例えば、見積も種類や選択肢が多すぎると、お客様の判断にも迷いが生まれます。

誰もが理解できるわかりやすい例でいうとこのような感じとなりますが、こうした人間の無意識のクセや傾向を理解すれば、お客様が納得感をもって自分自身で冷静に判断できるような、より効果的な接客ができるようになります

3. 組織心理学と感情知能(EI)、そしてチャルディーニの6原則

さらにその他にも、ウエディングの接客では、チャルディーニの6原則という組織心理学から生まれた考え方と、お客様の気持ちを察して適切に対応する能力である感情知能(EI)がとても大切です。これらを理解し、活かすことで、お客様との間に確かな信頼関係が生まれ、より良い接客につながります。

返報性

お客様目線で行動すると、お客様のなかでは「お返しがしたい」という気持ちが生まれ、成約などにつながる可能性が高まります。この原則を意識して、お客様に「良いウエディングプランナーに当たったな!」と感じていただく意識づけだ大事となります。

一貫性

人は一度小さな約束や決定をすると、その後もその方向で行動しようとします。たとえば、お客様が「料理が美味しいのが決め手」と考えていれば、実際試食などに納得すれば、「ここに決めよう」という大きな決断につながることがあります。もちろん、そんな単純な話ではないですが、こうした心理的傾向があるという大枠を理解することが大事です。

社会的証明

多くのお客様が選んでいたり、良い評価をしていると知ると、人は「安心できる」「自分もそうしたい」と感じやすくなります。お客様の声や参列ゲストの声などを積極的にご紹介することで、その会場やプランナーへの信頼性が高まり、成約の決め手へとつながります。

好意

お客様がプランナーに対して親しみを感じたり、好意を持ってくださると、「この人から買いたい」とその後の決定に大きな影響を与えます。これは、接客においてもっとも大事な要素ともなります。

権威

ウエディングプランナーとしての専門性の高さや実績をきちんと示すことは、お客様に抜群の安心感を与えます。例えば、「グッドウエディングアワード2024のファイナリストに選ばれました」などが挙げられます。接客武器として、この「権威」は信頼醸成に非常に重要な要素です。

希少性

ことさらに日程の希少性などを煽り立てることはダメですが、それでも顧客心理として希少性に価値を感じるというのは真理です。接客においては、顧客目線でこの希少性を訴求し伝えることが非常に効果的と言えます。

接客に活かす感情知能(EI)と組織心理学

上記の6原則は、少しテクニカルな要素を含む項目も多いですが、テクニックの前により大事なのは、「人間力」となります。それを表すのが感情知能(EI)です。EIは、ウエディングプランナーとしてお客様との接客に欠かせない能力です。自分の感情を理解し、適切にコントロールする自己認識・自己管理、そしてお客様の気持ちを察する社会的認識、そこから良い関係を築く関係管理という4つの要素を高めていくことで、お客様の感情に寄り添い、状況に合わせた対応ができるようになります。お客様がどんな気持ちでいるのかを深く理解し、それに応じた接客ができれば、チャルディーニの6原則の「好意」が働きます。

そのうえで、ほかの5つの原則を駆使していき、行動経済学の視点から人間の思考のクセや不合理な判断をする前提のバイアスなどを理解することで、感情面に寄り添いつつもロジカルな接客ができる力が身についていきます。

4. ジョブ型雇用の導入と採用戦略

また話が少し変わりますが、冒頭でも説明した通り、産業フェアにおいては、プランナーの採用に関するセミナーもありました。ウエディングプランナーの採用において大手2社の人事部長が、「中途採用が非常にハードになっているだから新卒に注力している面もある」とお話されていました。

この理由を考察します。

中途採用がハードな理由

まず中途採用は、なぜ難航するのでしょうか?

それは、中途採用者が求めているのは、報酬や安定した職務内容であり、そうした物理的欲求や安全の欲求が満たされていないと、「夢」や「やりがい」などの内発的動機づけが通じにくいからです。これはマズローの欲求五段階説に照らし合わせると、最下層の物理的欲求が先に満たされない限り、やりがいや「夢」といった内発的動機はなかなか機能しないということです。「採用がハード」の本質は、まさにこれに起因していると思います。

新卒採用が相対的にしやすい理由

一方で、新卒採用においては、「夢」や「やりがい」が通じやすく、それを彼・彼女らの自己実現欲求に訴えることが可能です。その意味で、大手においては新卒一括採用は依然として有効ということです。なので、特に人員確保の面では引き続き高い効果を発揮するため、これを主軸として採用活動を行うことは理にかなっています。

そのため今後は、中途採用に関しては、金銭インセンティブ責任範囲を明確にし、業務委託やジョブ型雇用に完全にシフトするべきでしょう。もちろん、カルチャーフィット企業理念との適合性を重視し、社会的欲求も満たす必要がありますが、難航している中途採用市場においてはジョブ型雇用もしくは業務委託契約が今後の採用市場において最もフィットする形態となっていくと思います。

おわりに

これまで見てきたように、ウエディングプランナーとして接客レベルを向上させるためには、感情に訴えかける購買心理学に加え、お客様の行動の背景にあるメカニズムを理解する行動経済学の視点が今後は特に不可欠です。感情的な側面を大切にしつつも、データや論理に基づいたアプローチを組み合わせることで、お客様の意思決定を構造的に理解し、より再現性の高い、質の高い接客が可能になります。

また、人材確保の面では、新卒採用を主軸としつつ、中途採用ではジョブ型雇用や業務委託へのシフトが、変化する市場に合わせたますます最適な採用戦略となるでしょう。

今後のブライダル産業フェアのセミナーなども、これらの視点のセミナーがもっと増えることを期待します。

参考文献

  1. ダン・アリエリー(2013)『予想通りに不合理』ハヤカワ・ノンフィクション文庫
  2. ロバート・チャルディーニ(2014)『影響力の武器』誠信書房
  3.  Daniel Goleman『Emotional Intelligence: Why It Can Matter More Than IQ』Bantam; Revised版

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